第2話 面接
三カ月前。とある中東紛争地帯にある街。
自爆テロとRPGロケット弾による破壊によって発生した粉塵があたりを覆っている。人だったものが散り散りに転がっているが、世の中そんなもんである。破壊するものがなくなったからか、武装集団は何度聞いても何言ってるのかわからない奇声の勝ち
「さすがに飽きてきたな。日本、帰るか」
そして、俺はさっきまで同僚だった死体の上に腰かけて、そう独りごちた。
◇◇◇
一週間前。とある雑居ビルの一室。
「えっと、
氏名欄は下の名前だけで、住所欄を含めそのほかの個人情報の項目が空白の履歴書を眺めながら、見るからにテキトーそうなチャラい茶髪のオジサンが俺に問いかけてくる。
「あ、はい。戸籍ないんで。与太郎も名前ないから、テキトーに呼ばれてたやつです」
ふーん。と反応の薄い相槌をしながら、チャラ茶髪オジサンは職歴の方に目を通す。
「特技、不死身? これどういうこと?」
「あー。そのまんまっすね。浜辺歩いてたら、人魚が打ち上げられてて、腹減ってたんで食べたら、そうなっちゃいました」
「へぇ。そうなの。職歴は……その特技を生かして、海外で傭兵して転々としてたのね。パスポートないでしょ? どうしてたの?」
信じたのか、信じていないのか、チャラ茶髪オジサンは相変わらず反応が薄い。
「そうなんですよー。でも、基本は密入国ですね。冷凍死体になって、マグロとかと一緒に」
「ははは。そりゃ君にしかできなさそうな渡航方法だね」
それから、チャラ茶髪オジサンは俺の不死身を確かめるでもなく、射撃等の能力テストをするでもなく、「うん。採用!」と気軽く俺の雇用を決めたのだった。
◇◇◇
仕事の初日に大ポカをやらかし、先輩社員に制裁として殺された俺は数分後に蘇生して同僚達を驚かせた。チャラ茶髪オジサンことタカハシ社長には大笑いされた。
「君、本当に不死身だったの。面白いわ~」
タカハシ社長は全社員に生命保険をかけてるそうで、「とりあえず今回のヨタロー君の分は請求しとこ」って言われたけど、それを聞いてしまったからには「少し分け前をくれ」と主張せざるを得ない。
散々な初出勤を終えて、島の地下にある社員寮に帰ってきた。自室に入り作業テーブルにスナイパーライフルの収納ケースを置く。冷蔵庫から赤いコーラの缶を取り出すと、蓋を開けて一気に飲み干した。コーラは瓶の次に缶が美味い。ペットボトルは味が落ちる。まぁ気のせいかもしれないけど。
それから、俺は私用のスマホを貴重品ロッカーから取り出すと、電話をかける。両手がふさがるのが嫌でスピーカーにした。
スマホのスピーカーから聞こえる呼び出し音。しばらくすると明るい声の女性オペレーターが出た。
「こちらは、ミリタリー損保ジャパンです」
「ライフルのスコープ壊れちゃって」
「かしこまりました。補償内容を確認いたしますので、証券番号をお願いいたします」
俺はライフルの収納ケースに挟めていた損害保険証書の証券番号を読み上げた。
「ご本人様確認のため、お名前と生年月日を西暦からお願い致します」
生年月日……この保険入る時にどの生年月日で登録したっけ……。そもそも俺、生まれた年も月も日もわからないし、年齢も五百歳はとうに越えているので、いつもテキトーなものを記載している。保険証書を裏返すと日付のメモがあった。昔の俺グッジョブ。
「はい。ご確認が取れました。ヨタロー様は戦闘時の破損特約付きのご契約ですので、ご購入されたスコープと同等製品までの金額については全額補償されます」
それを聞いて安堵のため息が出た。雇用主に請求すれば払ってもらえる場合もあるが、有耶無耶にされた経験は一度や二度ではない。
「このお電話で代替製品のお手配も可能ですが、いかがいたしましょうか」
手配をお願いする。購入した会社とこの保険会社はグループ企業なので、俺の以前の発注データを確認して再発注してくれるらしい。届け先の住所というか、島の位置情報を伝えると、
これからスコープが届くまでの二週間はハンドガンで頑張るしかない。普通にダルイ。面倒臭い。ジャジャ・ラビットさん、なんでライフルまで蹴っ飛ばすんだよ。俺だけ殺せよ。クソ、ライフルのバランスも衝撃で歪んでるだろうし、直さないと。
猛烈にイライラしてきて、俺は精神統一のためにハンドガンの解体と組み立てを三回繰り返してからシャワーを浴びた。
バスルームから出て、本日二本目の赤いコーラの缶を開ける。黒のダイエットコーラは邪道。ちなみに俺は
ピンポーン。
どの映画を観ようかと、作品アイコンを見ながら吟味していると、扉のインターフォンが鳴った。俺はリモコンを置いて、タオルを肩からかけると玄関に向かう。
「はいはい。どちら……」
扉を開けると、小柄な女性が立っていた。セミロングの茶髪。人形のように整った顔立ちで、大きな瞳は珍しい琥珀色をしている。ってか、頭ちっさ! そして、視線を下げると、大きめのパーカーの上からでもわかるくらい胸が大きい。
「あの……今日のこと謝りたくて」
その声色に俺は下げていた視線を彼女の顔に戻す。脳内で髪型をツインテールにして、ウサギのマスクを被せ、厚底ブーツをはかせて彼女の身長を底上げしてみた。
「もしかして。ジャジャ・ラビットさん?」
彼女は頷く。俺はとりあえず立ち話もなんなので部屋に入るか彼女に確認すると、彼女はまた頷いた。いや別にめちゃくちゃに可愛いからって、下心で入室を促したわけでは断じてない。ええ、本当です。
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