『選択と待ち』
そしてライブが終わり。体育館の出口で、私は三人を待っていると。
「あら?三人を待っているの?」
「あ、羽田先輩」
羽田先輩はにっこりと微笑み、そして、一言。羽田先輩はこう言った。
「で?誰を選ぶの?」
勢いよく、羽田先輩は私に聞いてきた。その目はキラキラと輝き、まるで獲物を狙う獣のようだった。
「その……それは……」
「今度は逃げないんでしょ?なら、教えて?誰が好きなのよ?」
ぐいぐい来る。後ずさりをしようにも、後ろは壁なのでそうも行かない。
これ言わないとダメ?
「言わなくてもいいけどさー。どうせ後で分かるし。それに今日が文化祭最終日だし」
羽田先輩はそう言って、私の耳元に口を近づける。
「まぁ、最終日と言っても、片付けで明日も来るわけだしー」
「それは……そ、そうですね」
「でもー、最終的に誰を選んだのか。知りたいなぁー」
キラキラ輝く目。何が何でも言わないと返さないぞ!という目だ。
私は一歩後ずさり、羽田先輩から距離を取るが、羽田先輩は一歩前進してくる。
これは逃げること叶わず……。観念するしかないのか? 私はごくりと喉を鳴しながら、そして一言……
「わ、私は………」
その言葉を遮るかのように、誰かが私の肩を思いっきり掴む。
びっくりして振り返ってみると……そこには――。
「ちょっとちょっと、何楽しそうな話してるの?明里先輩ずるいですよー。私抜きで、そんな楽しい会話するなんて」
「本当ですよ!明里先輩抜け駆けはダメです!」
そこにはにやにやと笑みを浮かべる川崎さんと丸山さんがいた。……し、新聞部のメンバーに囲まれてるんだけど!厄介極まりないメンバーが揃ってるんだけど!
「え、えっと……。み、みなさんはどうしてここに?」
私は引きつった笑みを浮かべながら、みんなに聞いた。すると丸山さんが紙束を持ちながらこう言ったのだ。
「新聞部部長に用がありまして」
「あ、そ、そうですか。なら、早く行った方が……」
新聞部の部長は羽田先輩のことだ。つまり、羽田先輩に会いに来たと言う訳である。
「でもー。こっちの方が面白そうなので」
そう言いながら三人揃ってにやにやと笑っている。
う、うわぁ……めんどくさい人達に囲まれた……。
私は心の中で頭を抱えていると、
「今面倒くさい奴らに囲まれたと思ったでしょ?」
川崎さんは図星をついてきた。
な、何でわかるのよ!怖いって! 私が驚きながら川崎さんを見ると、相変わらずにやにやと笑っている。
「顔に出てるわよ。桜田さん。まぁ、いいわ。それで?さっきの続きと行きたいのだけど」
私はその言葉を聞くなり、後ずさりをする。しかし川崎さんは逃がさないとばかりに詰め寄ってくる。
「誰が好きなの?」
さらに、羽田先輩はにやにやしながら質問してくる。
「……い、いや。先輩方には関係ないことで……」
「あるのよ。だって……好きだもん。好きな人の好きな人のこと知りたいじゃない?」
好きな人の好きな人のこと知りたい……、言い分はもちろん分かっている。だって羽田先輩は奏先輩のことが好きだし川崎さんは真白先輩のことが好きだし丸山さんは真美ちゃんのことが好きだし。
「……ま、無理には聞かないけどもー、私達の好きな人を泣かせたら許さないから」
圧を込められた言葉。私はそれに頷くことしかできなかった。
「それじゃ、私達は新聞部の方に行くから。どんな選択肢をしても後悔はしないようにねー」
そう言って、三人は体育館から出て行った。
私は三人の後ろ姿を見ながら、深いため息をつくことしかできなかった。
「(分かってるよ……そんなこと…)」
後悔がない選択肢。そんなの……私が分かっている。
これから私は一年A組か三年B組か文芸部の部室に行かなくてはならない。そして、そこで誰を選ぶのかいけない。
「なぁ。菜乃花。ちょっといいか?」
そんなことを思っていると、奏先輩が声をかけてくる。な、何でここにいるの?私は驚きつつも、奏先輩の方を見る。先輩は少しばつの悪そうな顔をしていて……
「告白のこと。今日に答えを聞くつもりだったんだよ」
唐突に言われ、私はドキッとしてしまう。一体、何を言われるのか。そう身構えていたら、奏先輩は意外なことを言った。
「今じゃなくてもいい」
……え?今じゃなくてもいい?それは…つまり……どういうこと?奏先輩は気まずそうに目線を逸らしながらこう言った。
「これに関しては……私達の勝手だ。悪いのは分かってる。でも……返事を明日に延ばしてほしい」
「それは……真白先輩も真美ちゃんも知っていることなんですよね?」
2人の同意なしでこんなことするわけがないのは分かってはいるが、一応聞いてみると、奏先輩はこくりと頷きながら。
「真白や真美も……私に賛同してくれた。いちいち教室で待ってるとか変なことするより明日に延ばすのがいいってな」
………明日何かあるの?私の頭にはそんな疑問しか浮かばなかった。でも……三人が待って欲しいというのなら私は待つ。とゆうか、私も待って貰えているのに待てない、なんて言えないし……。
「分かりました……奏先輩、また明日」
私がそう言うと、奏先輩はほっとしたように微笑み。
そして……私の耳元でこう言った。
――大好きだよ その一言で私は顔が熱くなるのを感じてしまった。でも……それと同時に心の中に温かいものを感じたのだった。
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