『桜田菜乃花の選択 〜前編〜』
明日は文化祭の片付け、そして……土曜日だ。私の選択肢は正しい……とは分からない。でも、
「(逃げるという選択肢はダメ…だよね)」
それは三人に失礼だと思う。だから、私はもう逃げることは出来ない。
それに、逃げたくはない……と思う自分がいるのだ。返事は……正直、まだ決まっていない。
だから、奏先輩が明日に延長を提案をしてきた時、安心している自分がいた。
だってまだ決まっていないから。あの三人になんて答えたらいいか、分からないから。しかし――、
「(明日程度に伸びたところで、答えは出ないよ……)」
ハーレムだなんてこと考えてはダメなんだ。
「(三人とも好き。それは本当。でも、ちゃんと答えを出さないと)」
そんなことわかってる。三人を好きだということは分かっている。だけど、私がきちんと答えを出さなければ、 またあのときみたいになってしまうのでは……と怖くなってしまう。
でも、それでも――。
「(もし、真白先輩と一緒に……もし、奏先輩と……真美ちゃんと)」
一人、一人ずつ付き合った後のシチュエーションを想像していく。そして――。
「(……私は……)」
自分が何をしたいか、それをはっきりと言葉にしよう。
「……明日」
絶対に明日で答えを出そう。
だから私は……
△▼△▼
決意を固めた。後は、もう……彼女に自分の思いをぶつけるだけだ!と、私はそう思いながら、学校の支度を準備していると、
「あれ?菜乃花さん?」
不意にそんな声が聞こえてくる。この声は……
「あ……拓海くん」
彼の名前は
「今日は土曜日ですよね?制服着てどうしたんですか?」
「あ。文化祭の片付けがあるんだ…」
私は拓海くんの言葉に答える。すると、彼は納得したようにうなずいて、
「ああ、なるほど。あれ?……とゆうことは華恋さん今一人ですか?」
チラチラと私の家を見ながらそう言った。まぁ、拓海くん……小さい頃からお姉ちゃんのこと好きだもんね……肝心のお姉ちゃんは全く気づいてないんだけど。
「うん。一人だけど……それがどうしたの?」
私が聞き返すと、彼は恥ずかしそうに頭をかきながらこう言った。
「…ちょっとでも華恋さんと一緒にいたいんです……」
そういいながら、顔を赤らめる拓海くんを見て私は微笑ましくなった。……お姉ちゃんと拓海くんの恋の行方は分からない。でも……
「そっか……うん。応援してるよ」
私も協力しようと思う。拓海くんは昔からお世話になっているしね。そう言うと、拓海くんは照れくさそうに笑った。
「ありがとう。菜乃花さん」
その笑顔を見て、昔と変わらないなぁと思いながら私は学校へと向かった。
△▼△▼
学校に到着し、私は早速片付けに取り掛かっていると…
「菜乃花ちゃん」
真白先輩の声がする。私は真白先輩の方に顔を向けた。相変わらず、綺麗な顔立ちの先輩だ。そんな先輩が私の隣へ来て……
「今日よねー」
「は、はい」
「ふふっ。緊張してる?」
「そ、そんなことはないですよ」
緊張……というか、不安の方が強い。いや、三人がどんな結末でも受け入れてくれるのはわかってはいるが。
答えはもう出ている。しかし、答えを伝えてしまうのが怖い。でも、言わないとダメなんだ。
「ねぇ。菜乃花ちゃん。私はどんな答えでも受け入れる。すぐには無理だと思う。嫉妬するし邪魔するかもしれない。……でも…私が菜乃花ちゃんを好きなのは確かだから」
真剣で、どこか寂しそうな目で……私を見る真白先輩。だから私もちゃんと返事をしよう、と思えるのだ。
「待ってるね。部室で」
と、真白先輩は言った。
△▼△▼
「菜乃花先輩」
掃除を終えて、一人になっていると、真美ちゃんの声が耳に入った。
真美ちゃんはニコニコとした笑顔を浮かべて、私の隣に立つ。
「菜乃花先輩……いよいよですねー。本当なら昨日答えが出るはずでしたけど」
「そうだね……ごめんね」
私がそう言うと、真美ちゃんは首を左右に振りながら。
「菜乃花先輩が悪いわけではありません。悪いのは奏先輩です。奏先輩が延長するからですよ。……でも、菜乃花先輩が迷っているのは、分かっていましたし、菜乃花先輩は優しいのは、分かってましたから。でも……今日……答えが出ないと言うのなら私は許しませんけどね!」
ズパッとそう言う真美ちゃん。そして、笑顔から真剣な表情に変えている。何だか……
「初対面のときの真美ちゃんみたいな言い方だね」
「う……自分でもそう思います」
苦笑いしながらそう言う真美ちゃん。でも、すぐに笑顔に戻して……
「……待ってますよ。一年A組で」
そう真美ちゃんは微笑んだ。
△▼△▼
「菜乃花」
声が聞こえてくる。私は声のした方へ顔を向けると、そこには……
「奏先輩」
「菜乃花、答えは出たか?」
会っていきなりそのことを聞く奏先輩。随分と……急。でも、そんな奏先輩のこと嫌いではない。……むしろ好きだ。
「はい」
私は奏先輩の目を見ながらそう答えた。すると、奏先輩は嬉しそうに笑いながらこう言った。
「……そうか。なら、私はこれ以上言うつもりはない……もう午前は終わり。十二時に……待ってるよ。あそこ――三年B組で」
そう言って奏先輩は去っていく。その後ろ姿を私は見つめながら
「はい。……奏先輩」
そう呟いた。
△▼△▼
――もうすぐ十二時になる。鼓動が鳴り止まない。緊張している。
でも……これは私の選択なのだから。もう逃げないって決めたのだから。
だから私はその人が待っている場所へといく。扉の前で一度深呼吸をしながら、気持ちを整えながら……
「(大丈夫。これは……私が選んだ道。……もう逃げることは許されない道)」
そう心の中で私は呟きながら、意を決して扉を開いた――。
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