第5話 Miracle Qualifications

「いないいない…ばぁ!」

「ににっににっ…にー!」


 すっかり我が家のアイドルに夢中な六花とコロお姉さん。


「そういえばいつからパパ・ママに切り替えるの?」


「十ヶ月前後でパパ・ママって言えるらしいから、早めに切り替える?」


「いーですよ、パーパ♡」

「にーに!♡」


「何か照れくささが…」


「コロちゃんにはパパ・ママって言ってたのに?」


「新加入メンバーだから恥ずかしい!」


「新加入!?何坂48なんですか!?」



「あ、買い出しのついでに小町の家の買い出しも行ってくるけど、晩御飯何がいい?」


「オムライスがいいでーす!」

「にー!」


「オッケー!」



 駅前のスーパー・ポケットにのんびり歩いて買い物の道すがら、小町に連絡する。

 赤ちゃんが二人で大変だから、買い出しの時は駒鳥鵙こまどり家の買い物もしているのだ。


「はい、月巴つきはちゃん?どうしたの?」


「え、お、お義母さんですか?いや買い物に行くのでそちらの買い出しもと思……」

「ぷ…アハハハハハ!♪」


「お前か小町!」


「ごめんごめんw似てるでしょ?♪」


「ああ、激似だった…流石親子!あ、買い出し行くからリスト送って」


「いつも助かるわー!すぐリスト送っておくね!♪」


「いや、うちも買い出し必要だったからついでだよ」


「ほんといつも有難うね、月巴ちゃん」


「小町、お義母さんの真似似すぎだぞ」


「月巴ちゃん、今度は本物ですよ?」


「ん?、え、おおお義母さん!?」

 よく聞いたら小町が爆笑している声が聞こえる!


「月巴ちゃん、いつも有難うね♡」



 駅前のスーパー、ポケットで買い出し。

 昔、去ったポケット大好きだった、あの人の事を思い出しながら…



 左手にうちの買い物。

 右手にマヒャ…もとい駒鳥鵙家こまどりけの買い物。

 更に右手小脇に十キロのお米の袋。


 ふらつきながら、徒歩だとそれなりにある道程を歩く姿はあたかも修行僧の如く。


 結晶飛行で安易に楽をしようと思わないが、こういう時、女の身体なんだなーと思う。


 最近は買い出しの関係で了承を頂いたのでもうノーチャイムで入っていく。



「こんばんはー」


「おかえりー!小町にする?ベッドにする?それとも寝る?♪」


「うん、全部いいから米を降ろさせて欲しい…」


「あー、自分ちのも買ってきたのか!しかも歩いて!?置いて置いて!」



 玄関に自分ちの荷物だけおいて、台所に買ってきた食材、調味料をしまっていく。

 結構慣れてきたので、どこに何があるのか把握してきた。


 冷蔵庫にも食材をしまい、リビングにお邪魔する。


「今晩はー」


「月巴ちゃん、有難うね」


「月巴有難うねー♪」


「ですわー!」



「あれ?雪、いたのか!」


「最近小花ちゃんと式部ちゃんにメロメロですわー!」


 小町の赤ちゃんは式部と名付けられた。


 母が小野小町で娘が紫式部…文句無しに良い子に育つ!

 そういえばまだ父親が誰か聞けてない!



「さぁ!両腕に乳酸が溜まったゴールデンタイムに式部を抱っこだ!♪」


「どこのパーソナルトレーナーだっ!…式部ちゃーんよちよちー!」



『式部ちゃん…その人がパパですよっ!』



「…皆何か言いたげだけど…どうしたの?」


「何でもない何でもない!♪」



「うぉいー」


「今、式部…鳥って言わなかった!?生後一ヶ月も経たない内にヒッチコックの名作を口走る…うちの子超天才じゃね…?♪」


「感涙するのはいいけど、流石に0か月では難しいだろ!」


「ヒッチコックー」


「小花ちゃんも天才ぶりを発揮!」


「小花はもう大物感凄すぎて何しても驚かなくなったわ」



「そういや、式部ちゃんの着てる服って雪が作ったの?」


「ですわ⸺!お腹にいる間にお揃いで作っておいたのですわ!」


「赤ちゃんのお揃いってめっちゃ可愛いな!流石雪!」


「えっへん!」




 その後小花ちゃんも抱っこさせてもらって、駒鳥鵙家を後にする。


 雪は赤ちゃんのハシゴをするらしいのでうちに来るとの事。



 その後…俺と雪のスマホが同時に鳴る。


 鹿鳴ろくめい家族ラインぽい。



義母ギッボ帰宅スグ帰レ』



 雪は既読をつけずそっとスマホをポケットに入れ、うちに泊まる事を無言で訴えかけてきた。


 俺は育児で忙しいので正直に返す。


 母さんには個人チャットに「うちに育児の手伝いに来るとかどう?」


 って送ると秒既読で「天才」「すぐ行きます」というスタンプが帰ってくる。


 今回のスケープゴートは父さんになる!


 頑張れ大黒柱!



 ていうか、結婚するまでどんな過ごし方をしてたのか今度父さんと…機会があればじいちゃんにも聞きたい。


 あ、ばあちゃんをおじいちゃんに紹介するんだった!

 明日酒が抜けた頃に行くか!



 と、いう訳で今日は母さんがご飯を作ってくれる事になった。


 こんなに機嫌のいい母さんはなかなか珍しいので、ついでに料理を六花に教えてもらって鹿鳴家の味を覚えてもらう……無理かなー…六花割と不器用だし…



 晩御飯は、余りうちの食卓で出ない水炊きになった。


 母さんの水炊きは美味しいのでひっそりワクワクしているが、月花を抱っこしてニコニコしているのでバレる事はあるまい!



 六花と、月花と、母さんと、雪と、コロと六人で囲む鍋はとても賑やかで美味しかった。


 コロは最近、月花のミルクの温度が違うとダメ出しをしてくるので、お姉さんの自覚が芽生えまくりで頼もしい限りだ。


 その後は寝るまで六花が俺の小さい頃のエピソードをリクエストして、母さんと雪が容赦なく俺の個人情報を大流出するという鬼畜の所業だった。




 その恥ずかしい状況に偶然助け舟を入れてくれたのは《社》からの電話だった。


 さり気なく電話に出て、気配を消して出ていく。

 昨夜テレビで見たドキュメントに出てきた食い逃げ犯に酷似する行動だ。




「…それは本当なんですか?」


『はい。あの大戦以降、地面に消えてしまった逢禍達…潜伏しているのかと思っていましたが、全てリセットしたかの様に反応が綺麗に消えています。現在発生してる少量の逢禍は創り手による物です』


「それはもう地中で浄化してしまった…そんな話ではないですよね?」


『……はい。推測なんですが、以前報告を受けた地下に広がる世界に逃げ延びたと考えています』



「なんの関係もない世界に逢禍が…」



『こちらからその世界にアクセスした人間は今現在いません…推測の推測というあやふやな話し方になりますが、もし万が一向こうに広がる世界がこちらの世界を認識していたとしたら。そしてこちらの世界から数多の怪物が送り込まれてきたのだと認識したら…』


「それはもう攻撃…下手したら侵略だ…」


『発想を飛躍させると、こちら側に向けて反撃が出来る手段があるとすれば…もうそれは戦争と言わざるを得ません』



「…俺の役割は?」


『貴方に電話したのは要件が二件。まずは、以前お預かりした魚逢禍を分析し、安全に地下に潜り、浮上出来る手段を開発着手しています。まずはそれをお待ち下さい。ここからが申し上げにくい部分なのですが…』


「言ってくれ」


『もし異変が生じるなら、魚逢禍で単独で乗り込んで様子を見に行って頂きたい。ただし、どこかの世界に降り立った場合、帰還手段が保証されません。無事に魚逢禍を制御して帰還出来れば良いのですが…』


「楽観視は出来ない旅だな…片道切符の可能性は十分にある」


『もう一つ。更に申し上げにくいですが、この案件を解決出来ずに戦争という最悪の事実になった場合、貴方の次元を超える力…それを使い原因究明をしてもらい、戦争を失くして頂きたい。ただし、ご存知の通りそれは貴方自身…ひいてはこの世界を改編する所業』


「犠牲は少ない方がいい。向こうが観測出来てない可能性も大きいから、まずは転送装置の開発を頼む」


『分かりました。何かありましたらご連絡下さい』


《社》の使者との通話を切る。



「……ふー」


 どむっ!

 かっ!腹を殴られた!


 見上げると六花が激おこで立っていた。


「わ た し も い く か ら 」


「……いや、それはリスクが大きい…」



「何が犠牲は少ない方がいい、ですか!もう私達パパとママなんです!必ず帰還するつもりで行きます!月花は連れていけないからママに預かってもらって、月花の為に必ず帰るんです!」


「六花は強くなったなぁ…」


「百万回生まれ変わっでもずっど一緒でず…」


 我慢出来ずに泣いちゃった!


 ハグしてお互いの感情を少し抑える。



「さ、中入ろうか…俺、ボディブローのダメージが全然抜けない…」


「はわ―――!ごめんねー!」


 改めて、あの全身筋肉質のボディは伊達じゃないなと思った。

 産後太りとか都市伝説か?






「おじいちゃん」


「なんじゃ」


「このアイス美味くない?」


「うむ、シンプルじゃがそれが却って良い」



 次の日の昼、コンビニの前で縁石に座ってアイスを食べる三人。


 今日は晴れて中学生になった芽衣もいてる。


「ダーリンと私も同じアイス…これは相性が抜群の証拠だわ!」


「まぁ、三人で選んで買ったからな!」



「さて、今日はマイダーリンに新しいプレゼント!」


「話を聞けっ」


「貴方の横にある小さくて透明な瓶!開けてみて!」


 透明な瓶…毒の気体でも入ってるのか?


 手に取って開封してみる。


「何も入ってないぞ?」


「瓶自体が毒で接触毒だよ?」


「たち悪いなっ!!!」


 雲散鳥没でこの世から瓶を削り取る。



「これで貴方が死んだら…もう一生私だけのもの…」


「愛が歪んでて重すぎる!おじいちゃん、アイスのおかわりを買いに行かないで孫に注意してー!!!」


「あれ?お兄ちゃん毒効いてない?」


「芽衣に残念お知らせがある…」


「ん?」


「芽衣の数々の毒のプレゼントのお陰で…俺は毒耐性スキルを獲得した!」


「奇遇だねー!私も毒製造上昇・毒殺上昇スキルを獲得したよ!」


「まさかのプラマイゼロ!!!」



「貴方と私の愛の鎖は切っても切断出来ないのよ…」


「それ、例の彼氏にするなよ?」


「あれは彼氏じゃないの!いじめられてるのを助けてあげたから懐いただけー!」


「うちの孫は人を大切にする良い子じゃからな…」


 いいタイミングでアイスのおかわりを買って帰ってくる。


「いや俺も大切にしてくれ…あ、おじいちゃん!ばあちゃん来たぞ!」


 その瞬間…



 横並びのヒーロー達の登場並みに世界がスローになる。



 登場するばあちゃんの足!






 生   足   !!!





 膝 上 ミ ニ ス カ ー ト !





 ばあちゃん気合がすげぇ!!!


 いや、確かに年配にしては確かに美人だし、スタイルもいい方だけどさ…



「月巴、待たせたね!こちらの方がそうかな?」


「うん、こちら不審ヶ辻子勝ふしがづしかつさん。世界の難病を根絶した、俺が尊敬する数少ない人の一人だよ」


「初めて鹿鳴に褒められた!」


「で、こちらが鹿鳴煌桜ろくめいきらら。うちのばあちゃんで現在独し…」


「さー行きましょうか!まずは食事で親睦を深めましょう!」


 腕を持って連行されるおじいちゃん。


 おばあちゃん若いなぁ…


 お酒飲まないでね…



「えと…お兄ちゃんはああいう人が好みって事でいいのかな?ああいう人を目指した方がいいの?」


 全力で激しく止めた。




 ……おじいちゃんに《社》への協力をお願いしたら、もう一度奇跡を起こしてくれるかな…?

 聞いてみよう。

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