第100話 疑念 ~麻乃 2~
「比佐子からも聞いただろうけど、どこにいても、まずは川に出るんだよ」
暗くなると動く班が減るため、移動しながら話していても、そう簡単に他の班と出くわすことはない。
その代わり、とどまっている班を探して動いている師範数人と行き合った。
数分、移動して川に出た。
「あの場所は、この演習場で一番てっぺんにあるから、川を見つけたら必ず上流に向かえばいいんだけど」
里子に岩場で待つように指示をし、麻乃は靴を脱いだ。
「移動の前に、ちょっと食材を調達していこう。あんたも食べてる途中だったでしょ? あたしも実は腹ぺこで」
そう言って川に入る。
浅めの水面に魚の背がキラキラと見え、小さめの岩に登ると、武器の電流を最大にして川面に突き立てた。
痺れて浮いた魚を麻乃は次々に武器で川岸に弾き飛ばし、里子に向かって言った。
「そこら辺の小枝で串打ちして持ちやすいようにしてよ」
「あ、はい!」
里子が枝を拾いに走っているあいだに、もう一度繰り返して魚を獲ってから靴を履き、一緒に串打ちをした。
「この獲りかた、反則技だからさ、みんなには黙っててね」
苦笑いで麻乃が言うと、里子はクスリと笑ってうなずいた。
荷物を全部持ち、川沿いを歩きながら、ポイントになる場所を教えて歩く。
本当はもっと連れてきてあげたかったけれど、日数を考えると今回はこれが最後かも知れない。
そう思って、場所をしっかり覚えさせるために、少しだけゆっくり歩いた。
洞窟に着くと、比佐子が中で食事の準備をしていて、麻乃を見て立ちあがった。
「遅かったね」
「ん、思ったより遠くにいたよ。それと食材の調達もしてきた」
「さすが。やるじゃないの」
比佐子はそう言って受け取った魚を焚火の周りに刺して並べた。
「二人とも大きな怪我もないみたいだし、体調も悪くはないよね?」
香織と里子にたずねると、二人とも元気そうな返事をした。
香織のほうは二十三歳で予備隊である程度の経験もあり、それなりに安心できたけれど、里子のほうはまだ十八歳で、経験も浅いことが心配だった。
「私たちよりも、麻乃隊長は怪我、大丈夫なんですか?」
香織の問いかけに、麻乃は比佐子に視線を移した。
比佐子は目が合うと、首を横に振ってみせてから二人に聞いた。
「あんたたち、どっからそれを?」
「どこから……というか、なんとなく班同士のあいだで話しが回ってきて……」
「ガルバスを倒すなんて、さすがうちの隊長だ、って杉山さんが言ってましたよ」
呆気にとられ、麻乃は言葉が継げなかった。
あんな怪我を負ってしまったのに、さすがもなにもあったもんじゃない。
比佐子は焼けた魚と煮込まれたスープを配って寄越し、麻乃の肩を引き寄せると、二人に向かって言った。
「このチビちゃんはねぇ、腕が立つからって無茶なことばかりするのよ。いつもは無傷で済んじゃうんだけど、たまに怪我をするのよね。あんたたちみんなでよ~く見張ってて。無茶なことをしたときには、叱ったり手を貸したりしてやってよ」
「チビちゃんは余計だよ」
ムッとして比佐子の頬をつまんで引っ張った。
「食べたら少しゆっくりするといいよ。湯につかって仮眠を取ってもいいしね。陽が昇る前にここを出たら、またキツイ演習なんだからね」
「そうそう、こんなふうにしていられるのも今だけよ。私たちもあんたたちと同じころには、ここへ来たときだけは本当にのんびりしたんだから」
「いつかどこかの隊に、女の子が入ったときには、あんたたちがこうやって、その子たちに引き継ぎをするんだよ」
麻乃は比佐子と視線をかわした。昔を思い出し、二人を見てほほ笑んだ。
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