第109話 来訪者 ~岱胡 2~
「何度も同じことを言わせないでください! 五日目に確かに鳥の式神が来て、先に帰還するよう指示をされたんです!」
「その式神……メモにはなんて書いてあった?」
修治はその船員に近づくと、冷静なままで問いかけた。
「書いてあった、というか……その式神が言ったんですよ、自分たちは少し用ができたから先に帰還してくれ、と。戻る手段は確保したから、と」
「――言った?」
「ええ、大きな真っ黒い鳥で、男の声だったから長田さんだと思います。それだけを告げるとまたどこかに飛び去ってしまいました」
もう一人の船員が背後からそのあとを継ぐように話し始めた。
「私たちも、そうは言われても少し気になったので、翌日まで待ったんですけど……結局二人とも戻ってこないし、戻る手段も確保したというんだから、ということで向こうを離れたんです」
「そうか……わかった。引き止めてすまない、仕事に戻ってくれ」
修治は口もとにこぶしを持っていった格好のまま、数秒、考えてから船員たちにそう言った。
収まらなかったのは隊員たちで、麻乃の隊の小坂が今度は修治に喰ってかかっている。
「安部隊長! なんでもっと突き詰めないんです? あんな……理解できない、納得のいかない答えで……」
「小坂、落ち着け。あの二人が術を使えないなんてことは、あの人たちには知りようのないことだ。この件で責めるわけにはいかない」
「ですが――!」
修治はこちらに向かって手招きをすると、小坂の肩をつかんで三人で額を寄せた。
「小坂、防衛の準備のほうはどうなってる?」
「あ……ええ、さり気なく五番隊のやつらにも防衛の強化をさせてありますけど……」
修治はそれにうなずくと、今度は岱胡を見た。
「岱胡、北浜のおまえの部隊、きっとそっちも準備は始めていると思うが、尾形さんと連絡を取り合って今の状況を急ぎ確認してみてくれ」
「はい。わかりました」
「簡単な話しは高田先生にはしてある。本当なら軍部で報告したことも資料であがってくるが、今は無理だろう」
小坂にも高田から話しが通っているからか、修治の言葉に大きくうなずいた。
「今夜……十時におまえたち古株だけを集めて道場へ来てくれ。まずはおまえたちと詰めておかなければならない話しがある」
「わかりました……」
「俺と岱胡はそのあと、ほかのものにも話しが通りやすいよう、大陸で起きたことを資料に起こす。岱胡、いいな?」
「もちろんッス」
「ほかのやつらに話しを通すのは二日後、そのときには各詰所に速やかに連絡が取れるようにしておいてくれ」
全員が集まって打ち合わせるとなると嫌でも目立つ。
軍部から横槍が入るのは免れないだろう。
目立たず、且つ速やかに準備を進めていくとなると、すぐに連絡手段を確保するのも厳しい。
となると、二日の猶予を持つのは適正かもしれない。
(それにしても……)
二人が術を使えないのは確かなのに、式神があらわれたとはどういうことなんだろう……?
考えてみたところでなにも思い浮かばず、仕方なしに監視隊の彼女へ連絡を入れた。
北区の尾形と連絡を取り合うには、テントウ虫では時間がかかり過ぎるから。
まずは茂木に繋ぎをつけてくれるように頼み、そこから尾形へと通じるようにしてもらうことにしよう。
「安部隊長、すぐそこまで上層が来ています、堤防からだと間に合わないので岩場から砦のほうへ回ってください」
麻乃の隊の矢萩が駆け寄ってきてそう言った。
「わかった。俺と岱胡は宿舎に戻っている、なにかあったらすぐに知らせてくれ」
「はい」
修治のあとについて岩場をのぼり、崖沿いの道を砦まで走った。
体を低くして茂みに隠れ、木々の間から海岸をのぞき見ると、上層の連中が隊員たちとやり合っているらしいところが見えた。
昨日のことといい、上層にも神官にも心底腹が立っていた。
普段はそんなに感情に振り回されたりしないけれど、今度ばかりは抑え切れない思いが先行している。
(絶対、俺たちのほうが正しいってことを思い知らせてやる……)
そう思った。
修治と二人、宿舎にこもると、思い出せるかぎりの大陸での出来事を追ってつづった。
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