4章 魔法少女大戦(2)
†††
遠い鳴動で目が覚めた。
うっすらと目をひらき、軽い頭痛を覚えて顔をしかめる。
クリスティナの家のソファーで、ぼくはひとり、上体を起こす。
壁の時計は、午後五時半。
クリスティナがいない。
また、頭が痛む。
ぼくはここでなにをしていた?
確か……クリスティナとふたりでこのソファーに腰掛け、 ハーブティーを飲んで……それから……。
『たとえばわたしが五百歳の吸血鬼で、これまで一千人以上の生き血をすすって生きてきたとしても?』
彼女の言葉を、思い出した。
『あなたが一千一人目でも、わたしを嫌いにならないで』
その言葉の直後、ぼくの記憶は途切れ……一時間後、こうして目覚めた。
クリスティナはどこに行った?
彼女の言葉の真意は?
また、窓がびりびりと震えた。空振、というやつだろうか。さっきから遠い鳴動がかすかに伝い、わずかな震動を室内にいても感じる。
ぼくは立ち上がり、東側の窓に歩み寄って新宿方面へ目を送り――
「…………っ⁉」
あたかも怪獣が通り過ぎたような破壊の痕跡に言葉を失う。
夕闇のさなか、このタワーマンションから新宿へつづく甲州街道に沿って、密集した建築物群が戦艦の航跡さながら倒壊し、オレンジの炎を吐いて燃えさかっていた。
目線を地平線へ持ち上げると、約十キロメートル彼方、一時間前まではっきりと見えていた東京都庁舎が見えず、代わりに低く立ちこめた黒雲と、地上を舐める炎の河、真っ黒に燻された建築物群が見て取れる。
これだけ都市が破壊されながら、逃げ惑う人間も消防車両もヘリコプターもない。動くものは、空を舞う翼竜の群れだけ。
ここは、「ウラ」だ。
ぼくはいつの間にか「ウラ」へ連れてこられたらしい。
――何が起きている?
頭が働かないまま、ぼくはガラス戸をあけ、東側のベランダに出る。
大気中に濃い煤の匂い。魔物以外に動くものはないか、ぼくは新宿方面へ目を凝らす。
――誰かがあそこで戦ってる?
――……まさか…………。
午後六時にカヲルと会う、とクリスティナは言っていた。
あの情景は、カヲルと関係があるのか?
なにが起きているのかはわからない。だけど、ひどく胸騒ぎがする。誰かがこれから不幸になるような、そんな予感がやまない。
ぼくはベランダに出た。
地上九十二メートル、眼下いっぱい、破壊された東京の夕景を見下ろして。
意を決し、高層マンション二十九階のベランダの手すりに直立した。
†††
カヲルは地に這いつくばって、荒く息をついていた。
七大天使「サリエル」を物質化させた剣は役目を終えて、すでに微粒子となって風へ散っている。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
いまだくすぶる瓦礫の上へ、カヲルはころんと仰向けになる。
黒い雨が顔を打つ。着ている制服もズタズタでずぶ濡れ、手足も顔も煤で黒ずみ、あちこちに血がにじむ。
もう戦う体力は残っていない。サリエルの一撃で魔力も体力も使い果たしてしまった。いまの状態では、一般男性相手でも敵わないだろう。
新宿上空に立ちこめた煤煙をしばらく見上げ、それからなんとか上体を起こして、カヲルは自らが生んだ破壊の跡を確認。
立ちこめていた高層ビル群はもはやなく、視界が水平方向へ広くひらけていた。
小田急デパートも京王デパートも跡形なく、ルミネとミロードは上層階を吹き飛ばされ、低層階の骨組みと基礎が残るのみ。モード学園コクーンタワーは全面を覆っていた複層ガラスが全部吹き飛び、骨組みだけで大きく真後ろへ倒れかけている。副都心の高層ビル群はドミノ倒しのように隣のビルにもたれかかって、かろうじて原型を保っているビルも残ってはいるが、全損したガラス窓から炎を吹き上げて激しく燃えており、そのうち全て倒壊するだろう。
ずずーん、ずーん……と建物の崩落音が周囲から聞こえてくる。都市ガスによるくぐもった爆発音もやむ気配がない。大気中に立ちこめた粉塵と煤を、折からの雨が洗い流している。
カヲルはよろよろと立ち上がり、地を覆う瓦礫の山へと目を移す。
クリスティナはどうなっただろう。
死亡したなら、いまごろ「オモテ」へ戻ったはず。それなら、クリスティナが保有していた精霊が全て、宿主を失ってこのあたりをさまよっているはずだが、見当たらない。
カヲルは大気中にクリスティナの魔力を求めて、ふらふらと歩き。
ほどなく――見つけた。
「……………………」
カヲルは黙って、変わり果てたクリスティナを見下ろす。
瓦礫に仰向けに横たわったクリスティナは、虫の息の下、自嘲するように笑う。
「……呆れたでしょう? ……これが、わたしの正体」
黒ずみ、血にまみれたクリスティナをカヲルは見下ろし、その隣に膝をついた。
「どこに呆れればいいの?」
感情のこもらない目で、下半身が千切れ飛び、上半身だけになったクリスティナを見やる。
「わたし、人間じゃないの」
「へえ」
上半身の断面から臓器をこぼし、千切れた脊椎をのぞかせながら、クリスティナは微笑みの背後に複雑な気持ちを忍ばせる。
普通ならば身体が微粒子になって、とっくに「オモテ」へ戻っている状態だ。だがクリスティナの肉体がまだ「ウラ」に残っているのは、下半身が千切れ飛ぼうと死なない身体を持っているから。
クリスティナの正体は、おそらく。
「ハーフバンパイア?」
「……ハーフと呼べるほど血が濃くない。クォーターの、そのまたクォーターくらい。血が薄まりすぎた、中途半端なバンパイア。身体は成長するし、寿命も人間と変わらない。ただ、吸血で能力を奪うことはできる」
「……………………」
「……十二歳のとき、祖母に言われたの。上水流ツカサの血を吸って、継承魔法を奪いなさいって」
「……うん。言わなくていいよ」
カヲルはクリスティナの告白をやめさせ、空を見上げた。悲しい秘密は聞きたくないし、話すクリスティナも辛いだろう。
西の空から、誰かが飛んでくる。
魔力がダダ漏れの、下手な飛び方だ。探知する必要もなく、誰が来るのかわかる。
「もうすぐツカサくんが来るけど、どうする?」
「……………………」
クリスティナの表情が翳る。
帰還魔法を使えば「オモテ」へ戻れるが、いまの状態では難しいだろう。たぶんクリスティナは自分の家をゲートにしているだろうし、ゲートでない場所で帰還魔法を使うと大幅に体力を消費する。いまのクリスティナに、そんな力は残されていない。
――好きなひとに、いまのすがたは見られたくないよね。
察して、提案。
「ここで殺してあげてもいいよ。それなら、ツカサくんに見られないし」
クリスティナは、少し黙ってカヲルを見上げ、
「……それだと、わたしの精霊を全部あなたに取られてしまう」
カヲルも黙って、クリスティナを見下ろす。
吸血鬼の倒し方は知っている。心臓に鉛の剣を突き刺せばいい。それでクリスティナは「ウラ」から消滅し、無事に「オモテ」へ帰還できる。だが真剣仕合に敗れたクリスティナの保有する精霊は全てこの場に残り、所有権がカヲルに移る。
黙考して、カヲルは告げた。
「……あなたの精霊は取らない。全部放流する。だから代わりに、わたしのお願い、ひとつだけ聞いてくれない?」
クリスティナは訝しげな表情でカヲルを見上げ、答えに詰まる。
「無茶な要求じゃなくて、個人的なお願い。断られると悲しいから、お願いの内容は言えない。だから、絶対お願いを聞くって約束して。そしたら殺してあげるし精霊も取らない」
クリスティナは呆れる。あまりにあちこちずさんな要求だ。しかしツカサが近づいてくる気配はわかる。
下半身が千切れて、臓器を撒き散らしながら死ぬこともできない、こんなバケモノみたいなすがたをツカサに見られたくない。
「……わかった。お願いを聞く」
少しだけ、投げやりな気分だった。自分は敗者だし、勝者のなすがままになって当たり前。人権を奪われて奴隷にされても、敗者は文句をいえない。自分より強い相手に勝負を挑んだ罰がこれなら、受け入れるしか。
「おっけー。やったぜ」
カヲルは最後の力を振り絞って手印を切り、空間から刀身が銅でできた剣を取り出し、剣尖をクリスティナの心臓へ当てる。
「痛くないようにズドンって行くから、安心して」
言われてふと、クリスティナはカヲルのお願いの内容に思い至る。
――ツカサから手を引け、と言うつもり?
それならば、精霊全部と引き換えにする価値はある。上水流家の継承者の血を合法的に奪うには、肉体関係を結んで子どもを産むのが一番だから。
クリスティナは不安げな眼差しを処刑人へむけて。
「……それで、お願いって?」
血と泥にまみれたカヲルは可憐に笑い、クリスティナの持つ全ての精霊と等価値なお願いを口にした。
「わたしの親友になって」
告げて、剣尖をクリスティナの心臓に突き立てた。
†††
暮れなずむ空の下、高度十五メートルを飛行しながら、ぼくは変わり果てた新宿を眺めていた。
かつて建ち並んでいた高層ビル群が無惨に傾き、あるいは倒れ、見知ったデパートやショッピングビルも焼け焦げて、傾き、これから倒れようとしている。地面には黒焦げの鉄骨や外壁板やコンクリート片が散乱し、魔物の亡骸もあちこちにあって、それをついばむ鳥やハイエナみたいな魔物もいる。
いったいなにをどうやれば、これほど都市を破壊することができるのか。
千歳烏山から新宿にかけて、ゴジラとキングギドラが火を噴きながらのし歩いたような、すさまじすぎる破壊の光景だった。「ウラ」だから問題ないだろうけど、もしこれが「オモテ」だったら死傷者は百万人を超えるはず。魔法使いが秘める力の大きさに、ぼくはただおののき、呆れるしかない。
都庁が存在していたはずの空間は更地となって、彼方のかろうじて原型を保つ高島屋ビルとNTTドコモタワー、副都心の折れ曲がったり倒壊したりまだ燃え上がっている高層ビルのおかげでかろうじてここが新宿だとわかる。
たぶん新宿駅だったのだろう、建物のコンクリート基礎部しか残っていない一面の焼け野原に、見覚えのある少女がひとり佇み、ぼくへ片手を振っていた。
「やっほー。おつかれー」
ぼくは高度を落とし、カヲルの傍らに降り立った。
カヲルは全身、煤と血のりにまみれ、制服もズタズタに切り裂かれていた。ひどい格好なのだけど、不思議にぼくは、いまのカヲルがかっこよく見えた。
「これ、きみが?」
ぼくは周囲の惨状を指さして、尋ねた。
「相手が強かったんで、仕方なく」
微笑むカヲルの周囲には、赤い微粒子がたなびいていた。「ウラ」で魔法使いが死亡したとき、この赤い微粒子が散る。カヲルが誰かを倒したのだろう。
「誰と戦ったの?」
「誰だと思う?」
質問に質問を返され、ぼくは少しカヲルを見やってから、答える。
「クリス」
「超強かった」
カヲルはにこにこしながら、素っ気なく答える。ぼくは溜息をこぼし、
「詳しく聞いてもいいかな」
「自分でクリスに聞きなよ」
カヲルはつれなく答えて、邪悪な笑みをたたえ、ぼくの脇腹を肘でつつく。
「このぅ~。こいつぅ~」
「なにそれ、どういうこと」
「おぬしも罪じゃのう、このぅ~」
中年男性みたいなゲスな笑みをたたえ、ぼくの脇腹をぐりぐり。
意味がわからない。ていうか、
「なんか、精霊? いるんだけど」
いつの間にかカヲルの背後に、見たこともない精霊が複数体、付き従うように控えていた。
ぐりぐりをやめて、カヲルは背後を振り返る。
火の鳥みたいなのや、賢者っぽいの、岩っぽいの、発光しながら旋回する魔方陣がふたつ、それに黒い甲冑を着込んだ、いかめしい騎士。
カヲルはひととおり精霊たちを鑑賞して、溜息をつく。
「シームルグ、フランベルジュ、トール……。強いのばっかり。欲しいなあ……」
すると、ローブを着込んだ賢者らしき精霊が、しわがれ声で言葉をかけた。
『奪うがいい、下水流家の姫よ。気に病むことはなにもない。貴殿は賭けに勝った。報酬を得る資格がある』
精霊も、より強い宿主と契約を結ぶことで、自身を強化できるのだそうだ。だから彼らも、勝者との契約を望んでいるらしいが、カヲルの答えは。
「クリスと約束したから。全員、放流で」
答えると、賢者はあからさまに失望の色をみせた。
『……正気か? いまだかつて、勝者の特権を得ながら儂を奪わなかった術士などひとりもおらぬが』
「あなたが結界を無効化して、受け太刀を壊してたのね、フランベルジュ。すごい強かったよ。だからクリスのそばにいてあげて」
告げると、フランベルジュと呼ばれた賢者はますます失望した表情に。しかしカヲルが一体一体へ手印を切ると、おとなしくその場を離れ、いずこへか消えていった。
「クリスの精霊、放流したんだ?」
「うん。これが一番、後腐れないし」
告げてカヲルは、両手を頭のうしろに組んだ。
和知川原リヒトがいうには、魔法使いが相手の精霊を奪うのは生存競争なのだから当たり前、なのだそうだ。この世界の生き物はみんな、弱者を食べることで命を次代へ繋いでいる。魔法使いも当然、厳しい闘争を勝ち抜いた強いものだけが生き抜き、より優れた遺伝子を次の代へ繋ぐ資格を得る。それは正しいとか間違いとかいう話ではなく、生命として仕方の無い在り方なのだと。
だから、クリスティナの精霊を奪わないカヲルはきっと、魔法使いとしては不純な存在なのだろう。純粋な魔法使いであれば当然のように、奪った精霊を自分のものにするか、仲間に配分するだろう。そうすることで一族は強くなり、より優れた血を継承していける。辛く厳しい生存競争を勝ち抜くには、優しさより強さを求めていかねばならない。
その理屈はわかるけれど。
他人の精霊を奪って強くなるのは、この明るく元気な少女には似合わない。強くなることよりも、これからのクリスティナとの穏やかな学校生活を優先するカヲルのことを、正解か間違いかは脇に置いて、ぼくは素敵で魅力的なひとだと思った。
「あーあ、さすがに疲れちゃった。おなかもすいたし、帰ろっか」
「……そうだね。ボロボロだし。……飛べる?」
尋ねると、カヲルは困り顔で答えた。飛べる力なんて、残ってるはずないか。
「……いいよ、手、握って」
はじめて空を飛んだときにカヲルがしてくれたように、ぼくはカヲルの手を取った。
カヲルは少し戸惑って、けれど、ぼくの意図を汲んでくれたのか、ぼくの手を握り返した。
「手、放すなよ?」
男言葉で、そんな挑発をいれてくる。最近気づいたけれど、カヲルは照れくさいとき、男言葉でごまかすクセがある。
「わかってる。きみこそ、しっかり握ってて」
そう告げて、ぼくはカヲルの手を握り、空へ。
みるみるうちに、新宿の廃墟が後方へ遠ざかっていく。
高度八十メートルまで上昇して、水平飛行へ移り、西を目指す。
わずかな残照が、箱根山の輪郭を浮き立たせていた。空はもう夜の色に染まっているが、燃えさかる街並みが夜を明るく照らしている。
燃えさかる桜上水駅上空を飛びすぎたとき、くたびれきったカヲルが溜息交じりに、
「帰ったらごはん作らなきゃ……」
「無理でしょ。ぼく、ファミリーのカレーでいいよ」
「わたしもそれでいいかなー。お風呂入りたい……」
ぶつくさ言いながら、ぼくの手を握り直し、黙って飛ぶ。
五分ほどで千歳烏山に到着。生まれ育った街は、またしてもきれいに焼き払われて燃えさかっていた。カレーがおいしい立ち食いそば「ファミリー」も跡形なく吹っ飛んで、黄色い看板の欠片が瓦礫の狭間に垣間見える。
「ほんとにゴジラだね、きみ……」
「失礼な。クリスも一緒に壊してたよ」
戦うところを見ていないからわからないが、いったいどういう戦いかたをしたのだろう。
ザ・タワー烏山とひなた荘を結ぶ直線が深さ二メートル、幅一.五メートルほどの溝に変じて、その周囲の建物が軒並み倒壊し燃え上がっている。
ひなた荘も再びきれいに吹き飛んで、黒ずんだ建物の基礎部が残っているだけだった。
「じゃ、帰るね」「うぃーっす」
203号室のトイレだったであろう場所で、ぼくは手印を切って、帰還をイメージ。最近、「ウラ」への入り方と戻り方を覚えた。
朱色の微粒子がぼくらの周囲を取り巻いて視界を閉ざし――
とばりが晴れると、ぼくたちは「オモテ」の203号室のトイレで密着していた。
「あ……」「うあ、ヤバ」
裸電球の灯りのした、制服をズタズタに切り刻まれて黒ずんだカヲルが恥ずかしそうに手で胸元を隠す。
ぼくは急いで外廊下へ出て、誰もいないことを確認。素早くカヲルを202号室へ移動させて、
「お風呂、先に行く?」「うん、そだね」
約束して、201号室へ帰還。
我が家に帰ってようやくひといきをついたそのとき、財布とスマホを持っていないことに気がついた。
「あ、あれ、なんで……」
思案して、気づく。カヲルは「ウラ」へ行くとき、必ずスマホと財布は「オモテ」へ置いていた。理由を尋ねると、「ウラ」の戦闘に巻き込まれて壊れたり無くしたりすると大変だから、とのこと。だからぼくも「ウラ」で修行するときは財布とスマホはこの部屋に残していくのだが……ない。
どこに置いたっけ?
「あ…………」
思い出した。そういえばぼくはクリスティナの家から「ウラ」へ入った。もしもクリスティナが気を利かせて、ぼくの財布とスマホを自分の部屋に置いてから「ウラ」へ入ったとしたら。
「クリスティナの家に、まだある……」
その事実に気づいて、途方に暮れる。クリスティナへの連絡手段がない。カヲルに頼んで連絡してもらおうかと思ったが、いましがた戦ったばかりのふたりにそんなことを頼むのもなんだか気が引ける……。
「え、そうなの? いいよオッケー、クリスに聞いてみる~」
ほどなくお風呂セットを抱えたカヲルが部屋に来て、スマホの件を切り出すと、あっさり受け入れクリスティナにLINEしてくれた。
返事はすぐに届き。
「明日、学校行くとき、ひなた荘に持っていこうか、って」
クリスティナの家からなら、学校に行く途中にひなた荘があるから、それが良いかも。ぼくがクリスティナの家まで取りに行ってもいいけど、いましがた「ウラ」でカヲルと戦ったばかりなら、会うのに少し時間を置いたほうがいい気がした。
「あ、うん、ごめん、それでお願いします、って」
ふたりで銭湯へむかいながら、クリスティナにお礼のメッセージを送信し、ぼくたちは顔を上げた。
「クリスとケンカしたわけじゃないんだね」
「ケンカして、親友になったの」
銭湯ののれんをくぐりながら、ぼくらはそんな言葉を交わした。
友達とケンカして、仲直りして、前よりいっそう仲が深まるって、よくあることだ。カヲルとクリスティナの場合は新宿が壊滅したけれど、ふたりが親友になれたなら良いのではないだろうか。なにしろ午前三時には、元通りに直っているし。
番台の親父が破顔して、
「お、カヲルちゃんいらっしゃい! 昨日の銀髪の子、友達かい⁉ また一緒においでよ、サウナサービスしてあげっから!」
カヲルも愛想良く、
「あ、はい、友達、また来ると思います!」
明るい未来を言葉にすると、笑顔を残して女湯ののれんをくぐっていった。
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