第28話 スーサイド・コンバット⑤

 その部屋に入った瞬間、既視感が凄かった。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。タキ主任がちゃんと警告しててくれたのに。


 背後で部屋に施錠される音がして、今度はブオンという唸り声を響かせて装置が起動する。そして、部屋の向かい側の壁に赤いレーザー光線が横に一本走った。


 やっぱり、この部屋は製造室だ。


「マナミさん! しゃがんで俺の後ろから動かないで!」


 一度、大きく深呼吸をする。プロモーション動画の撮影で何度もプレイさせられたんだ。落ち着け。俺は左腕の上にハンドガンを置きブレないようにすると、照準を合わせた。自動小銃で精密射撃は苦手だ。


 ドンッ。射出口が破壊され、横に走ったレーザー光線が消える。よし、一つ目。照射パターンはいくつかあったが、最初はどれも一緒だ。


 次は縦だ。予想通りに部屋対して縦にレーザー光線は照射される。次! クソ、外した。二発目で壊す。三つ目以降は回転式だったはずだ。とにかく撃ちまくって射出口を壊して行きながら、タキ主任に助けを求める。


「タキ主任! マズった。この装置、そっちで止められないの?」

『だから言ったのに……そちら側の管制乗っ取られてるから無理だよ……』


 ですよね~。ハンドガンのマガジンを交換する。射出口は縦横それぞれ十二個。半分は壊したが、まだまだサイコロステーキ待ったなしだ。クソ、弾足りるか? 一本ずつだった照射が複数に増える。


「ヨタ君、手伝うよ。少し開けて」


 彼女はそう言って片膝をついて銃を構えると、俺の真似をし始めた。初見のはずのなのにレーザー光線が射出するかしないかの光源だけで、彼女は撃ち壊していく。動体視力ヤバすぎ。さすがすぎる!


 笑ってしまうくらい強い俺の彼女。スーパーソルジャー計画が彼女の代で完成して、さぞかし彼女のご先祖様も鼻が高かろう。


「あと二つ!」


 最後まで残った二本のレーザー光線が十字に交差し回転しながら迫ってくる。


「マナミさん! 隙間くぐって向こう側の停止ボタン押して!」


 彼女はすぐさま反応してくれた。スライディングでレーザー光線をギリギリでかいくぐる。おっぱいの上、数ミリを光線が横切った。


 俺専用(だよね?)おっぱいが無事で安堵したのも束の間、俺の腕に光線がたどり着きサイコロステーキカウントダウンが始まった。クソ、ダメになるのは腕だけでどうにか留めたい。


 ドウゥゥン。機械が停止する音。


 俺の左腕を半分ほど切り刻んで、ようやくレーザー光線は止まった。俺は腕のケガを押さえて、停止ボタンを押してくれた救世主の元に行く。


「マナミさん、マジで最高」


 そう言って俺は笑ったけど、彼女は笑い返してはくれなかった。代わりに俺のぐちゃぐちゃなりかけてる腕を見てから、キスでもしてくれるのかなってところまで、彼女は俺との距離を縮めた。


 俺はケガしてない右手で彼女の頬に触れてキスしてもらうの待ってたんだけど、彼女は俺の期待なんてどこ吹く風で、素早く俺の左太股のホルスターから自殺用の銃を抜き取ると、俺のこめかみに弾丸のキスをお見舞いしてきたのだった。


 あ、そう言うことね。彼女の行動を理解したと同時に、俺の目の前は真っ暗になった。



◇◇◇



「……イーグルツー、コードブラックです」


 オペレーターが残っていた味方狙撃手の死亡を知らせてくる。


 残った地上部隊は、少ない人数で善戦はしていたが、もう持つまい。九龍クーロンの意向など気にせずにやはり今日はもう撤退すべきだったのだ。


 仲間意識などないと思っていた殺人集団だったが、見誤っていた。なぜか、彼らはターゲットを守るかのように我々を最優先で襲ってくる。


「大佐! 侵入者です!」


 チッ。やはりここの位置がバレたか。もう少しやり過ごせると思っていたが。次から次へと悪い報告が入ってきた。


 オペレーターの報告とともに、先ほどまでいた隠し通路の扉前の映像がメインモニターに映し出される。扉のクラッキングを指示していた特技兵と護衛の二名は、床に倒れまま動こうとしない。


「三名とも……応答ありません」


 相次ぐ最悪の報告の中に、一つだけ幸運があった。侵入者とは、ターゲットである不死人だったからだ。


「スペアワンはターゲットの確保を最優先。スペアツーは脱出経路の確保」

了解コピー

了解コピー

 

 作戦本部の警護に当たっていた予備の二チームを作戦に出した。背水の陣だが、このまま手ぶらで撤退するか、甚大な被害はありつつも目的を達成して撤退するかは大違いだ。


 決断を迫らせる。目を固く瞑り、数秒考えて、私は結論に達する。スペアワンチームが失敗した際は、脱出することを。



◇◇◇



 ……。

 …………。


 目を覚ますと、目の前には大きな山が二つありました。その名は「おっぱい山」。膝枕で目が覚めるの最高ですね。


 腕を治すのに、俺の恋人は躊躇とまどいなんて一ミクロンもなく、殺してくれる。


「どれくらい死んでた?」

「一分もかかってないよ」


 俺のこと俺以上にわかってるのかも、この人。


「やっぱ、マナミさん、マジで最高」


 膝枕から起き上がって、お返しにさっきし損なったキスを彼女にお見舞いすると、彼女はようやく笑ってくれた。


 トラップのある部屋を攻略できたことで、だいぶショートカットできた。敵の本部まであと少し。本当はタキ主任に教えられた通りにトラップのない部屋と通路を通る予定だったけど、時間が短縮できたことは喜ぶとしよう。

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