『文化祭の準備』

私――桜田菜乃花は今までずっと目を逸らし続けてきたことがある。問題から目を逸らしていた。逃げていたのだ。



この関係が心地よくて壊したくなくて、私は問題を先送りにし続けていた。みんな優しくしてくれる。だから大丈夫だと心のどこかで思っていたんだと思う。



だけどもう限界みたいだ。これ以上逃げることはできないだろう。だって――、



「おかえりなさいませ♡ご主人様!」



目の前には笑顔で出迎えてくれるメイド服姿の真白先輩と、



「何で私がこんな格好しなくちゃいけないんだよ……」



不満そうな表情を浮かべながらため息をつく奏先輩と、



「菜乃花先輩!似合ってますか……?」



そう言いながら拳を握りしめながら微笑む真美ちゃんがいた。



△▼△▼



何で三人がメイド服姿でいるのかと言うと文化祭で文芸部で出し物をするからだ。出し物の内容は『愛してるゲーム』というものらしい。



ルールとしてはお互い向かい合い、交互に愛の言葉を言い合うものだそうだ。そして一番恥ずかしくなった人が負けとなる。



何故そんなことをすることになったかというと、文芸部のネタギレが原因だった。本当に愛している同士の言葉ならインスピレーションが湧きやすいのではないかと考えた結果がこれだというわけだ。



ちなみに何でメイド服なのかというと――、



「新聞部のアドバイスなのに素直に聞くなんて真白らしくねーだろ。しかも羽田のアドバイスだし」



「うるさいわねぇ。いいじゃない別に……」



羽田……って確か、一個上の先輩だよな……私は会ったことがないけれどどんな人なんだろう……?川崎さんもあんまり教えてくれないし……そんなことを思っていると、



「桜田さん!!」



突然、バンッ!と扉が開かれ、一人の女子生徒が入ってきた。しかも私の名前を呼びながら……



その人は肩まで伸びた黒髪が特徴的で眼鏡をかけており、制服も綺麗に着こなしていて真面目さが伝わってくるような人だった。

誰だろうかと思っていると、



「ちょっと来てくれないかしら!?早くしないと間に合わないわよ!!ほらっ!さぁ行くわよ!」



いきなり手を掴まれ引っ張られた。え……?ちょ、間に合わないってどういうことなんですかね……?それに何処に行くつもりなんでしょうか……?



「ち、ちょっと!羽田さん!急に来て菜乃花ちゃんを何処に連れて行く気なの!?」



真白先輩は私の手を掴む女子生徒に向かって言った。すると彼女は振り返り、



「ごめんさない。事情は話せないわ。でもあなた達にとって悪いようにはしないから安心して頂戴」



と言って私の手を引っ張って何処かに連れて行かれる。……振りほどこうにも意外に強い力なので無理だった。

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