第6話 From world to another

 我が家のアイドル・月花つきかが生まれて半年が経った。 


 基本的な授乳は粉ミルクであげている。


 栄養面でバランスが整っているからだが、母乳も出るなら、と六花はたまにあげる事にしている。


『大きくなってお母さんの母乳の味を知らないって言うの可哀想じゃない?♡』という六花のママ心らしい。


 でも、母乳をあげてる六花は本当に優しい顔をしている。


 写真を撮ると恥ずかしがるが、きっと月花が大きくなったら喜ぶだろう。



「パパも飲むー?♡」


「絵面がド変態にしか見えないからいい…」



 お口を拭いてあげて、六花が身なりを整えている間にコロが背中に月花を乗せて軽くゆらゆらしている。

 流石、何でもありのコロ様!


 その後六花が月花を抱いて、月花のあごを肩に軽く乗せて、優しく背中をトントンする。

 ゲップが終わったら授乳完了だ。


 吐き戻しをしない為のコツらしいが、しっかりゲップがしっかり出て、半信半疑だった最初は吃驚した。


 人間て凄いなぁ…と感動する毎日だ。



「六花、お疲れ様!何か育児系のスキル貰えた?」


「あるよー!泣いちゃった時にあやしたら比較的早く泣き止む」とか、「夜泣きで睡眠時間が減っても体力を落とさない」とかね!


「いいスキル貰ったな。スキル…恵まれてない人や環境が良くない人に届いてるかな…」


「きっと届いてるよ!貴方が皆の幸せを願って生み出したんだもん!」


「うん、そうだといいな」




「そういえば気になっていたんだけど…原初の、肉体を持った神様ってどこに行ったんだろ?」


「ににっ」


「うん、俺が倒したのは複製で四週目以降の神だからもう一柱いてる筈なんだけど…」


「ににっに!」


「でも、静かに見守ってくれてるならいいじゃないですか?月の肉体持っていかれるなら戦いますけど…」


「にににーに!」


「神様も色々事情があるんだろ?肉体もあるんだし案外、人に紛れてしれっと生活してるかもしれないぞ?」


「にににっ!」


「人間の社会にいるなら、人間の悪い所も良い所も視点を変えて見守って欲しいです」


「ににっにっ!」


「おーコロち!どうちたでちかー!会話に混じりたかったでちかー!月花と六花と同率一位で可愛いでちねー!」


「久々に愛情が爆発しましたね……あっ!」


「どうした…おお!」



 見ると月花がギリギリ捕まり立ちをしていた!


「もう立った!早ーい!」


 なお、月花がお尻をつく前にコロがお尻でクッションになってくれるという高待遇!




 高待遇で思い出した。


 おじいちゃんに駄目元で事情を説明して《社》への協力をお願いしたら、二つ返事で引き受けてくれたので《社》の方で高待遇にして貰う様に掛け合った。


 あの人の技術なら、またきっと奇跡を生み出してくれる筈。


 お金には困ってない筈だが、ばあちゃんとの交際が順調の様で思う所があるのだろう。


 最近は二人とも甘い物が好きだからスイーツ巡りをしているそうだが、たまに自動車が通るとネオジム磁石ネックレスがくっついてどこかに行ってしまうとの事。


 デートの時位は磁気ネックレスをやめなさいおじいちゃん!!!



 そういえば、身近で大きな事が二つあった。


 一つ目はオアシカカフェの副店長、青鷺あおさぎさんに彼氏が出来たそうで、小町が産休の間でも精力的に働いているそうだ。

「寧ろ店長のお説教タイムが無くて楽ですよ」って言ってたのは小町に内緒にしておこう。


 あと、六花と小町の親友鴛・鴛鴦栞おしどりしおり

 言いづらいが、俺の姉の雪巴ゆきは灰薔薇はいばら家のご令嬢であり、奈良の南担当巫覡ふげき灰薔薇茨はいばらいばらとゆるい三角関係になってたのだが、永きに渡る争いの中で破れたそうで先日六花と小町がうちで慰めてた。

 超絶部屋に居づらかった…


 雪らしい優しい振り方だったそうだが、理由を述べると人の心に抜けない棘が刺さるから、と言わなかったそうだ。


 そして、しばらく仕事に没頭する!と宣言して、受けた《社》の就職試験に一発合格したのは周囲を驚かせた。


 アメリカの大手IT企業の十倍は難しいといわれてるのに…栞の本気凄い…


 雪はもう結婚も考えているそうで、茨の苗字の画数多すぎて嫌い問題を加味して茨が嫁入りするそうだ。


 灰薔薇財閥は妹さんに託されたそうだが、また波乱の予感がする…




 ガチャ!

「こんにちー♪」


「小町いらっしゃい!どうしたの?」


「うちの子がハイハイ始めたから見せに来たのー♪」


「我が子自慢大歓迎だよ!入って!」


「お邪魔ー!♪六花、調子はどう?」


「お姉ちゃんいらっしゃい!体調はバッチリ!月花は掴まり立ちが出来たよ!」


「おおお♪もうそろそろハイハイも出来ちゃうね!」



「あ、ハイハイしてる」


「秒で覚えた!!!」



「これはもう……大会しかない!♪」



 机や椅子を脇に避けて、向こうにママ二人が待機。

 赤ちゃんズは逆サイドで待機し、開始と共にママが呼び始める。

 先にゴールした方が今晩ピザのLサイズを奢るという血も涙もない非情なゲームが幕を開ける!


「ふふふ、うちの子の身体能力…舐めるんじゃねーぜ♪」


「うちの子も身体能力なら負けない!」


 生後半年の赤ちゃんの身体能力能力で言い争いになる子煩悩ママ達!



 二人の背中を微妙に抑えて、コロの挨拶を待つ。

 コロが鳴いたらスタートだ!


「ににっにっに!に―――っ!にっ!」



「式部ちゃーーん!おいでおいでー!♪」


「月花ちゃーん!ママでちゅよーおいで!」



 スタートしてから、ほぼ僅差…寧ろ式部ちゃんの方が少し有利か!?


 と、楽しんでいたら突然その場から加速してお母さんズに頭突きで飛び込んでいく赤ちゃんズ!!


 何そのエドモンド感!


 そして腹部に命中したもんだから、お腹を押さえて踞る六花と小町…



履歴閲覧ログブラウズ!」

 対象のスキル使用履歴を新しい順に閲覧出来るスキルだ。



 赤ちゃんズのスキルを確認すると…


【ハイハイダッシュ】

 ハイハイを三歩すると自分のお母さんの元に高速で移動する。



 …おおう、また極端なスキルを…


「二人とも、赤ちゃんが三歩歩いたら飛んでくるから頑張れー」


「まじ!?♪」


「ちょっと赤ちゃんの身体が心配!」



 むむ、それもそうか。


「技能消去」

 二人の今の突進スキルだけを斬り捨てた。


「もう大丈夫だから、赤ちゃんに負担かけない様にね?」


「ママこっちでちゅよー!♡」


「月花ちゃーん、おいでおいでー!♡」


 二人とも足腰が強い子になりそうだ…


 フローリングが痛そうだし、マット引こうかな。

 コロの手足にもいいし…


 秒でポチった。





 夜のいつものコンビニ。


「おじいちゃん」


「なんじゃ」


「《社》への協力、二つ返事で引き受けてくれて有難う」


「折角不治の病を根絶したのに、人が死ぬかもしれないなら意味ないからの。それに男爵の忘れ形見の魚も、ワシなら活かせるだろう」


「おじいちゃん、男爵と知り合いだったのか!」


「うむ、あやつも思い人の不治の病の根絶を目指した同志みたいなもんじゃったからな…あいつの死は報われたのか…未だに答えは出んよ」


「恋人が不治の病で亡くなったからこそ、生きて異世界にまで手を伸ばして薬を見つけ病気の根絶を願った。でも、俺が鶴福院に薬を届けてしまったから…死んでもいいから二人で一緒に生きていきたかったという思いを歪めて男爵を刺してしまった」


「鹿鳴、お主の所為ではない。鶴福院の愛情のベクトルが少しだけ歪んでおったのじゃ」


「………」



「ワシら科学者はリアリストじゃからな。目に見えて、実証実験をして結果が出せた物を信じる。異世界の件も任せておけ」


「おじいちゃん…」


「神頼みとかお参りとか非科学的な事等しなくてもワシが結果を出してやる!」


「あんた滅茶苦茶頑張って神頼みしてたよな!?」


「あれも科学の導き出した合理的で科学的な結果なのじゃよ…正月は芽衣めい夏月大社なつきたいしゃにお参り行くがな」


「滅茶苦茶神頼みしてるじゃないか!!!なんなら六花とニアミスしてるじゃん!!」


「最近御朱印を始めてのぉ、煌桜きららさんと二人でデートの度にあちこち参拝しておるのじゃ」


「ばあちゃんと仲がいいのは嬉しいけど、神頼みは非科学的って台詞がすっごい耳に残ってるのー!!!」



「……アイス…おかわりいくぞ!」


「いい顔で話をスルーするな話聞けー!!!」



 アイスおかわりした。





 奈良町の中にある小さな喫茶店で雪と茨がパフェを食べていた。


「ここのパフェは最高なのですわ!フルーツの甘さが際立つ上に、層仕立ての分量が完璧ですわ!」


「…それぞれが自分の役を引き立てる様に味の濃度が計算されていて…美味…」



 しばしの沈黙


「茨、まだ気にしてるの?」


 こくこくと頭を振る茨。


「…お互いが雪を好きだと言った…でも、雪が心を痛めて私を選んでくれた…とても嬉しいのに、何で私なの?って悩む…」


「うーん、どちらかの容姿が好みだった、性格が好きだった、家柄が好きだった、とかじゃないですわ。お二人と何回もデートしました。そしてそこに差はたった一つしかなかった」


「どこだったの…?」


「……私がね……茨と手を繋ぐ時、手汗が凄かったの」


「手汗?…そういえば…」


「そう、栞さんと繋いだ時と、茨と繋いだ時。茨と手を繋いだ時の方が緊張してたんですわ。ああ、私の心は茨の方に傾いてる、と///」


「///はう」


「これは私のエゴで私の恋…だから心を痛めないでほしいですわ。痛めるとしたら私だけです」



「…そんな事ない。手を繋いだら気持ちも一緒。一緒に幸せになろ」


「はいですわ!家はどうしましょう?実家でもいいし、いい物件があればそこでも」


「ちゃんと選んで住みたいから、住居が決まってから籍を入れるか、籍を入れて御実家でお世話になりながら探すか…」


「それなら先に住居探ししてからですわ!」


「…その心は…?」


「茨か大声を漏らしても大丈夫な住居が必要でしょう!お後がよろしいようですわー!」


「////」






 むーっ!むーっ!

 スマホのバイブが鳴る。

「鹿鳴です」


『《社》です。不審ヶ辻子ふしがづし様のご協力により転送装置が完成に漕ぎ着けました。あとは設置とテストです』


「そうか…おじいちゃんやってくれたか!」


『後はテストと…向こう側の住人の反応の調査ですね。テストは奥様とご一緒と聞いたので転送装置を二つご用意しています』


「お願いします。こちらも準備しておくので…」


「パパー《社》から?」

 ママがストレッチしながら話しかけて来た。


「うん…例の件…決まったら月花を誰かに預かってもらわないと…」 


「うちは?」


「流石に小花ちゃん、式部ちゃんに加えて月花は大変だろう。うちの母さんにお願いするよ」


「んふー私を置いていく様な気配が無くて宜しい!♡」


「ボディブロー痛かったんだからなー…それにおじいちゃんがブレインに入ったんだ。行き来は大丈夫だと思うよ」


「ごめんねー!しかしおじいちゃんの信用絶大ですね!」


「あと、コロも連れて行く」


「コロちゃんも!?」


「戦闘力としても充てにしているが、何より頭がいい。もし将来月花が向こうに冒険しに行くことがあるなら、コロにサポートしてほしい。頼めるか、コロ!」


「にににににっに!」


「あとは設置を待とう。小町に薬も作ってもらわないとだし、色々な事態を想定しないとな」


「行き帰りさえ保証されてるなら私達は負けない!」


「うん、あとは向こうの人々が友好的である事を祈るばかりだ」



 それから数日後、秘匿性を考えて侵入しにくいオアシカの上に建物を作り、そこに秘密基地の様に色々置けるようにした。

 無論謹製なので頑丈さとセキュリティはばっちりだ。



「転送フレームが、こちらになります。この中に入り、タッチパネルで座標を入力し、『ダイヴ・イン』と掛け声をかけて頂くと転送されます。少しアニメの様ですがこれも知らないと動かせないセキュリティだと思って下さい」


「最初座標はどうすればいい?」


「こちらで観測した中で一番大きい世界を選びました。掛け声をかけて下されば自動的に着きます。帰る時はダイヴ・アウトで戻ります」


「念の為、時間の概念は同じかな?あと重力や空気は?」


「観測したした結果おおよその世界が我々と同じサイクルになります。ただ、空気と重力までは計測出来ませんでした。ホモサピエンスとおぼしき生命がいるので、劣悪な環境ではないと思われます」



「行ってみるしかないってか…」


「念の為、こちらの小型ビーコンもお持ち下さい。何かあれば救援部隊を向かわせます」


「有り難い!なるべく使わない様に頑張るよ」



 次の日、月花を母さんに預けて、小町に薬をもらって、準備は出来た!


「六花、行くよ」


「はーい!つきちゃま!」


『ダイヴ・イン!』


 そう発すると二人のの身体はこの世界ワールドから消えた。

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