離反
第108話 離反 ~麻乃 1~
会議に出席をするため、麻乃は早いうちに西区を出た。
杉山に運転を頼み、新人の
会議のあいだに必要な書類や資料を、軍部の部屋から持ってきてもらうためだった。
宿舎は引き払いを済ませ、西区へ移る準備はほぼ完了した。
どうしても中央に残らなければならないときには、軍部の部屋にあるソファで休めるように最低限の寝具も用意してある。
(今日を……今日さえ乗りきれれば、あとはなんとでもなる)
ほかのみんなは、もう着いているようで見慣れた車が並んでいる。
「それじゃ、二時間はかからないと思うから。適当になにか食べて、荷物を積んだら悪いけどここで待っててよ」
「わかりました」
杉山に持っていく資料のリストを渡して、会議室へ向かう。
ちょうど上層たちが入るところに出くわし、麻乃が席に着くと同時に会議が始まった。
視線を感じて目を向けると、修治がなにか言いたげに麻乃を見ている。
資料を読むふりをして、目線を外した。
読み返さなければならないようなことは、なにもない。
大陸に出ていた諜報員たちは、一度引き上げてきたと言う。
全員が無事に戻ったそうだ。
「まずはロマジェリカですが、マドル・ベインと言う若い軍師が庸儀との同盟に大きく関わっているようです。まだ二十歳という年齢でありながら軍で一番の部隊をあずかるほどです」
一人目が報告書を読み上げる。
「大陸では、二番目に大きな領土を持っていますが、なにぶん枯れた土地ですので、王族にさえも十分な食料が行き届かないようです。そのせいかは不明なのですが、近ごろ、庸儀国境付近の村がいくつかつぶれているようです」
「それは
諜報員に梁瀬が問いかけた。
「恐らく……想像の域は超えませんが」
梁瀬と修治が視線を合わせてうなずきあっている。
「それでも庸儀、ヘイトと同盟を組んだことで、最近は物資も少しずつ回っているようです」
「庸儀のほうですが、こちらはクーデターで政権が交代しているのですが、現王には身内と呼べるものはいません。そのそばには常にジェ・ギテと言う赤い髪の女性がいます。ロマジェリカに同じく、物資、食料ともに国内では
「要するに、王と女だけが贅沢な暮しをしてるって訳ね」
巧が眉をひそめ、嫌悪感をむき出しにして言った。
「前王のころからずいぶんと贅沢をされていたようで、王族はジェを遠ざける算段を付けていた矢先にクーデターに合ったようです。首謀者はジェではないかとの噂が密やかに流れていました」
諜報員は、そうつけ足した。
「前王の支持者たちが処刑されたってんなら、その情報に間違いはないだろうな」
徳丸が独り言のようにつぶやき、岱胡が隣でそれに相づちを打っている。
「ヘイトですが、こちらは同盟に対して、軍のものがかなりの人数で、反対の意思を示したようです」
「あの国には、なんだか変な部隊があったけど、そいつらはどうなったんスか?」
「恐らく、反同盟派に属していたようで、同盟が結ばれてすぐに姿を隠しています。その直後でしょうか、庸儀から手が入り逃げ遅れた反同盟派のものが処刑されています。王が相当に嘆き、止めに入ったようですが聞き入れてはもらえなかったようです」
岱胡の問いかけに答えた諜報員が、さらに続ける。
「ヘイトの王は、どうも気が弱いところがあるようで、二国から物資も食料も相当な量を吸い上げられています。同盟とは名ばかりで、その実吸収といった感じでしょう」
三国の力関係がハッキリと見える気がした。
一番領土の小さなヘイトが物資を吸い上げられても、辛うじて持ちこたえているのは、領土内に比較的大きな水場と森林が残っているからだろう。
「最後にジャセンベルですが、こちらはその国土の大きさもあってか、他国に比べるとまだ物資も食料もそれなりに生産できているようで、国民にも飢饉が起きるほどまでは至っていません」
「あの国も土地は荒れているけれど、それなりに植物や動物も生息が見られるのよね」
毎年、豊穣の儀でジャセンベルへ出ている巧が、視線少し上向きにして言った。
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