『真美ちゃんとお姉ちゃん』

お姉ちゃんの方を見ると、そこには一人の男性が立っていた。その男性はお姉ちゃんの腕を掴んでいて、今にも連れて行こうとしているように見えた。



「……え?華恋さんが男と一緒にいる?」



隣にいた真美ちゃんもその光景を見たらしく、信じられないと言った様子だった。



「と、とにかく……助けないと!!」



私がそう言った前に真美ちゃんが駆け出していき、



「何してるんですか?!離してください!」



真美ちゃんは男性に近づきながら大声で叫んだ。すると男性はこちらを振り向き、私達を見て少し驚いたような表情をしていた。



「誰……君?」



男性の第一声はそれだった。睨みつけるように真美ちゃんを見つめている。私はただハラハラしながらその様子を見ていた。情けない。自分の姉の危機なのに何も出来ないなんて……。そんなことを思っていると、真美ちゃんは更に大きな声でこう言い放ったのだ。



「貴方こそ誰なんですか?」



そう言って真美ちゃんは男の人を睨み、一歩も引かない姿勢を見せたのであった。



「ちっ……」



男は舌打ちをして呟き、その場から去って行った。それを確認すると真美ちゃんは大きくため息をつくのと同時に、



「………ごめん。ありがとう」



お姉ちゃんは申し訳なさそうな顔で真美ちゃんに向かって謝った。



「いいえ。気にしないでください。それよりも大丈夫でしたか?」



「ええ。本当にごめんね。私のせいだわ……ごめんね。じゃ、お邪魔して悪かったわ……」



そしてお姉ちゃんはそのままどこかへ行ってしまった。



「………菜乃花先輩……どうします?追いかけますか?」



「ううん。今はそっとしておくよ……お姉ちゃんはきっと一人になりたいんだと思うし」



それにお姉ちゃんはああいうとき怒るんだよなぁ。真剣に考え事しているときなんだよね。だからほっとくべきだと思う。でもさっきの男性は何者だろうか……?



「まぁ……、菜乃花先輩がそう言うならそれで良いですけど……」



真美ちゃんは納得していないようだったが、とりあえずこの場から離れることにしたようだ。

その後、私たちは出店を一通り見て回った後――。



「……全く、うちの姉は何をやってるのかしら……」



先ほどあった出来事を話し終えると、真美ちゃんは呆れたようにため息をついた。そういえば、美咲さんと一緒じゃなかったのかな? 確かに一緒に回るって言っていた気がするんだけど……?



「…ありがとうね。真美ちゃん。……あのとき、怖くて私……何もできなかったから……」



「いえ。別に気にしてませんよ。そんなことより――、華恋さんのこと心配ですね……家に帰ったら連絡しておきましょうか?」



「そうだね。お願いできる?」



「はい!」



真美ちゃんは元気よく返事をして、それからしばらく二人で文化祭を楽しんだ。




△▼△▼



あの後。家に帰ってすぐにお姉ちゃんに会いに行った。お姉ちゃんは疲れ切った顔をしながら出迎えてくれた。そして今日起きたことを話してくれたのだが――



「あの男は………私の元カレなの」



お姉ちゃんの元カレなんて初めて聞いた。何でも、お姉ちゃんが高校生のときに付き合っていた人らしい。お姉ちゃんが高校生の頃は……私がお姉ちゃんを避け続けていた時期でもあった。



まさか、そのときに付き合ってた人があんな人だったとは……。

その人は今年大学二年生になるらしく、お姉ちゃんのことをまだ好きだと言っていたとかなんとか。それでしつこく言い寄られていて困っているとのことだ。



「あっちが浮気して別れたのに、未だに未練があるなんて迷惑もいいところよ」



お姉ちゃんは苦笑いを浮かべながら言った。……その言葉に私は、何も言えなかった。だって、私にはそんな経験がないから……



「……ごめんなさい。嫌なこと思い出させてごめんね……お姉ちゃん……」



「ううん。もう過ぎたことだし、大丈夫だよ。……それより、明日も文化祭あるわよね?良かったら一緒に回らない?」



「えっ?! う、うん!」



突然のお誘いだったので驚いてしまったが、もちろんOKを出した。するとお姉ちゃんはとても嬉しそうな顔をしていた。……なんかこういうやり取り久々かも……と、思うと少し笑ってしまった。

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