『深川奏は共有したい』



私……深川奏は菜乃花のことを好きだ。最初はあまり良い印象は無かったけど、菜乃花と接しているうちにだんだん惹かれていった。それは真白や真美も同じだろう。



思いは膨れ上がり、もう誤魔化しは効かないところまで来てしまった。そして、その結果がこれ。私は……菜乃花に依存している。菜乃花といると心が安らぐ。

菜乃花に触れられる、それだけで私は幸せな気分になれる。



だから、私は菜乃花の全てを知りたい。私以外の誰も知らない菜乃花を見たい。私だけの物にしたい。誰にも渡したくない。

そう思うのはおかしいのだろうか?この感情は本当に恋なんだろうか?それともただの独占欲なの?分からない。



この気持ちは依存。恋と呼ぶにはあまりにも歪んだ想いだと自分でも理解している。

それでも、私は菜乃花が欲しい。菜乃花を私だけのものにしたい。その為なら……私は何だってしよう。たとえそれが倫理に反していようが関係ない。

この想いを止めたくない。誰にも奪われたくないんだ……



故に――。



「で?何。奏……私達に相談って……」



ライブの練習が終わり、私は2人に話を持ち出す。ここで言うのはあまりにも卑怯だ。それでも私はこの想いを2人に聞いて欲しいと思った。



「私は回りくどいことは嫌いだからハッキリ言う。……私は菜乃花のことが好きだ」



前々から散々言っている言葉。この気持ちに嘘はない。それでも、いざ言葉にするとやはり気恥ずかしさを感じる。



「………今更って感じ。そんなもん、散々聞いてて知ってるし……」



真白は呆れたようにため息をつく。それはそう。だって、私は毎日菜乃花に告白をしているし。私……というか私達の話だが。



「そうだ。今更さ。でも……今日はそんなことを話しに来たんじゃない」



「じゃあ、何なんですか?私、早く帰りたいんですけど……」



真美は不思議そうに首を傾げる。確かに、練習終わりにいきなり呼び出されたら迷惑かもしれない。だが、これは真美にとっても大事なことだ。



「明日、菜乃花から返事が来る。その話をするつもりだ」



その言葉に先までの表情は一変。真白と真美は真剣な眼差しで私を見つめる。

一体何を言われるのか、不安と期待が入り混じった表情をしている。私も緊張で心臓がバクバクいっている。

でも、言わなくちゃ……私が言わなきゃダメなんだ。



「……明日、それぞれの場所を設けたよな?私は三年B組。真白は文芸部の部室。真美は一年A組にそれぞれ呼び出した……ってことで合ってるよな?」 



「うん、合ってるよ。それで菜乃花ちゃんが来なかったらきっぱりと諦めるって話になったよね?」



「ああ。そうだ。私達は……そういう誓いをみんなで立てた」



返事はまだだけど、明日で私達の関係は大きく変わるだろう。……出来るだけ変わらないように努力はするつもりだがすぐには無理だろうな。そう思いながら私はこう言った。



「……それを一旦なしにしないか?」



「………は?どういう……意味ですか?」



私の言葉に真白と真美の動きが止まる。意味がわからないといった様子だ。

当然か……いきなりこんなことを言い出すのはおかしいと思うだろう。



だが――。



「だから明日返事を貰うのを辞めて土曜日――文化祭の片付けが終わった後に告白の返事を聞くことにしようという話さ」



「片付けのときに?それって……ライブ終わりに告白の返事を貰うのと何の違いがあるの?ただ、返事を聞くタイミングをずらすだけじゃない」



真白は私の意図がわからず困惑する。真美も同じような表情を浮かべている。



「これについては、私の勝手で悪いと思ってる。だが……私の我儘を聞いて欲しい」



分かってる。こんなのは自分勝手な行動だ。ただのエゴでしかない。

それでも……私はこの想いを優先させたい。



「そう……か。で、理由は?」



「ああ。私達はライブ終わりに告白の返事を貰う予定だけど……これは憶測だが……あいつ返事を決めかねていると思う」



菜乃花のことは好きだがあの優柔不断は嫌いだし。でも、これに関しては菜乃花が優柔不断が悪いというわけではないし。



「それは……まあ」



「それはそうですけど……」



真白と真美も私の言葉に頷く。菜乃花が優柔不断なのは共通認識らしい。まぁ、あんだけ長く過ごしていれば誰だって察せるか。



「だからこそ、延長したい。菜乃花の返事を。それで…これは…もしもの話だが……」



一区切りおいて、私は告げる。これは絶対にあり得てはいけない話だし、言いたくないが……言わなくちゃいけない話だ。



「もし、土曜日に延長して……それで誰もOKを貰えなかったらの話。……もしそうなったら私達で菜乃花を〝共有〟しないか?」



その言葉を放った瞬間、真白と真美は目を見開き私を凝視する。そして、時間が止まったように動かなくなるが――。



「……は?何を言っているんですか?奏先輩」



「何を……って。言葉通りの意味だよ。菜乃花が誰の返事も貰えなかったらの話だ。……私達の三人の中の誰かを菜乃花が決めたら諦めるけど。でも、もし菜乃花が誰も選ばず、逃げたら……私は絶対に許さない」



キッパリと言い切る。私は、菜乃花が私達以外の誰かと付き合うなんて絶対に許さない。

そんなことになったら私は……私達は壊れてしまうだろう。そのくらい、私にとって菜乃花は特別だ。そしてそれは真白も真美も同じだろう。



「そ、そりゃ……逃げるのは許せないって気持ちは分かるけど……でも、共有なんて嫌よ。菜乃花ちゃんには私だけを見て欲しいのに……」



「……別にそれでもいいよ。無理強いはしない。でも、真白はいいのか?確かに独占は出来ないけど……ずっと菜乃花の愛を貰う事が出来る。独占する時間は減るかもしれないが、ずっと一緒にいられるぞ。菜乃花と。もし、逃げられたら菜乃花と一緒にいられない。そんなの耐えられるか?」



その言葉に真白は黙っている。真白は平和主義だ。だから、こんなことはきっと嫌だろう。でも……真白は賢いからどうすればいいか分かっているはずだ。



「……別に私は構いません」



今まで黙っていた真美が口を開く。口角を上げて、余裕そうな表情を浮かべている。まぁ……こいつは元々危ない思考をしていた。菜乃花と付き合えるなら何だってしそうな気配するし



「菜乃花先輩が私達の誰か一人を選ぶというのなら私は受け入れますが、もし、菜乃花先輩が逃げる選択肢を取ったら……私は初めて菜乃先輩を殴ってしまうかもしれません」



そう言って真美は再び笑う。殴る……か。もし、菜乃花が私達の手から逃げるというのなら。私はそれを受け入れようと思う。



「………考えてみたの。菜乃花ちゃんが私達の返事をせずに逃げるなんてことは……正直考えづらい。でも、万が一にそんなことがあるのなら……それを受け入れるわ」



そう言って真白は頷く。どうやら、答えは出たようだ。

……真白がそう答えてくれるのは予想外だ。もしかしたら、真白が反対するかもしれないと思っていたから。でも、私の提案を了承してくれるのならそれでいい。



「……なら、決まりだな」



そう言って私は微笑む。もう菜乃花は普通の恋なんて出来ない。

これは3人で決めたこと。私達はもう、菜乃花を手放す気なんてさらさらない。もし、菜乃花が逃げる選択肢なんてしたら一人ずつ殴るかもしれないから覚悟してね?なんて思いながら微笑んだ。

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