赤ずきんは逃げ続ける。

@Neno

第1話

2月1日


みなさんこんにちは!俺、ヒナタです!

突然の自己紹介で、なんだコイツと思っている方もいると思うんですが、俺自身、何やってんだと思ってるんで仲間ですね!ハイタッチとかしちゃいます?

テンションがバカになっているので、温かい目で見てやってください!そうなってないとこの状況、ちょっと乗り越えられそうにないので…。

とりあえず、今日起こったことを記録しておいたので、それでも見ていってください!

…自分の記録帳なのに自己紹介から入って、誰かに向けて書くわけでもないのにこの書き方は痛すぎないか、俺?まぁいっか。



いつもと変わらない1日だった。

朝起きて、大学に行く支度をして、最寄り駅まで自転車をこぐ。駅に着いたら電車に乗る。

一回乗り換えてからもう一回、大学の最寄駅の一個手前で乗り換える。大学に一番近い出口近くの車両に乗ろうとすると、車両の端から端まで歩くことになるからめんどくさい。

今3両目で、10両目まで歩くんでしょ?長いなー、揺れるなー、転けそー。

そんなことを思いながらどんどん進んでいく。

4、5、6、7両目まで来て、8両目に差し掛かろうとした。連結部分を開けようとして、横に引くとびくともしない。

いやいやいや、誰でも開けられるくらいの硬さにはしといてくれ。ここちびっ子も通ることあるんだぞ?これちびっ子には無理だぞ??

「まもなく△△、△△。お出口は右側です」

何回か横に引いてみるもびくともしない。ガチャガチャやって周りからの目も痛いし、大学の最寄駅にももう着くし諦めるかと思うと、電車が大きく揺れた。

「うわっ」

まずいまずい転ぶ!

バランスを崩して、咄嗟に近くにあるものに手を伸ばすと掴んだのは連結部分の扉の取手。さっきまでであればびくともしなかったため支えになっただろうに、なんでか扉が開き出した。

後ろにある優先席に誰も座っていないのはよかったか?このまま倒れたら恥ずかしいからどうにかしたい。いやもう無理だなこれ。

半分諦め、うまく優先席に座れたら椅子だし痛くないだろうし最高とか思いながら反射で目を瞑った。

結果そのまま、尻餅をついた。…コンクリの上にどさっと。

「痛いっ!コンクリ!?そりゃ痛いわ!なんで!?電車は!?大学に行く途中だったんですけど!?てかここどこ!?痛いし!」

気がついたら車内ではなく外。しかも見晴らしめっちゃいい。いやどこここ??

「いやどこここ??まじでどこ?今所持金1000円なんだけどここ帰れる距離か?え、カードとか置いて来た気がするんだけど??」

はぁ??

マンションやビルが多く立っているから田舎ではなさそう。でも周り見ても特徴的にものはない。まじでどこだよ。

「はぁ???なんかキレそう…」

「…終わった?独り言」

「うわっ!?」

後ろから声が聞こえて、慌てて振り返ると3人の男女がいた。

いや誰。

「こっちも聞きたいし声に出てるよ、キミ」

「すごい独り言だね〜。面白かったよ」

「…はぁ」

「いや、人の顔見てため息つかないでくださいよ」

女子①と女子②と男性ということにしておこう。知らない人だし。

「キミで4人やっと揃ったみたいだ。さっきから屋上の扉が開かなくて下にも降りれないんだよ」

「屋上…。あ、ここなんかの屋上か!どうりで見晴らしがいい!」

「この子結構馬鹿かな?」

「馬鹿っぽいね〜」

「はぁ」

またため息つかれた。なんだこの男。

女子①に手招きされてついていくと、室内に通じる扉があった。そこには、「4人集まれば開く。それまで待て」と書いた紙が貼られていた。

「何これ、無意識の間に脱出ゲームにでも応募してた?」

「キミはしたのかもしれないけど、少なくとも私たちはしてないよ。でも、4人揃ったのに開かないんだよこの扉」

「ポンコツじゃん、運営の人」

条件クリアしたなら開けないとでしょ。トラブル発生か?それならアナウンス欲しいね。

「とりあえず、キミが来るまでに他のメンバーは自己紹介してるからキミもお願いしてもいい?」

「俺、ヒナタです!大学3年生、今度4年生になります」

「ヒナタくんね。わたしはアキ。わたしも大学4年生になるから同い年だね」

「うちはツムギ〜。高校2年生です〜。一番年下かな?」

「…ユウトだ。社会人」

「おー、俺とアキ以外バラバラ。なんで?」

「なんでだろ〜?うちは寝て起きたらここにいたよ〜」

「俺は仕事で、会社の外に出ようとした時だな」

「わたしは学校に行こうと部屋を出た時」

「俺は電車が揺れてバランス崩した時かな」

「みんなバラバラだね〜」

なんなんだ?年齢もここに来る前にしていたこともみんなバラバラ。なんで集められたんだ?

簡単な自己紹介をしても共通点は、ヒナタとアキの年齢が同じことだけだった。屋上に来る前にいた場所もバラバラ。年齢もバラバラ。話しながら共通点を探そうとしていると、ピコンッという音と!マークが目の前にあらわれた。

「うわっ!なんだこれ!?」

「ゲームみたいだな」

「やっぱ何かのゲーム?実は夢だったとかない?」

「俺、きた時尻めっちゃ痛かったから夢ではない」

「浮いてる〜どうなってんだろ、おもしろ〜い」

「能天気か」

浮いている!マークをツムギがつつくと、4人の目の前に画面が表示された。黒いフードを被った人が椅子に座って写っていた。

『こんにちは、もしかしたらこんばんは。

4人揃っているだろうか。

揃っていなかったらゲームが始められないから揃っていることを願うよ。

さて、どうして気がついたらそんなところにいるのか、どうしてこの4人なのか気になっていることだと思う。結論から言うと特に意味はない。無差別に選んだ結果君たちになっただけのこと。

今から始めるゲームは君たち、ここでは赤ずきんとでも言っておこうか。赤ずきんたちを市民が見つけたら赤ずきんの負け。見つからなかったら赤ずきんの勝ちの簡単なゲームさ。

隠れ鬼みたいなものだね。捕まらなかったらセーフ。

でも少し違うのは、捕まったら死ぬということだ。物理的に捕まえられても死ぬ。見つけられても死ぬ。

まぁ君たちだけに死ぬリスクがあるのは不平等だからね。市民の皆さんにもリスクは負ってもらう。

そうだね、4人以外のやつを赤ずきんだと間違えた場合、間違えた市民は死ぬ。単純だ。間違えたら死ぬ。

かと言って、それを怖がって全くゲームが進まないのもつまらない。そして、ゲームなのだからゴールがないとつまらない。だからルールを作った。

1.期間が1か月

2.赤ずきん同士は連絡が取れるが、会うことはできない

3.範囲はT市内

4.市民には少しずつ赤ずきんたちの正体につながるヒントを出していく。

5.赤ずきんの勝利条件は市民に見つからずに逃げ切ること。できなければ死ぬだけ。

6.市民の勝利条件は赤ずきんを全て見つけること。もしできなければ、ゲームが終わった瞬間無差別に人が死ぬ。

どうかな?至ってシンプルだろう?』

フードで顔が隠れているが、口元が笑っている人が画面の中で楽しそうに言う。

「…は?何言ってんだこいつ」

「なんか1人で話し出したと思ったら変なルール説明されたね〜。うちら赤ずきんなの?」

「死ぬとか言われてもね…。ねぇヒナタくん」

「…」

口々に画面に向けて言っていくが、ヒナタだけは静かに画面を見ていた。

『嘘だと思っているだろう。

残念ながら本当だ。しかもこれは政府主導の実験でもある。理不尽な状況で人はどう対応するか。極限状態では?といった実験だ。つまりT市全体が実験場だ。今現在T市にいるものは一ヶ月間市外には出れない。強制参加だ。

まだ嘘と思っている人のために、こんなプレゼントを用意した』

「こう言う場面の定番って爆弾な気がするんだが…」

引き攣った顔で辺りを見回すが爆発などしているところはない。

『爆弾なんて定番、やるはずがないだろう。上を見てみろ』

言われた通りに上を見るが、特に何もない。青空が広がるだけだ。

「何もないな〜」

『あるだろう?東側から飛んできている飛行機が。あれを手始めに街中に落とす。政府主導なんだ。使わなくなった飛行機の1個や2個、捨てることになるなら有効活用しなくては行けないからな」

「は!?」

ちょっと待て?飛行機を落とすって流石に被害が凄まじいことになるぞ!?

「何言ってんだ!?落ちた場所の人が死ぬぞ!?」

『政府主導だと言っただろう。今から一ヶ月T市で何人死のうがただの実験だ。罪にはならない』

「ふざけてる…!」

 ユウトがフードの人物に怒鳴るが、相手からは淡々とした答えしか返ってこない。

『さぁそれでは、あの飛行機が落下したらスタートだ。ここで説明したのと同じ内容を今、T市内のすべての映像画面で流した。市民は市外に出ることができずに強制参加だ。より良い実験結果が得られることを楽しみにしている。それでは』

 そう言ってフードの人物の映像は消えていった。それと同時に、飛行機のエンジン部分の爆発音がする。

「おいおい、本当に落ち始めたぞ…!」

「これ、うちら結構まずいんじゃ〜…?」

「まずいどころじゃないだろ。飛行機が落ちた時点でゲームスタート。本当に落ちたんだからルールの信憑性が増す。俺たち以外が必死に赤ずきんを探すことになる」

「…わたしたちが見つかる可能性が高まるわね」

「いやでもどうやってバレるんだ?赤ずきんサイドは見つかったら負けで、市民側は見つけられなければ負け。俺たちが市民になりすましていればいい話じゃないか?ヒントさえ注意していればなんとかなるだろ?」

「確かに!それなら怪しまれることなく一ヶ月過ごせるね〜」

 ヒナタの言葉に安心したようにツムギが同意するが、ユウトの表情は優れない。

「あれ?ダメだった?ヒントっていうくらいだし直接俺たちを指すようなものは来ないと思ったんだけど」

「ヒントがどこまでのものかわからないからナントも言えないな。とにかく解散したら俺たちはもう集まれないみたいだから、先に方針を決めておかないといけない。あと、連絡先だけでも交換しておこう。何かあったら知らせられるように」

「そうね、そうしましょう」

 ユウトとアキから連絡先を交換し出した。

 ヒナタはボートしたまま動けなかった。

「ヒナタくん?大丈夫?」

「…いや、ユウトさんもアキも飲み込み早いな〜と。現実味ないよ突然こんなこと言われても」

「ほんとだよ〜、まだ夢だったりしないかな〜」

 不安そうなツムギも同意するが、ユウトは落ち続ける飛行機を見て言った。

「無理もないが、現実だ。死にたくなかったら逃げ切るしかない」

そして、ヒナタたちの目の前で飛行機が落ちた。

「…ゲームスタートか…」

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