第59話 それぞれの想い ~鴇汰 1~
会議の翌日。鴇汰は今日から西詰所で一緒になる梁瀬とともに、西区に戻ってきた。
普段はまったく運転をしない梁瀬が珍しく自分から運転席に乗り込んだのを見て、なんの疑問も抱かずに助手席に乗ったけれど……。
今回、梁瀬の運転で一緒に乗って、今までみんなが梁瀬にハンドルを握らせなかった理由が良くわかった。
とんでもなく運転が荒い。
ただでさえうねりの多い山道を、嫌というほどタイヤを軋ませ、車体を揺さ振って走り続けてくれる。
たいていのことは平気な鴇汰でも、さすがに気分が悪くなり、森の片隅にいったん車をとめてもらって一息ついた。
木陰にしゃがみ込むと、ここから先は絶対に自分で運転しよう、と決めた。
梁瀬と乗るときは決してハンドルは渡さない。
徳丸と巧、そういえば岱胡も絶対に運転席を譲らないでいた。
誰だって命の危険を感じれば、そうするだろう。
梁瀬は満足そうに伸びをして、大きく深呼吸をしたり体を動かしたりしている。
まったく呑気なもんだ。
「あれ?」
梁瀬の動きがとまり、早足で鴇汰のそばまで戻ってきた。
「なんだよ? どうかした?」
梁瀬は唇に人差し指を当ててみせると立ち上がった鴇汰の背中を押して木陰に隠れ、西詰所に続く道のほうを指差す。
修治が歩いてくるのが見えた。
どういうわけか正装をして、肩に大きな花束を抱えている。
「なんだ? あいつのあの格好……」
唖然としてつぶやくと後ろから梁瀬が問いかけてきた。
「見間違いかと思ったんだけど、やっぱりあれって修治さんだよねぇ?」
「と、思うぜ?」
ヒソヒソと話しながら、もう一度そっとのぞいてみると、修治はそのまま砦の方角へと向かっていった。
その姿が見えなくなると、梁瀬は木陰からでて、あとをつけてみよう、と言った。
「ええっ? 悪趣味だろ? それ」
思わず声が大きくなる。
振り返った梁瀬が、シーッと指を唇に当てて鴇汰を睨む。
「だって向こうには砦しかないよ? あの格好、しかもあの花束。鴇汰さんは気にならない?」
確かに、まったく気にならないと言えば嘘になる。
修治にしては無防備に見えるのもなにか変だ。
梁瀬のほうは楽しんでいるかのように、しっかり尾行の体制に入っている。
こういうときは、このオッサンの行動はすばやい。
好奇心には勝てず、歩き出した梁瀬のあとを追った。
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