第3話 エタニティ・マタニティ

「月、最近はマタニティフォトとかあるんだって!」


「あー見た見た!めっちゃ綺麗だね!…って、六花…撮るとしたら人前で脱げる?」


「ヌードは滅茶苦茶抵抗あるけど、服を着たままのもあるの!マタニティフォトは話の種としても結婚写真は一枚位撮らない?」


「隔絶で結婚もずれたからなぁ…写真は取っちゃおうか?早く取らないと授かり婚フォトになるぞ?」


「ホントだ!お腹が目立たない内に!」


「なら、今から行くよ!着替えて!」


「流石、月の行動力…しゅき…」




東向きストリートの中程にある写真館で御願いする。

ウエディングドレス姿を純粋に見たかったからっていうのが一番なんだが、一生に1度しかない事なら撮らない理由がない!


俺は白のスーツだからいいが、六花はウエディングのデザインで悩んでる様だ。


漸く出てきた六花はAラインドレス、ブーケがとても似合っていて、花の様な美しさで感動して泣いてしまった…


「ちょっと月!私メイクしてるから泣けないのに泣いちゃうじゃん…」


上を向いて涙を堪える六花。


少し感情を穏やかにした所で何枚か取る。


六花が座って俺が立つ写真も数枚撮る。


写真をチェックする為に二人で見ていると、見知った人が花嫁姿で真ん中に写ってた!


「お姉ちゃん!?」


「やっほー!一回だけ月巴貸してね!」


「写真は別にいいけど、月が呼んだの?」


「うん、こういうものが一枚あると何かと便利な事多いからな。小町は特に旦那さんいないから、ウエディングドレス着る機会ないだろうし…」


「そっか…確かにそう!お姉ちゃん写真めっちゃ撮るよ!」


「もーちろーん!♪」


「この後奈良公園に出て演出ありの写真取ってもらうぞ?」


『やったー!♡』



その後は光と草木の綺麗な場所で花を散らしてくれたり、若草山山頂のベストポジションで撮ったり、充実した一日だった。



数日後、写真が届いたが…流石プロだ!

エモい写真ばかりで感動する!


「フォトブックにしてくれるのは嬉しいね!」

「うん、いつでも気軽に見られるからな」


「月、有難う、大好き!」

「泣いちゃうからやめなさい」


「えへへー☆」


「小町の分も届いてくるから渡してくる」


「はーい!」






「小町?」


「…月巴」


「何泣いてんだ?辛い時は言ってくれって言っただろ?」


「あー、ゴメンゴメン!今日は気分が悪いとかじゃないんだ!♪」 


「それより、写真届いたから見てみろ、めちゃめちゃ綺麗だぞ?」


そこには妹や、月巴と笑ってたり、花びらを投げたり、いつもの痴話喧嘩したり、と素敵な写真が並んでいた。


「月巴、私…どう写ってる?」


「…とても綺麗だよ。小町の健康的な雰囲気が躍動感も相まって素敵に写ってる」


「私は本当はこんなに輝いてない…」


座ってる小町を腹に押し付ける


「涙ってのはストレスホルモンが含まれてるから、泣くというのは物理的にいいらしい。あとお前の好きな腹筋もあるから、ちょっと泣いとけ」


少し小町が腹部に手を回して泣き出す。


「お前は美人だし、家族思いだし、従業員思いだし、器量も頭も良くて、とても輝いてるよ。大丈夫!」


「有難う…もう言ってる事がほぼプロポーズじゃん!あ、一夫多妻制のスキルとかないかな?」


「泣きながら何言ってんだ、体調は?」


「正直言うとちょっと…」




「ふおおおおおー!♪」


「暴れるなよ、危ないから」


結晶飛行でなら家まで早く着く。



「よっと、お姫さまだっこ下ろすぞ?」


「うむ、苦しゅうない♪」


「じゃ、帰るからお義父さんお義母さん、小花ちゃんによろんむ…」



「…お前は好きあらばキスしてくるな」


「有難う月巴!大好きだよ!」


そう言って小町は写真の袋を持って家に入っていった。

…少し元気出たかな?




「さ、帰るか!」

結晶飛行で飛び上がり家を目指す!

夏の夜風は徒歩だと生ぬるいが、飛んでいると少し寒い様に感じた。






年末にそろそろ差し掛かろうかという頃。

二人共お腹が目立つ様になったので、マタニティウェアを着始め、小町は産休に入った。

そして家まで帰るのも厳しそうだから出産までうちに泊まってもらう事にした。


「わっ!動いてる!!!」


「お姉ちゃんのお腹ポコポコしてる!」


「六花もその内動くから♪」


「本当凄いなぁ…妊娠て…人体の神秘…」


「えへへーママは凄いんだから!」




「もうすぐ臨月に入るけど、二人とも名前決めた?」


「うちは案出したらママに却下されたから…」


「どうせホラー映画の悪役の名前列挙したんだろ?」


「思考を読めるタイプの人かな?♪」


「小町の関係者なら容易に想像つくわっ」


「うちは…女の子だから…二人の名前から一字づつ取って『月花つきか』にしようかと」


「男の子だったら候補は何が…?」


「羅王!」


「女の子で良かった…」


「ウチも女の子だから美沙流みざりーとか伽璃きゃりーとか付けたかった…」


「女の子に何て名前つけてんだ…小町も自分と相手の人の名前貰ったら?」



「相手の名前から…はう//////」


「小町、トマトみたいに赤いぞ、大丈夫か?」


「お姉ちゃん…その人の事そんなに好きなんだ?」


「あ、ふぇ?ああ!そうそう、そうみたいねーあはは!」


「謎の父親…政財界を揺るがすビッグネームの予感!!!」



「ある意味揺るがしてるけど、政財界ではないにゃー!♪」


「その人とホラー映画、どっちが好き…?」


「そりゃー父親でしょー?♪」


「え、お姉ちゃんのホラー映画好き超えてるの!?」


「もしかして架空の人物と想像妊娠…」


「大丈夫だから!生身の人よー!♪」


「謎だ…でも二人ともこれから大変だからお互い情報共有して支え合わなきゃな!俺も六花を見ながら小町をヘルプしていくから」


「つきちゃまがお姉ちゃんにも優しい…しゅき…」


「うんうん、これは月巴を貰えるフラグ♪」



「そんなフラグは立たん!奈良公園の鹿の糞にまみれて香り高く散るが良い!!!」


「うにょれー!眉毛全剃りして『この妊婦さん暴走族の人かしら?』ってひそひそ話させてやんよー!」


「バトルするのはいいけどオセロか桃鉄限定な?肉弾戦したら夏月大社の権禰宜ごんねぎさんと青鷺あおさぎ副店長連れてくるからな?」


『申し訳ありませんでした』

可能な可動範囲内でマジ土下座する二人。


「判ってくれればいいんだよ」

「ににっ♪」








僕は…クラスの子にいじめられてる



小学校のいじめなんてたかが知れてると親に思われがちだが、親は小学生の無力さを知らない。


先生のいないとこで殴られ、蹴られ、痕が目立ちそうになったら教科書やノートに標的が変わる。

そんな小狡さで五人がかりでいじめられる。

他人が言うほど容易く反撃出来ない。

更なる仕返しをされるかもしれないと思うと出来る筈がない。




きっかけは…どの女の子が好きか、そんな小さな事だ。

きっと虐めっ子五人組の中の人と被って、気に食わなかったんだろう。


その程度で精神的・肉体的に消耗させられるのは小学生の身としては絶望感に溢れている。

最初はぶつかる程度だったのが、抵抗しないと見ると日毎にエスカレートしていった。





学校…行きたくない。





そんな事を考えながら下校途中に転けた。


運悪く水溜りの上で、服はずぶ濡れ、ただでさえ殴られて痛いのに転倒して膝を擦りむいた。


この水溜りで溺れて死んでたら良かったのに。


悔しくて泥を握りしめて膝立ちになる。


その時、突然それは湧出した。




【掌握】

このスキルを使用すると、握力が五倍になる。



名前…読めないけど、握力が強くなるのは分かった。

もしかして…反撃出来る…?



出来れば会いたくない…登校したくない…なんなら死にたい。


でも、死ぬ前に一度だけ反撃したい!



次の日。

案の定、放課後囲まれて屋上に続く人気ひとけのない階段へ連れ込まれる。


ニヤニヤしながら無言で蹴ってくる。


胸元を掴んで殴ろうとした人の手首を思いっきり掴んだ。


「痛え!!!放して放して!!!」


リーダー格の子が、蹴ってきた足を止めた。

勿論痛かったが、全力で足首を握る。


「ぎゃあ!いってえ!!」


でも残りの三人にボコボコにされた。


その子達が蹴った痕、倒れてる僕に唾を吐いて帰った。




……うつ伏せで絶望的になってる処で、誰かが吐かれた唾を拭いてくれた。

「よく頑張った、偉い偉い!」


声に振り向くと、そこには同じクラスの菖蒲池芽衣あやめいけめいさんがいた。


「菖蒲池…さん」


「あんた、少し前からいじめられてたでしょ?様子見てたんだけど生徒の生傷に気付かない先生も、知らん顔する奴もサイテーよね!」


「あ…」


「だから、悪いけど今日は証拠撮りの為に最後まで止めなかったけど、もうこの動画で証拠がある!バックアップも撮ってるし、学校とマスコミとSNSに拡散してやるわー!」


「めっちゃ楽しそう!!!」


「…泣かないのね、結構強いじゃない」


「死のうとか思ってたから…涙なんかもう出ない位やられた」


「男は強くありなさい!そういえばスキルで仕返ししようとしたの?なんのスキル?」


「握力が五倍になるって書いてた」


「虐められて得たスキルなんだろうけど、それって誰かの肩を揉んであげたり、パン生地を捏ねたり出来るじゃない?そういう事に使いなさい!」


「うん…虐めがなくなったら、人が有難うっていってくれる使い方するよ」



「そうそう!大丈夫?立てる?因みに何で虐められてたの?」


「クラスの女子で誰が好きかって話をしてて、菖蒲池さんって言ったら次の日から…」


「////あ、あんた本人の前で言う?照れるじゃない!」


「死のうとしてたから、それに比べたら…どうせ好きになって貰えないだろうし…」



「…あんたが、スキルを人の役に立てて、私の今好きな人より魅力的になったら…考えてあげるわ!」



この一件は派手に拡散され、マスコミを巻き込んだ『いじめとスキルで始まる悲劇の連鎖を無くそう』と教育委員会に波紋を投げかけ、いじめの防止策を生み出すきっかけとなった。



その一件を少し突っ込んで芽衣に尋ねてみると、


「最近、お昼にパンを貰うようになったの。毎日作ってるみたいで…出来はまだまだだけど、全力で欲しいものを欲しいと態度で示せる姿勢は褒めてあげてもいいわ」


というツンデレ返答が帰ってきたので、スキルが作る明るい未来の兆しが見えてきたんだと、嬉しくなった。







なずなは足繁く近くの大型複合施設アインズへ通う。


普段の薺の大剣を振り回す戦闘イメージと違い、彼女はお洒落で、繊細で素直で、女子力が高い。


何なら六花や茨より女子している。


でもアインズは別腹というか、色々なものがお気に入りで、木材、工具、ガーデニング、新しいキッチングッズ、生活雑貨からペットまで。


そう、特にペット!


ネッコやイッヌが好きなのだが両親がアレルギー持ちで飼えない。


ペット売り場へ行くとそこはにゃんにゃんわんわんと声がする十万億土パラダイス


ガラスに食いつきたいけど、ガラスに触ったり音を立てるとわんにゃんのストレスになるらしいから、マナーよく前で屈んでうっとりする。


こんな図体がデカイのが居てるのにわんにゃんは怖がらない!


出来る事なら毎日全部お持ち帰りしたいっ!!!!!


皆可愛いから名前はおでんの名前でしらたきちゃんとか、ごぼう天ちゃんとか、こんにゃくちゃんとか、マ○ニーちゃんとか!


ネーミングセンスに対する家族の反対は却下する!


そこまで何とか持ち込みたい!



……お父さんもお母さんもアレルギー酷いからな…私が我慢しなきゃな…


「今日は!」


「おわあ!…すみません、ちょっと自分の世界に入ってました…」


話しかけてきたのはいつものコーナースタッフさんで、通ってる内に顔を覚えられた。


「今日も熱烈に見てるから関心しちゃいます!ショーケースに穴が空く程見てますもんね!」


「あはははは…買いたいけど両親のアレルギー考えると無理だなって、思考が堂々巡りで…」


「あー!環境が許してくれないのですね…」


「諦めりゃいいのに、ついつい見に来ちゃって…」


「お一人暮らしの予定とかはないんですか?」


「やっぱりそれしかないかなぁ…」


「…良かったらうちの猫、今度見に来ます?」


「え!いいの!?」


「ただし…覚悟して下さいねー…」


「え、押し倒される!?」


「違いますー!うちの猫…めっ………ちゃ!可愛いですから♡」


目の前のスタッフさんの方が滅茶苦茶可愛い…


これをきっかけに健全なお付き合いが始まるのだが、それはもう少し先のお話!

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