3章 麗しのクリスティナ(1)

三.麗しのクリスティナ


 翌朝。

「ねむ……」

「喋りすぎたね」

 ぼくとカヲルは制服を着込み、眠そうな顔をふたつ並べて通学路を歩いている。

 四月の少し冷たい風が吹く、新学期二日目の朝。桜並木が朝日を浴びて、緑がかった柔らかい光が登校する生徒たちに落ちている。

「ぼく、先に寝た?」

「覚えてない。クリスのこと聞いたら返事がなかった気がする」

「きみがクリスのことばっかり聞いてきたのは覚えてるけど…………まあいいか」

 ぼくの質問を受け流して、眠たそうなカヲルはてくてく、並木道を歩き抜ける。

 昨夜、魔法使いたちの戦いで吹き飛んだはずの街路樹も道沿いの民家も、知らん顔で安穏と居並んでる。電線の雀も平和そうにちゅんちゅん鳴いて、家の前で水まきしていたおばさんがカヲルへ顔をあげた。

「あらー、下水流さん。おはよう」

「あ、おはようございます!」

 このおばさん、確か……狼の爪でカヲルを全周囲から攻撃してた、魔法使いだ。昨夜、カヲルに首を斬られて消滅したはずだが。

「放流してくれてありがとうね……。昨夜、アリちゃんとルーちゃん、ふたりとも帰ってきてくれたの! もううれしくてうれしくて。ふたりがいなくなったらあたし、もう生きていけないくらいショックだったから、ありがとうね……」

おばちゃんは感極まった表情で、目元に涙さえたたえてカヲルへ感謝を伝える。

「あはは、いえ、もとから取るつもりなかったですし。ふたりとも、苫米地さんのことが好きなんですね、一晩で帰ってくるなんて」

「感激しちゃって、昨日は一晩中、旦那放ったらかしてかわいがってたの。もう、下水流さんにはなんてお礼いったらいいかわかんなくて。わたしにできることなんでもするから、これからもよろしくね……」

おばちゃんはハンカチで目元を拭いながら、小声でそんなことを言う。

「はい、毎朝ここ通るんで、これからよろしくお願いします!」

カヲルは愛想良くそう言って、頭を何度も下げるおばちゃんに手を振って歩き出す。

「…………昨日、戦ったひとだよね」

 カヲルと並んで歩きながら、ぼくは問う。

「うん。放流した精霊が、無事に戻ったみたい。良かったよ。前の宿主と相性悪い精霊は、そのまんま野良になっちゃうし」

「………なんか、ほんと、ネコみたいだね、精霊って……………」

 並んで歩きながら、ぼくは昨日カヲルが斬首した魔法使いが現実世界で生きていることを確認。まあ、さすがに本当に殺すわけはないだろうけど、昨夜戦った相手とこっちで普通に挨拶していることに、少しばかり違和感を覚える。

「普通は、『ウラ』の出来事をこっちの世界で話したりしないけど。ま、ひとによるね」

 カヲルはそんなことを言って、なにごともなかったように、すたすた歩く。

 ほどなく街路樹のむこうに、ガヤ校の門と校舎が見えてくる。

 昨夜、カヲルが放った一撃で崩落したはずの校舎はいつもと変わらず健在で、粉微塵に砕け散ったはずの窓ガラスも整然と青空を映していた。

 校門から校舎への道すがら、ほかの男子生徒たちがちらほら、こちらへ目線を送る。

 大半がまずカヲルに目をやり、それから傍らのぼくを確認、表情に嫉妬と羨望を差し込ませる。誰が見たって美少女のカヲルと、チビで冴えないぼくの組み合わせは、端から見れば珍妙に映るだろう。

 カヲルは確かに、可憐な美少女だ。性格も明るくて元気で、ちょっと気が強いけど文句もいわずにぼくと三食を共にして、夜遅くまで困りごとに付き合ってくれる優しさも持ち合わせている。非の打ち所のない女の子なのだけど、同時にすさまじい力を秘めた魔法使いでもある。

 その正体を知ったら、みんなどうするのだろう。

 うらやむのか、崇めるのか、恐れるのか、中世の魔女狩りみたいに排斥するのか。

ぼくらの常識からあまりに遠く離れたところに存在する下水流カヲル。

 彼女はこれからもずっと自分の力を隠したまま、この社会で生きていくのだろうか。

それってけっこう、大変な生き方のような気もするけど。


二限目は隣のC組との合同体育で、バスケットボールだった。

 ぼくは運動はそこそこ得意だ。中学時代は剣道部に所属し、強豪校からスカウトが来るくらいには強かった。特に俊敏さには自信がある。

 味方からパスが来て、前方へ目を送ったとき。

「よう」

 見たことのある生徒が、ぼくの目の前に立ちはだかっていた。

「……きみは……」 

 ぼくは隣の味方へパスを回し、ゴール前へ走り込む。

 金髪の坊主頭。眉毛も金色、耳にはピアス。日焼けした全身、鍛え上げられた両腕に浮き出た血管。やさぐれた目つきに、凶悪そうにつり上がった口の端。

「和知川原リヒトだ。覚えておけ、上水流」

 競り合いながら、ぼくにだけ聞こえる声でリヒトは言った。

 昨夜、カヲルと戦っていた魔法使いだ。C組の生徒だったらしい。彼がなぜ、ぼくを父方の姓で呼ぶのか。

『言ったと思うけど、きみの能力を狙う魔法使いがいるの。校内を歩いて気づいたけど、すでに生徒のなかにも、魔法使いが紛れ込んでる』

 昨日聞いたカヲルの言葉が、耳元に舞い戻る。

 味方からパスが来た。少し距離があるが、シュート。しかしリヒトの片手が伸びて、ボールをはたき落とされた。

 リヒトは奪ったボールを仲間にパス。C組の生徒が一気にD組のゴールへ走りこむなか、リヒトはぼくの耳に口を寄せ、

「下水流カヲルに伝えろ。坂本たちは二度とお前に関わらない。アスタロスを解放した礼だ」

「…………」

「だが、次は必ずお前の精霊を奪ってやる」

 それだけ言って、リヒトはゲームへ戻っていった。ぼくは彼の背中を睨む。リヒトとカヲルは同じC組なんだから、自分で言えばいいのに。

 ミニゲームが終わり、次のチームがゲームをはじめる。

 コート脇で順番待ちをしていると、久保がにやけながら寄ってきた。

「んだよツカサ、リヒト知ってんの? なんか喋ってたろ?」

「……知り合いってほどでも。昨日ちょっと、顔見知りになっただけ」

「へえ。どうやって知り合った?」

 なんだか久保は、リヒトとぼくの仲に興味津々らしい。「ウラ」のことなんて喋っても信じてもらえないだろうから、ごまかす。

「カヲルと知り合いみたい。てか彼、有名?」

「知らねーの? リヒト、あんなナリしてて成績いつも学年トップだぜ。坂本たちも絡みたいらしいけど、全然相手にしねーし。出来る一匹狼? みたいな?」

 へえ……とぼくは喉の奥で返事しかできない。確かにリヒトの見た目は半グレだが、昨夜も精霊について詳しく解説したりしていたから頭はいいのだろう。やっぱり魔法使いって、いろいろ普通じゃないんだな。

「そんなすごいんだ。でも、ぼくとは関係ないよ。今後絡むこともないだろうし」

ふーん、と軽い鼻息を鳴らし、久保は話題を隣の女子コートへ振った。

「にしてもカヲリン、やっぱいいわー。キラキラ感が違うね、まぶし~」

 言われてぼくも、女子コートを見やる。

 白の半袖シャツに、紺の短パン。カヲルはいたって普通にゲームへ参加していた。

 飛び抜けて運動神経が良いわけでもなく、悪くもない。レイアップは外さないが、スリーポイントは普通に外し、けらけら笑っている。ギャラリー男子の目線は当然ゲーム内容ではなく、跳ね踊る胸部へ集中しており、カヲルが大きく動くたび「おおう」「んふう」と感嘆の呻きが漏れ聞こえる。

 昨夜、建物の壁を蹴りつけながら千万と降り注ぐ刀剣の狭間を縫って飛び、自分の身体より大きい剣を振り上げて敵の胴体を両断したカヲルのすがたはどこにもない。あんな運動能力があるならどんな競技でもすぐ世界レベルのアスリートになれるはずだが、カヲルはあの力をみじんも見せようとしない。

 ミニゲームが終わり、クラスメイトたちと仲良く笑顔で談笑するカヲルを遠く眺めながら、ぼくは自然、思ってしまう。

 ――よくあんなふうに笑えるなあ……。

 気の置けない笑顔を振りまいてはいるが、やろうと思えばカヲルはこの学校の半径一キロメートル圏内を破壊できる魔法使いだ。カヲルは自分にそんな力があることを隠し「普通」の仮面をかぶって学校生活を送っている。

 少しモヤっとするけれど、でもカヲルだって、好きで隠し事をしているわけでもない。

 昨日の放課後、帰り道で聞いたカヲルの言葉が、ぼくの耳に舞い戻る。

『わたしも、なりたくてなったんじゃない。でも、血族のなかでも魔法使いが生まれるのは二、三世代にひとりくらいだし。魔力を持って生まれたからには、イヤでも魔法使いになるしかないの。それが血に選ばれたもの……「継承者」の責任』

 あのときはなんとなく聞き流していたが、今日改めてカヲルの日常を眺めていると、きっと彼女なりにいろんな経験を経てきたのだろう、と思えてくる。

 魔法使いであることを告白したってみんなに笑われるだけだし、無目的に魔法を使うことも公安に禁じられているから証明もできない。それなら正体を隠したほうがカヲルも生活しやすいし、一度きりの高校生活を楽しむためにも、言う必要のないことをわざわざ明らかにする意味もない。子どものころから精霊を宿していたカヲルはきっと、生まれ持った力と一般社会との折り合いの付け方を模索したはず。その結果がいまの笑顔なら、それはぼくがとやかく言っていいことじゃない。

――うん。ぼくが意地悪すぎだ……。

 そんなことを考えながら彷徨っていたぼくの視線は、体育館の片隅で椅子に座っている女の子へ行き当たった。

 銀鏡クリスティナは制服を着たまま、パイプ椅子に腰を下ろして読書していた。

 心臓に軽度の疾患あり、という理由で、クリスティナは体育を全て休んでいる。

 特に寂しそうな様子もなく、淡々と本の世界に没入しているクリスティナ。彼女がぼく以外の誰かと交流を持つすがたをほとんど見たことがない。見たのは唯一、昨日のカヲルとのやりとりだけだ。

 他人を寄せ付けないクリスティナはなぜ、カヲルとは交流を持ったのだろう……?


 四限目が終わり、昼食の時間となった。

 ぼくの席には久保が寄ってきて、前の席にひとりでランチボックスをひらいているクリスティナの背中に躊躇なく声をかけた。

「クリスたんも一緒に食おうぜ~」

 何度無視されても、冷遇されても、久保のメンタルにはなんの影響も及ばないらしい。いやむしろ、酷い扱いを受けたいのかもしれない。

 案の定、クリスティナはガン無視……と思いきや。

「……………………」

 あろうことか、無言で机ごと右へ九十度旋回。

 ぼくと久保へ身体の右側面をむけ、黙っている。

 なにこの奇跡。

「うぇーい、クリスたん、うぇーい」

久保は上体だけで奇怪な踊りを踊って喜びを表現する。ぼくももちろん、クリスティナがこうやって反応してくれたことはうれしい。

「うん、クリス、一緒に食べよう」

 クリスティナはこちらを見ようともせず、ぼくらに横顔を見せたまま、視線を虚空に据え置いて、

「……そのひとがあまりにうるさいから。それならいっそ、はじめからこうすれば良いかしらと思って」

 弁解じみた言葉を冷たく告げると、

「うぇーい、クリスたん、うぇーい」

久保の喜びの舞が激しくなる。こいつはこいつで、なにかの役には立つのかも。

「うん、うるさいね。でも一緒に食べよう」

「……………………」

 クリスティナは無言のまま、身体の右側面をぼくらにむけて、昨日と同じサンドウィッチを口に運ぶ。

「クリスたん、おれとツカサ、どっちが好き?」

 いきなり久保がなんの前触れもなくとんでもないことを質問する。

 クリスティナはしばらく黙って咀嚼をし、嚥下して、五秒間の沈黙を経て、

「……人類のなかで、あなたが最も嫌い」

 クリスティナはクリスティナで躊躇なく酷い言葉を返し。

「……毛虫とあなたを比べても、あなたが嫌い」

 しなくてもいいダメ押しを加えると。

「ぐはぁ」

久保はそう言って胸を押さえ、至福の表情でぼくの机に頬ずりをはじめた。

 ドSとドM、これはこれでいい組み合わせなのではなかろうか、と感心しながら、ぼくはカヲルが作ってくれた弁当を食べる。今日は、さわらの西京焼きとひじきの煮物、朝食と同じ献立だけどおいしいから問題ない。ていうか昨夜は「ウラ」であれだけ暴れて、朝早く起きてこんな手の込んだ食事を作ってくれるのだから感謝しかない。

「…………お弁当、カヲルが?」

 突然、クリスティナがそんなことを聞いてきた。

「うん。毎日三食作ってもらってて、申し訳ないよ」

「……………………」

「お礼とか、したほうがいいよね? でも、なにしたらいいかわからなくて」

「……………………」

「女の子って、どんなお礼がいいのかな? やっぱりプレゼントとか?」

 そう尋ねてみるが、クリスティナの横顔はいつもと変わらずなんの感情も見せない……。

 いや。

 うっすら、こめかみあたりの冷気が増したような。ほんのわずかな変化だが、小学生のころから彼女を知っているぼくにはわかる。

「……感謝の言葉だけで、通じるのでは」

短く無機質にクリスティナは答えた。

「……そうかな。それだけでいいなら……」

聞かないほうが良かったのかな。そんなことを思いながら、しかしぼくは、久しぶりにクリスティナと会話できたことをうれしく思った。


 放課後。

「ツカサくん、帰ろう!」

 廊下に出ると、カヲルが待ってくれていた。例によってC組、D組男子の目線がぼくに突き刺さってくる。そのなかにはC組の陽キャ集団、坂本くんチームの目線もあった。

「…………?」

 でもこころなし、昨日ほど露骨な敵意はない。どこか自信を砕かれたような、悔しげな色が坂本くんたちの顔に差していた。

 C組の女子生徒たちに手を振って、カヲルはぼくと並んで校舎を出た。

「お弁当、どうだった?」

「おいしかった、ありがと。クリスと久保と一緒に食べた」

「良かった。今日は坂本くんたち、絡んでこなくてさ。女子だけで食べれたから楽しくって! あと、昨日戦った和知川原リヒトくん、C組にいたの。話しかけたんだけど、全然、相手してくんなくて。ツンデレなのかな、めんどくさいからさっさとデレてほしいけど」

 勝手にリヒトの属性を決めつけるカヲルに、バスケの時間、リヒトから受け取った伝言を伝えた。

「そっか、だから坂本くんたちおとなしかったんだ。不良みたいだけどしっかりデレてるじゃん、リヒトくん。てかアスタロス、ちゃんと持ち主のところに戻ったんだね、良かった」

「あのひと、成績いつも学年トップだって。見た目はヤンキーなのに」

「そうなの? 授業中ずっと寝てたけど。すごいね、頭いいんだ」

「……魔法使って成績あげてたりして」

「あ、それはない。やった瞬間、公安にバレる。オモテの世界で魔法使うのって、街中で爆弾が爆発するのと同じだから。捕まって、街中で爆弾を爆発させたのと同じ罰を受けます」

なるほど。ていうかちょっと罰が重すぎるのは、カヲル流の冗談だろう。たぶん。

「さて、今日から『ウラ』で特訓だぜ? 途中で音ぇあげんなよ?」

「あ、あぁ、がんばる……」

 男言葉で煽るカヲルに、ぼくはためらいながらも素直に応じる。

 本当に自分にもカヲルみたいな力があるのか、いまだ半信半疑ではあるけれど。


 帰宅して、いつもより早い時間に夕食を摂った。今日の献立は肉野菜炒め、ごはん、味噌汁。もやしとニラがしゃきしゃきで、オイスターソースのコクが効いてて、とてもおいしい。

 そののち、203号室のトイレへふたりで入る。

「んじゃ、行こうか」

 そう告げて、カヲルが手印を切り、朱色の粒子が空間に充ちて――消えた。

「到着」

 ぼくとカヲルは203号室を出て、外廊下を通り抜け、張り出し階段をくだってひなた荘の中庭へ。

「……………………」

 路地裏の民家の連なりのむこう、あかね色の空があった。

 ひどく静かだ。通りへ出ても、歩いている人間が誰もいない。

 午後六時半。飲食店やクリーニング店は閉まっていて、コンビニは開店している。が、店員は誰もいない。

 路上に停止した車のなかを覗いてみると、運転席は無人。

 信号が青から赤に変わっても、発車する車は一台もない。

 間違いない、「星の裏側」だ。

昨夜、カヲルと五人の魔法使いが破壊したはずの上祖師谷地区は、なにもなかったように元に戻っていた。

「『ウラ』は毎日、午前三時にリセットされるの。なのでどれだけぶっ壊しても、翌朝にはなかったことになります」

 カヲルの解説を上の空で聞きながら、行きつけのファミマへ入ってみる。

弁当のコーナーには、おにぎりが三つ、弁当がふたつ並んでいた。お菓子もインスタント食品も日用品も、ぼくのよく知る品揃えが並んでいるが、店員がいない。

「これ、盗まれるでしょ」

「盗めるけど、現実に持ち帰れないの。『星の裏側』で得たものは、帰るときに全部消えてなくなる」

「……なるほど」

 ぼくは店の外に出て、通りを歩いてみる。

 コンビニを除いて、ほとんどの店が閉まっている。この時間ならひらいているはずの弁当屋やレストラン、中華料理店が軒並みシャッターを下ろしていて、開いているのは牛丼屋とコンビニくらい。

「世界全体が午前三時の状態で止まってるの。ファミレス入ると、午前三時に出された料理がそのままテーブルに残ってる」

「……………………」

ぼくたちは少し歩いて、甲州街道沿いのファミレスに入ってみた。

言葉通り、テーブルには冷めきった食べかけのパスタ、とっくに溶けたパフェ、気の抜けきったぬるそうなビールなどが並んでいた。

「…………午前三時から、ずっとこのまま放置されてた?」

「イエス。『ウラ』ではコピペされた時点で止まってます。『オモテ』ではもちろん、パフェもパスタもお客さんが食べ終えてるけど」

 ぼくは無人のテーブルに並んだ食べ物を眺め、あることに気づいた。

「……てことは。『ウラ』では好きなもの無料で食べ放題ってこと?」

 コンビニの弁当はもちろん、缶詰もレトルトも、スーパーの生鮮食料だっていくらでも食べていい。夢の国じゃないか。

「うん。だいたいみんな同じこと考える。ではここでクイズ。……『ウラ』で食事して現実に戻ると、どうなるでしょう?」

 いきなり問われても。

「ヒント。黄泉の国の竈で煮たものを食べると、二度とこの世へ戻ってこれない、って話、聞いたことない? 『黄泉戸喫』って言葉で、古事記に出てくるんだけど。それと同じ現象が、ここでも起きます」

カヲルがくれたヒントを元に、考える。

「ウラ」で得たものは「オモテ」へ持ち帰れない。

「ウラ」で食べたものも、「オモテ」へ帰ったときに消えてなくなるとすれば。

「胃の中のものが、消えてなくなる」

「ほんのり正解。正しくは、摂取した栄養素が全部消えてしまいます」

なるほど。でも、それなら。

「『ウラ』で食べて、そのまま『ウラ』で消化しちゃえばいい」

「そのとおり。ただし、『ウラ』で完全に消化したあと現実に戻ると、食物をエネルギーにして新陳代謝した細胞も、全部いきなり消滅しちゃうの」

 言いながら、カヲルはファミレスの厨房へ入っていき、勝手に冷蔵庫をあける。なかには食肉や野菜が並んでいた。

「『ウラ』で過ごした時間が長ければ長いほど、『オモテ』へ戻ったときの代償は大きくなる。一日なら寝込むくらいで住むけど、三日も『ウラ』で暮らしたら、戻った瞬間に大量の細胞が失われ、良くて失神、悪くて多臓器不全。一ヶ月だと戻った瞬間血肉の半分が消滅して、古事記のイザナミみたいに夫が悲鳴をあげて逃げ出す姿になっちゃいます。『ウラ』のものは新陳代謝した細胞であっても『オモテ』へ持ち込むことができないこの現象を、先人たちは『黄泉戸喫』と呼んだの」

 カヲルの解説を片耳で聞きながら、ぼくは保管された大量の食物を眺める。

 もちろんここだけでなく、他の飲食店でも同じように、無人の厨房には大量の食料が保管されたままなのだろう。スーパーの陳列棚には、肉も魚も野菜も並んでいるはず。それらを食べると、食べたぶんだけ「オモテ」へ戻ったときに代償を払うのなら……。

「二度と『オモテ』へ戻らない覚悟を決めれば、『ウラ』で生きていくこともできるね」

 ファミレスを出て、通りを歩き抜けながら、カヲルに尋ねる。

 代償を払うのは「オモテ」に戻ったときなら、戻らなければいい。

「……ここなら働かなくても食べていけるし、高級ホテルに住むこともできる。人間のいない寂しい世界ではあるけど、家族や仲間内で『ウラ』へ集団移住すれば、それなりに楽しく暮らしていけるはず」

「そうだけど。でも警察も法律も政府もないし、魔物に襲われたら自力でなんとかするしかない。悪いひともたくさん移住してくるし、強いひとが弱いひとを支配する戦国時代みたいな世界になる。みんなが認めるリーダー、いないし」

カヲルの返事を聞きながら、ぼくはなんだか、納得いかないものが胸にうごめく。

 現実世界をそっくりそのままコピペした、無人の世界。

 これほど巨大な世界の存在を、秘密にしておくのはとてももったいないのでは。たとえば人口問題とかエネルギー問題とか、「ウラ」を有効活用すれば解決できる気がする。

「『ウラ』にも政府を置いて、法律で統治する体制を整えればいい。せっかくこれだけの資源があるなら、利用の仕方を考えるべきじゃ」

 ぼくの提案を、カヲルはいつもの悠然とした笑みで受け止める。

「働かずに食べていける世界がある、ってわかったら、『オモテ』でがんばって働くひとがいなくなるでしょ? 『オモテ』で働くひとがいなくなったら『ウラ』の世界も廃れるし。どっちも存続するために、『ウラ』は秘密にしておくべきなの」

 言葉からして、カヲルはこういう議論に慣れている。ぼくの考える程度のことは魔法使いの先人たちもとっくに考えていて、その二千六百年の経験を踏まえたうえで、いまの状態が「ウラ」と「オモテ」の関係性として最善、という結論なのだろう。

 確かにカヲルの言うとおり、もしも「ウラ」の存在を公表したなら、きっと人間の大半は労働しなくても衣食住に困らない「ウラ」へ移住して、最後には誰もいない廃墟と化した『オモテ』の世界が「ウラ」へコピペされるだろう。そうならないために、「ウラ」は秘密にされなければならない……。

 その理屈はわかるが、もう少しなんとかなりそうな気もする。あとちょっと工夫をすれば、より有効な「ウラ」の利用の仕方があるような……。

 黙考しながら持ち上げたぼくの目線が、甲州街道の向こう側、見覚えのあるタワーマンションに行き当たった。

 このあたりでもひときわ目立つ二十九階建てのマンション「ザ・タワー烏山」の最上階は、フロアまるごと、クリスティナの家だ。

 が。

「…………?」

 ザ・タワー烏山の屋上から、なにものかがこちらを見下ろしている。夜だし遠いし、シルエットしか見えない。人型の影から、死神みたいな巨大な鎌がにょっきり突き出している。

 よく見ようと、ぼくは目を細めた。

 すると大鎌を持った人影は、空間に溶けるように徐々に薄まり、やがて消えた。

 ぼくはカヲルへ目を送った。

 カヲルもまた、いつになく硬い表情でタワーマンションの屋上を見据えて、

「……このマンション、なに……?」

「なに、って言われても……」

「……ツカサくんの知り合いが、住んでる?」

時々カヲルは、妙なところで鋭くなる。

「ここ、最上階がクリスティナの家だけど……」

そう告げると、カヲルはさほど驚いた様子もなく、じぃっと屋上を見据えたまま動かない。

 これほど真剣そうなカヲルを見たことがない。隣にいるだけで、放ち出される殺気が感じ取れそうな。

「いま、あそこに誰かいた……?」

ぼくから声を掛けると、カヲルはこちらを振り向いて、

「なにか見えた?」

 逆に尋ねてくる。

「……死神みたいな鎌を持ったひとが、こっちを見てた。すぐに消えたけど」

「……うん。いたけど、逃げた」

「あれ……魔物? それとも、きみのいう『悪魔』?」

問うと、カヲルは難しい顔で黙り込んで、

「わかんない。ヨビトクかもしれない」

「……そうか。他の魔法使いもいるんだね、ここ」

「……行こっか。あんまり長居すると、仲間を呼ぶかも」

 カヲルに脅され、ぼくらは来た道を戻って、ガヤ校のグラウンドへ入った。

 空はもう暗くなり、街灯が点いていた。誰もいないグラウンドにて、カヲルは両手を腰に当ててふんぞり返る。

「さて、いよいよ修行開始! きついし辛いし単調なことも多いけど、魔法使うためだから我慢してね!」

「う、うん」

 ぼくはいまだ自分に魔法が使えるのか半信半疑ではあるけれど、もしカヲルみたいなことができるならうれしいし、それでサユリを取り戻せるなら努力する覚悟もある。ともかくはじめはカヲル先生に言われるまま、与えられた課題をこなすしかないだろう……。


 そののち――


 ぼくはカヲルと修行する毎日を重ねた。

朝五時から六時まではカヲルに言われるとおり深く吸って深く吐き出す呼吸の訓練、放課後は竹刀を持ってカヲルと戦った。剣道ではそこそこの成績を収めていたぼくだが、純粋な剣術でもカヲルに敵わず、だいぶへこまされた。

はじめは大した変化もなかったが、二週間が過ぎるころ、ぼくは空間を通り抜けていく不可視の流れを視認できるようになった。カヲルに言われるままその流れを感じて身体のなかへ取り込むイメージを膨らませ、修行開始から十七日目、ぼくはなんと空を飛んだ。

 もちろん最初はとても驚いた。

 自分にこんな力が眠っていることが信じられなかったし、同時になんというか、知らなかった世界が目の前に新しくひらけたことに興奮もした。最初は風に吹かれるまま空間に浮かんでいるだけだったが、訓練を重ねるにつれて上達し、二十日目には自分の意志で浮遊し、高度二十メートルくらいのところをすいすい飛行できるようになった。

 水泳や自転車と同じで、コツを掴んでしまえば無理してイメージする必要もなく、空間を流れる「なにか」――カヲルは「ダークエネルギーΛ」とかなんとか言っていたが、難しいので割愛する――を感じ、それへ「飛ぶ」イメージを重ねることで、当たり前のように水平飛行し、速度を上げることもできた。

 ぼくの眠れる力が目覚めるほどに夜の訓練も厳しさを増していき、実戦訓練では何度かカヲルに首を斬られたり、頭頂部から股間まで真っ二つにされたり、火魔法で爆砕させられたりした。もちろん死ぬわけではなく、「オモテ」のひなた荘203号室のトイレに戻ってくるだけだが、死ぬ際の痛みも苦しみも本物であるため、出来ればカヲルに手加減して欲しかった。

「ごめーん。痛かった?」

 ぼくを殺すたび、カヲルは笑いながら戻ってきて、へらへらしながら謝った。死を経験するのも修行のうち、なのだそうで、あまり手加減する気もなさそうだった。

「『ウラ』には他の魔法使いもいるけど、絶対に戦ったりしないでね。負けた場合、最悪、本当に死ぬことがあるから」

 修行中の注意として、カヲルはそんなことを言ってきた。ヨビトクではない、野良の魔法使い……つまり「悪魔」が相手だと、「ウラ」で食らった魔法の影響が「オモテ」へも持ち越されることがあり、最悪、「オモテ」でも死んでしまうのだそうだ。

「わかった、絶対戦わない」

「絶対、ひとりで『ウラ』に行かないこと。万が一、『ウラ』でひとりのときに誰かから勝負を挑まれたら、その場で自殺して『オモテ』に戻って、十三課に通報。きみの血を狙う悪いひと、大勢いるから」

 そう脅され、ぼくは気を引き締め直して、カヲルとの修行を開始した。

「ウラ」へ入れるのは一日一回までなので、死ぬとその日はもう戻れない。そういう日は決まって、カヲルはぼくの部屋でクソゲー「ダンス・クリムゾン」をプレイした。傍目に見て、カヲルは完全にこのクソゲーの虜だった。「ウラ」では無敵のカヲルもクソゲーのコウモリ相手にはなにも出来ず、歯ぎしりしながら夜遅くまでプレイするのが常だった。


 時々、和知川原リヒトが「ウラ」へ来て、ぼくの修行に付き合うこともあった。

 金髪の坊主でピアスとアクセサリーまみれ、という見た目は完全に半グレだし、態度も言葉遣いも乱暴だが、リヒトはカヲルよりも教え方が上手かった。

 たとえば「魔力」と「精霊」の関係について尋ねると。

「魔力がスマホで、精霊がアプリだと思え。スマホに最初から入ってるアプリで、通話だのカメラだの、基本的な用事は済むよな? で、もうちょい細かいことするには、それ専用のアプリが必要、と。魔力が高い、ってのはスマホの性能が高いのと同じで、高いほどより高性能なアプリをインストールできる」

 とわかりやすい。カヲルもそんなリヒトを受け入れて、気さくに声をかけていた。

「ねえワッチー、成績いいんでしょ、数学教えて!」

「誰がワッチーだ、56すぞバカ女」

勝手なあだ名を付けられながらも、ワッチーはなんだかんだで、修行の合間にカヲルの宿題を見てあげたりしていた。

「だから共役複素数ってなそういうもんなんだよ! 根元から文句つけんな!」

「え、要するに足したぶんをそのまんま引いたぶんでしょ? なんでキョウヤクとかかっこつけた言い方するの?」

「足したぶんを引いたぶんじゃねえ! 複素数平面上で実軸に対して対称に移動させたのが共役複素数だ、見りゃわかんだろ!」

「見てわかんないよ、ワッチー頭良すぎ! 東大行きなよ!」

「うるせえそんなのどうでもいい! おれはいつかお前に勝つ、首洗って待ってろ‼」

 ワッチーは面と向かって褒められた途端、なぜか真っ赤な顔で怒り出すひとで、カヲルに面白がられていた。ふたりが数学問題で言い争っている間、ぼくはもっぱら基本的な梵字の習得に努めた。梵字を使うとイメージする手間を省けて、発動が早い。「ウラ」への出入りのほかにも、簡単な結界を張ったり、小さい火魔法を撃ったり、細々したことができるようになるのは楽しかった。


 四月下旬、カヲルが言っていた通り、警視庁の職員から電話があり、ぼくは警視庁公安部公安十三課に呼び出され、リリカさんに再会して、課長さんと面接し、変な検査を次々に受けさせられ、「特務員の安全を確保するための生体マイクロチップ」だかなんだかよくわからないものを注射されたのち、契約書にサインして、現在日本に住まう四十三人目の魔法使い、すなわち予備特務員第四十三号として認定された。

 格付けは、Eランク。一年に十万円、特別手当がもらえるそうだ。カヲルのSランクではなんと年収五百万円だそうで、とてもうらやましい。


 五月になった。

 カヲルとの修行をはじめて一ヶ月が経過するころ、自分でいうのもなんだけど、ぼくはかなり上達していた。

「やっぱり上水流家直系の王子さまだねー。すっごいチート」

 ジャージすがたのカヲルはからかい半分に褒めながら、七支刀「鬼切」をぼくの頭頂部めがけて振り下ろす。

「……チートは……きみのほうだろ……⁉」

 ぼくは木刀でカヲルの斬撃を受け止める。カヲルが手を抜いていることはわかっているが、それでも威力はすさまじい。現実の世界でこれを打ち込めば、ひなた荘は真っ二つになるだろう。

「がんばれー」

 魔女はにこにこしながら、ぼくの頭頂部を叩き割ろうと剣の柄に力を込める。

 前にも言ったとおり、ぼくは元剣道部で、東京都ベスト4に入る腕前だ。剣術の腕ではカヲルとほぼ互角なのだが、魔力の出力が違いすぎて、威力に押される。

 分が悪い。このままではあと五秒で頭を割られて死ぬ。本当に死ぬわけではないけれど、頭蓋骨を砕かれて脳味噌をぶちまけるのはとても痛いからやめてほしい。ここは一旦、逃げを打とう。

「逃げる?」

 そう決めた途端、カヲルはぼくの考えを読んで、意地悪そうに笑う。

「くっ」

 ぼくは防御を諦め、頭を地上へむけて逃げを打つ。

 眼下、夜の千歳烏山駅がみるみるうちに迫ってくる。

 高度一千メートル、八百メートル、五百メートル。

 不可視の遮風板を顔の前へ据え置いて、戦闘機さながらの急降下。

あまり勢いがつきすぎると地上へ激突してしまう。

高度二十メートルほどで頭を起こし、降下の勢いのまま水平飛行。

 甲州街道上空を、新宿方面、東へむけて飛ぶ。

 飛行速度は時速七十キロメートルを越えているだろう。静止した車列のテールランプが赤い川のように眼下を流れ、左右を、街明かりがすっ飛んでいく。

振り返らなくても、カヲルが追ってきていることは肌でわかる。

 いつもなら追いつかれて、通せんぼされ、首か胴体を両断される頃合いだが。

 ――いつまでもやられっぱなしじゃないぞ……!

自転車や水泳と同じで、集中して体力を振り絞ったなら飛行速度を上げられる。持ちうる魔力を全て飛行へ費やして、ぼくは全力で逃げる。

 限界の限界まで速度を上げ、おそらくは時速百キロメートルを突破したころあいを見計らって、ぼくはいきなり身体をひねり、後方を振り返る。

 目の前、カヲルが追ってきている。

――止まれ。

 渾身の力で、急制動をかける。

 慣性がのしかかり、内臓が押しつぶされる。

 さすがに時速百キロメートル以上の慣性を殺しきることは出来ず、ぼくの身体は急ブレーキをかけた自動車さながら、進行方向へつんのめりながら急減速。

ぐぅっ、と奥歯を噛みしめ、強烈なGに耐えて木刀をカヲルめがけて突き出す。

 時速百キロメートル以上で接近していたカヲルは、木刀へ追突せざるを得ない――。

 はずだったが。

「ブレーキ覚えた? やるぅ~」

 そんな言葉が、いきなりぼくの真下から突き上げてくる。

 見ひらいた目を直下へむけた瞬間、七支刀の剣尖がぼくの心臓を貫く。

 視線の先、カヲルは息を乱すこともなく、ぼくを見上げて悠然と笑ってる。

 目の前にいたはずなのに、ゼロコンマ一秒でカヲルはぼくの下方へ潜り込み、必殺の刺突を繰り出していた。

 静止した世界のただなかでカヲルだけが動いていたような、理不尽すぎる機動。

 貫かれた心臓から、血潮が噴き上がる。

 手足から力が抜ける。寒い。ぐらり、ぼくの視界は大きく傾く。

 カヲルは引き抜いた剣をぽいっと投げ捨て、可憐な笑顔を死にゆくぼくへむけて、両手をぼくの背に回して抱きしめる。

 カヲルの身体の感触が、絶命の痛みに覆い被さる。

「すごいよツカサくん。たった一ヶ月でこんなに強くなるなんて」

 カヲルはぼくを抱き留めたままゆっくりとアスファルト上へ降りたって、死にゆくぼくを膝枕した。

「う……あ…………」

 声にならない吐息が、口から漏れ出る。心臓から流れゆく血潮が、カヲルのジャージの膝元を濡らしていた。カヲルは自分が血に汚れるのも構わず、母が子にするように、ぼくの頭を撫でた。

「もっともっと強くなるから。途中で諦めないでね」

カヲルの微笑みが、薄れゆく視界に映り込む。

 身体が冷えていく。寒い。ここにカヲルを残して、ぼくだけが地の底へ落ち込んでいくように思え、ぼくは震える右手を持ち上げた。

 カヲルはそっと、ぼくの右手を握ってくれて、残った手で頭を撫でた。

 死ぬ途中なのに、なぜかちょっと気持ちいい。頭のうしろに、しなやかで張りがあって、温かい弾力を感じている。

「きみはもしかすると、その力で世界を変えちゃうかも」

死にゆくぼくに残された聴覚が、そんな言葉を受け取った気がする。

 視界が朱色に塗り込められ、その色が掃き清められると、ぼくは「オモテ」の世界の203号室のトイレにいた。

 いまの戦いを振り返ってみて、呆然とするしかない。カヲルがどうやって刺突を躱してぼくの心臓に剣を突き立てたのか、その過程が全く見えなかった。まるで時間を静止させたような、理不尽すぎる一撃だった。

――ぼくと彼女には、どのくらいの実力差があるんだろう……?

 一ヶ月前、五人の魔法使いと戦ったときも、カヲルは実力の全てを見せていない。ワッチーでさえも、完全に子ども扱いしていた。ぼくがカヲルと互角に戦う未来が、全く見えない。

 落ち込みながらトイレを出て、ぼくは自室へ戻った。

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