第11話 優勝候補⑥
カウンターの下にマナミさんと二人でしゃがみ込んで、子供たち四人が到着するのを待っていると、彼女は飽きてきたのか、いたずらっ子のような顔をして俺の上にまたがってきた。そして、パーカーのジッパーを開けた。
「マナミさん、マジで時間ないって。ちょっと、ホントにダメだって」
こら、中のインナーをめくるでない! 美しく魅惑の谷間を見せつけられて、元々大して存在してない俺の理性は一瞬で霧散した。俺の意思を無視して、自動おっぱい揉み器と化した
おっぱいをブラジャーの上からモミモミしながら、彼女とキスをする。これならさっきトイレで我慢せずに最後までヤッておけばよかった。
ブーブーブー。
俺がジーンズのボタンを外そうとしたら、ポケットに入れている支給スマホが鳴った。プレイヤーに支給されているスマホと外見は一緒だが、内通者用のスマホには本部と連絡が取れるアプリが入っている。タチバナさんか。
さすがにイチャイチャするのを一旦止めて、スマホをポケットから取り出すと、マナミさんは頬を膨らませて「もう!」と怒る。可愛いけど、連絡事項の確認が優先だ。だって会社員だもの。
『もうゲーム開始してる。中継されてるわよ』
その文面を見て、俺は慌ててマナミさんのおっぱいを隠して、彼女のパーカーのジッパーを一番上まで上げた。
◇◇◇
ジムのある建物に戻ってくると、ビルのそばで倒れている人を見つけた。オレは急いで救助に駆け寄る。正樹と由梨、孝子も後に続いてくれた。
そして、由梨は短い悲鳴を上げた。
倒れていたのは、
先ほど、ゲーム開始のサイレンが鳴り響き、ドローンが飛び回り始めたので、あの殺人鬼どもに襲われた可能性が高い。まだビルの中に奴らがいるのか、まずは確かめないと。でも、雄平や先に帰っているはずの真波さんも心配だ。
未季の遺体をこのまま放置するのは気が引けるが、冷酷だが生きてる人間の安全の方が優先だ。正樹に目配せをする。オレを先頭に、由梨と孝子を真ん中に挟んで正樹が最後になる形で、建物の裏手に回り非常口からビルの中に入った。
殺人鬼どもがまだ建物の中にいるなら、もっと騒がしいはずだ。緊急の危険性はなさそうで、オレはホッとする。四人で階段を上がり、二階を目指す。二階への防火扉を開け、廊下に出るとまた倒れている人がいた。
雄平ではないことを信じたこともない神に祈ったが、やはり神はいなかったようだ。血だまりの中でうつ伏せになっている遺体を、正樹と一緒に仰向けにする。
「……雄平」
正樹が絶望の言葉を口にした。由梨はオレの腕にしがみついてきて、オレは彼女を落ち着かせるようにその手を上から握る。孝子も由梨の肩に手を置いてショックを分かち合っていた。
廊下のつきあたりの窓が開いている。あの下は、ちょうど未季の遺体を見つけたところだ。突き落とされたのか、逃げようとして自分で飛び降りたのか。
オレたちは雄平の遺体も動かすのは、とりあえず後回しにしてジムへと進む。ジムの自動ドアの前には、小さな丸い粒がバラバラと落ちていた。オレが「なんだろう?」と拾い上げると、それを見た正樹に「BB弾だと思う」と教えてもらった。モデルガンの弾らしい。ということは、あの与太郎という男が戦ったということか。
オレ達の話声が聞こえたのだろうか、真波さんとあの男は受付カウンターから顔を出した。
「真波さんッ! 良かった! 無事で……」
生きている仲間がいることに安心する。でもオレが真波さんに駆け寄ると、彼女は与太郎の背後に隠れてしまった。嫌われてしまったようで、少しショックだ。
奴の足元を見ると、カウンターの下にはモデルガンが置いてある。本当にこれで殺人鬼どもを撃退してしまったのか。少しだけ目の下に酷いクマを作っている気味の悪いこの男を見直した。それにさすがに今はいつものヘラヘラ顔はしまっていた。
「与太郎さん、状況を教えて貰えますか?」
「どうもこうも、ここに戻ってきた途端に奴らに襲われて、ここに隠れて応戦してただけだよ」
さすがに彼も動揺しているのか、あまり要領を得ない回答だった。オレ達が話していると正樹は床に置いてあったモデルガンを拾い上げる。
「もう改造済んでるんですか?」
正樹は意外にも構え方が様になっていた。モデルガンで遊んだことがあるのかもしれない。与太郎は「いや、時間なくて、その一丁だけ」と正樹に答えた。
「威力はどれくらい出ます?」
「弾速計ってないから、なんとも言えないけど、上手く当たればアルミ缶がへこむくらいじゃないかな」
アルミ缶がへこむなら十分な威力だ。それなら予想外の攻撃を受けて、あの殺人鬼どももさぞかし驚いたことだろう。しかしながら大きなモデルガンだった。持ち歩くのは結構、目立ちそうだ。
「ドラマとかで見る小さいのを想像してました」
思わず、大きなモデルガンへの素直な感想がオレの口から漏れる。
「ああ、ハンドガンは扱いが結構難しくて当たらないんだよね。アサルトライフルの方が反動も少ないし、素人でも慣れれば当てられるようになるから」
詳しくないオレにはよくわからないが、彼の説明に正樹は「確かに」と頷いていた。二人がオレ抜きでモデルガンについて話を続けるので、与太郎の後ろに隠れている真波さんに目を移す。一瞬目が合ったが、また奴の背に隠れてしまった。
とにかくここが襲われ、殺人鬼達が去ったのは間違いない。ということは、ここはしばらく『セーフティゾーン』だ。
このイカれたゲームのルールの一つに、屋内で殺人鬼にプレイヤーが殺され、その後に殺人鬼が去った場合、死亡した人数かける六十分間はその建物は再襲撃されない。未季と雄平には申し訳ないが、ここは少なくとも二時間は安心だ。
「ここがセーフティゾーンのうちに、未季の遺体を室内に運ぼう。それに雄平も廊下じゃ可哀想だ」
正樹は頷き、オレと一緒にまた建物の外に出ようとしてくれたが、与太郎の方が何故か顎に手を当てて固まっていた。危ないから、もう死んだ人間のために外には出たくないってことか? なんだよ、やっぱりクズなのか、こいつ。
少しだけ見直してた気持ちが、また怒りで消えた。
◇◇◇
セーフティゾーンのこと、すっかり忘れてたぁあああ!!
やべぇ。タチバナさん、ちゃんと手動設定の指示出してくれてんのかな。絶対してない気がする。どうせ、そういうの全部オートプログラムだろうし。
つまり、
やばい。やばい。やばい。こいつら帰ってきてから何分経った? 考えろ、俺!
俺とマナミさんの位置情報は、いくら同じ場所にいてもアラートは出ないが、この子供たちは違う。やばいよ。やばいよ。来ちゃうよ、
俺がパニックで固まっていると、翔太くんは疑いの目を向けてきた。仏様と神様とそのほかの
そして、絶望感に苛まれながら、翔太くんと正樹くんの後を追った。
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