第7話 西浜防衛戦 ~鴇汰 1~
フッと深くため息をつくと、第五部隊隊長の
なぜだか今日は、ジャセンベルの艦隊が遠ざかるのが、やけに早く感じる。
『今日のところは俺の負けだ』
最後に斬り結んだとき、ジャセンベル軍の指揮官であるレイファーは、鴇汰に向かって
「ふん――。今日は、じゃなくて今日も、だろうが。これからだって俺は負けねーよ」
今にも水平線の向こうへ消えそうな敵艦に向かい、鴇汰はつぶやいた。
なんの縁があるのか、鴇汰の部隊はジャセンベルとの戦いが特に多い。
必ず前線に出てくる敵兵の顔と名前も、いい加減覚えてしまった。
毎回毎回、堤防の向こう側へは一歩たりとも踏み入れさせないのに、やつらは何度でも泉翔へ渡って来る。
まったくご苦労なことだ。
長年の戦争で大地は枯れ果て、資源も食糧もつきかけている大陸の人間にとっては、豊かな自然があふれるこの島が宝の山にでも見えるのだろう。
かつては大陸で暮らした鴇汰にも、その気持ちがわからないわけでもない。
(だけどそんなのは、単なるないものねだりだ)
くだらない戦争を続けていないで再生を図れば、泉翔とおなじくらいの緑や資源を手にすることができると、大陸の奴らは知っているはずなのに。
ないものはあるところから奪ってでも手に入れようという大陸の国々の安易な考えかたが、鴇汰は大嫌いだった。
幼いころ、逃げるようにこの国に渡ってきてから、島を大切にはぐくんで人々の暮らしを守ろうとする信念に触れた。
それ以来、鴇汰自身も心からこの国を愛おしいと、守りたいと思いはじめた。
だからこそ、厳しい訓練にも耐えて腕をあげ、蓮華の印を受けてからは、幾度となく防衛を果たしてきた。
なにがあっても、どこの誰が攻めてこようとも、この国を守っていこうと決めた。
俺は絶対に負けたりしない。
「さて、と……動けるものは、怪我したやつらを医療所まで連れていってやってくれ」
堤防を振り返ると、隊員たちを集めて指示をだす。
幸いにも今回の戦いで部隊内で死者はでなかったし、戦士として戦えなくなるほどの怪我を負った隊員もいない。
それだけでホッとする。
「鴇汰さん!」
「おう、岱胡。今日は援護、ありがとうな」
全力で駆けよってきて、肩で息をしている第三部隊隊長の
「おかげで俺んトコも予備隊も、大した怪我もなかったし、誰も死なずにすんだよ。おまえんトコはどうよ?」
「うちも平気ですけど……そんなことより、北詰所から連絡が……すぐに西浜へ向かうようにって……」
「西浜? なんでよ? 今日はあっち、誰が詰めてんのよ?」
「修治さんと麻乃さんです」
「なんだよ、あいつらが出てんなら、なんの問題もないだろ?」
「それが、なにやら様子がおかしいんスよ。情報、少ないんスけど、ロマジェリカの軍勢がすごく多いらしいって……」
「俺らが援軍にでなきゃなんねーほど多いってのかよ? それに、ここからじゃ移動にかなりの時間が……」
言いかけた鴇汰の言葉をさえぎって、岱胡はとにかく急げとまくしたてる。
「こっちには、徳丸さんが交代で向かってくれているそうです。第一のやつらが乗ってくる車で、そのまま西浜に向かって必要なら援護に入れって指示っスから」
蓮華の一人で、第一部隊隊長の
それが後処理とはいえ駆り出されてくるとは――。
「俺とおまえんトコから二十ずつ。合計四十いればいいだろ。動けるやつを集めてくれ。すぐにな」
「わかりました」
蓮華の中でも、第四部隊隊長の
いつも癪に障るほど、防衛を楽にこなしている。
それなのに――?
出ていったところで移動に時間がかかりすぎる。
着いたころにはすべてが終わっていそうなものなのに。
(だいいち、あいつらが出てるのに援軍をださなきゃならないほどって、どういう状況なんだ?)
数が多いという以外、なんの情報もないぶん、不安と焦りでイライラしてくる。
西浜の方角に目を向けても、この北浜からではなにも見えない。
遠くから低いエンジン音が響き、オフロード車と三台の幌つきのトラックが姿をみせた。
「鴇汰、話しは聞いているな? 休みで中央にいた梁瀬と穂高も向かったらしいが、どうも情報がはっきりしない。とにかく急いでみてくれ」
徳丸は車の助手席から降りてくると、手早く隊員たちに指示をだしながら、後処理を始めた。
「ええ、予備隊は残していくんで、トクさん、すみませんけどあとを頼みます」
鴇汰は集まった隊員たちをトラックに振り分けて出発させると、岱胡とともに車に乗り込み、アクセルを踏んで一気にスピードを上げた。
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