1章  隣の魔法少女(1)

一.隣の魔法少女


 トイレのドアをあけると美少女であった。

「やっ、神門(みかど)ツカサくん。はじめまして、下水流(しもつる)カヲルです」

 我が家の洋式トイレに腰掛けた美少女は、片手をあげて笑顔で挨拶。

 反射的にぼくは叩き付けるようにドアを閉め、二歩後退。

 まばたきを三度してから、周囲を確認。いつもとなんら変わりない、ぼくが独り暮らしをしている風呂なしアパートの六畳一間。午後六時。

 誰もいないし、出入り口のドアからは誰も入ってこなかった。

 なのに、なぜ、トイレに美少女がいる?

 まさか、下水道を通って便器から出てきた?

そんなこと、あるわけない。つまりいまのは。

「幻覚?」

 ぼくは呼吸を整え、改めてノブを掴む。

 意を決して、トイレのドアをあけると――やっぱり美少女であった。

「挨拶の途中で閉めるとか、わりと失礼」

美少女は便座に腰を下ろしたまま、銀河みたいにきらめく紅の瞳にぼくを映し、半笑いで無粋を責める。

黒髪のポニーテール。スリムジーンズと薄手のニット。むくれ顔をすぐに勝ち気そうな微笑みに戻すと、自然に風をまとうかのように、さわやかな香りがたなびいてきた。

 ぼくの口が、かぱあ、とひらく。

「あのね、実はきみはすごい能力を秘めた魔法使いで、危険な敵から狙われているの。このままだと敵に捕まって洗脳されて世界をぶっ壊しちゃうから、そうさせないためにわたしが来たの。今日からわたしがあなたの師匠になって、三食まとめて面倒みつつ、きみがちゃんとした魔法使いになれるように指導してあげ」

 バタン。

 ドアを叩きつけ、ぼくは反射的に、六畳間へ飛び退く。

 いきなりトイレから光輝く美少女が出てきた。わけのわからないことを言いながら、ぼくの名前を呼んで微笑みかけてきた。もしかするとこれで大喜びする人種もいるかもしれないが、あいにくぼくは常識人だから、通報しないと。

「だから、説明の途中でドア閉めるとか、失礼なのよ」

 美少女は当たり前のようにドアをあけ、トイレを出て、六畳間へ入ろうとしている。

 ぼくは尻餅をついて、壁に背を押しつけ、迫り来る美少女を確認。

 昔、テレビのブラウン管から飛び出てくる女幽霊の映画を見た。

 いま、この部屋ではトイレから美少女が飛び出して、ぼくへ忍び寄ってくる。怖いし、意味がわからないし、迷惑だ。

 スマホを手に取り、110番を押そうとしたところで、少女は畳のうえにあぐらを組んで座り込み、

「うん、わかった、通報しないで、説明するから」

 なにもかも悟った表情で、ぼくを諭す。

「驚いた? そりゃそうだね、トイレから女の子が出てきたらびっくりするよ。でもね、きみの場合は、そういうのでいちいち驚いてたらキリないから。わたし的には『え、なんか用?』くらいの反応を期待してたけど。まあ、まだ無理か。仕方ないよね、いままでこういうの教えてくれるひと、近くにいなかったもんね」

 怯える小動物へ言い聞かせるように、そんなことを言ってくる。

 ぼくはいまだ恐慌状態にあり、この女の子がなにを言ってるのか理解できない。

なんだこれ。人間? 妖怪?

「でも最近の出来事振り返ってみても、時々、変なこと起きたでしょ? 原因は、だいたい全部きみ。きみの力が目覚めはじめたせいでそうなりました。意味わかんないよね。で、そのまま放置すると日本がヤバいから、偉いひとたちが協議してわたしをここに派遣したの。ど田舎からわざわざきみを助けに来てあげたんだからいつまでも驚いてないでお茶くらい出せば?」

 ひといきにまくしたてて、あろうことか、ぼくに茶を要求してくる。

 なんだこのひと。よくわからないが、とにかく、めちゃくちゃ偉そうなことだけはわかる。

 ぼくはかろうじて、ひきつる喉を動かす。 

「きみ、誰?」

お、と美少女はわずかに感心した表情を示し、ポケットからスマホを取り出す。

「落ち着いた? まあまあだね。びっくりしてから正気に戻るまで2分45秒、初心者だから甘くして、65点。あと15秒遅かったら赤点だったよ、良かったね」

『2:45』と表示されたスマホ画面をぼくに示しながら、上から目線で語りかけてくる。

 だからなんなんだ。ぼくが落ち着くまでの時間を計って、なんの意味がある?

 と、アパート出入り口の鉄柵がひらく音がして、車のエンジン音が中庭から届いた。

 妖怪美少女はぼくの許可なく窓にかかったすだれを持ち上げ、二階の窓から外を見下ろす。

 引っ越し業者の軽トラックが、ここ「ひなた荘」の中庭へ乗り入れようとしていた。

「わ、もう来ちゃった、早いね。ちょっと待ってて。あと、サンダル貸して」

 妖怪はぼくのサンダルを勝手に履くと「こっちでーす」と声をかけながら、外の張り出し階段を降りていく。ぼくは目をしばたきつつ、窓から外の様子を確認。宅配業者の単身引っ越しサービスの荷台から、衣装ケースがいくつかと寝具、冷蔵庫、ちゃぶ台などが運び出されてくる。

 外のアルミ階段ががちゃがちゃ鳴って、荷物を抱えた業者が上ってくる。外廊下に降り立った業者二名はぼくの部屋の前を通り過ぎ、隣の部屋へ荷物を運び込んでいく。

『それ、こっちにお願いしまーす』

 ぼろアパートなので壁が薄く、隣からの声がほぼそのまま聞こえてくる。ていうかあの子、ぼくの隣に住むつもりなのか。

 ほどなく。

『すみませーん、ありがとうございましたー』『はい、またどうぞーっ』

再び張り出し階段を降りる音がして、軽トラは中庭から出ていった。

「……………………」

ぼくは部屋のなかで、いまだ茫然自失。

「引っ越し完了~」

 ややあって、妖怪少女はぼくの部屋のドアを勝手にあけて、ずかずかと家のなかへ上がり込んでくる。

「すぐ終わっちゃった。部屋狭いしこんなもんか。サンダルありがと。これ、おみやげ。冷やして食べてね」

美少女が菓子折を差し出した。包み紙に『菓子処わらべ チーズ饅頭』とある。

「……………………」

 ぼくはいまだ脳内を凍結させたまま、受け取った菓子折をちゃぶ台に置き、少女の顔を遠く眺める。

なんだろ、これ。誰だろ、この子。なぜ当たり前の顔でぼくの部屋へ入ってきて、お土産をぼくにくれるんだろ。

「聞きたいことが山ほどあるぜ~。って顔、してるね」

「……………………」

「いいよ、なんでも聞いて。知ってることは全部きみに教えてあげる。せっかくだし、チーズ饅頭食べながら話そうか。あ、わたしお茶持ってくる」

 せわしなく言って、美少女はぱたぱたとぼくの部屋を出て行き、お盆に給湯ポットと急須とお茶の葉と茶碗を並べて戻ってきた。

 ちゃぶ台を挟んで、ぼくたちは座る。

「このお茶、おいしいんだよ」

 美少女は「バイオ茶」とラベルのついたお茶の葉を急須に入れて、ポットからお湯を注ぎ、茶碗に注ぐ。

「どうぞ」「……あ、どうも」

なんとなく雰囲気に押され、ぼくはお茶をひとくち。

 夏草っぽい、すがすがしい苦みが鼻に抜ける。名前はゾンビっぽいけど、味はすごくいい。

「チーズ饅頭も、おいしいよ」

 促され、ひとついただく。クッキーみたいな硬めの生地に、酸味のあるクリームチーズがくるまれて、噛むとほどよい甘酸っぱさが口のなかにひろがった。

「おいしいでしょ?」

問われて、ぼくは無言でうなづき、バイオ茶をひとくち。濃いめのお茶が甘酸っぱさを中和して後味すっきり。悪くない。

 いや、ていうか。

「なんで和んでるの?」

「わたしに聞かれても」

ぼくは首を左に傾け、戻してから、提案する。

「とりあえず正座しようか、お互い」

「え、やだ」

美少女はふたつめのチーズ饅頭をつまみながら、即座に却下。仕方なく、ぼくだけ畳の上に正座する。ぼくが説教されてるような体勢だが、ともかく。

「きみは誰?」

「下水流(しもつる)カヲル。きみと同じ高校二年生だよ、神門(みかど)ツカサくん。神門は母方の姓で、父方の姓は上水流(かみつる)。中学時代は剣道部で東京都大会ベスト4にも入っていたけど、お母さんの病気もあって高校では帰宅部。未婚できみを産んだお母さんは半年前に亡くなって、貯金の五百万円を切り崩しながらひとり暮らし中」

 ぼくは一瞬、言葉を飲み込む。

 なんだ、このひと。なぜそんなこと知ってる? それに、下水流って名字。珍しいし、ぼくの父親の上水流という名字に似てる。

「カヲリン、もしくはカヲルって呼んでね、ツカサくん」

 下水流カヲルは謎めいた笑みをぼくにむける。

 ぼくは気を取り直し。 

「……で、下水流さん。ぼくになんの用ですか」

「あれ、言わなかった? きみがまっとうな魔法使いになれるよう、指導するためにわざわざ来たの。このままきみを放置しちゃうと、世界が滅びるから」

 言われてぼくはまたしてもこめかみを指で抑え、しばらく悩んでから、

「きみがなにを言ってるのか、全然わからない」

「え、まだわかんない? 頭、悪くない?」

「いや、きみの返答がざっくりすぎる」

「え、わたしのせい? ツカサくんは悪いところはないの? 全然?」

なぜかぼくは問い詰められ、返事に窮しながら、

「……飲み込みは悪いかもしれない。だけど、きみももっと丁寧に説明する必要がある。いきなりひとの家へあがりこんで、一方的に意味のわからない話をするだけで、その間に饅頭みっつも食べて、四つ目も狙ってるよね? 六個入りなのに」

「え、よくわかったね。すごい。頭いいじゃん」

「手、すでに伸ばしてるし。掴んだし。うわ、食べはじめた。きみが買ってきた饅頭だからいいけど」

「こまふぁいこふぉ言ってないでやー。なにがわかんないか言いなよ。答えてあふぇるから」

「破片、口から出てる。とにかく……十才の子どもでもわかるように、ここに来た事情を詳しく教えてほしい。ぼくもがんばって、理解するように努めるから」

「えー。めんどくさ~い」

「そこをどうにか」

 なぜかわからないが、ぼくは頭を下げて頼んだ。下水流さんは溜息を交えながら、

「まったく、手間かかるな~。しょうがないなー。わかった、わたしは優しいから、きみが理解するまで付き合ってあげよう」

 それから下水流さんはここに来るに至った事情を語って聞かせた。

 案の定、相変わらず話は要領を得ないし、何度も脱線するし、途中でテレビを見ようとするし、ぼくの持つクソゲーをやりたがるし、隙あらば五つ目のチーズ饅頭を奪おうとするし、苦労しながらも一時間後、ぼくはなんとか下水流さんの言っていることをふんわり理解した。

「えー、つまり。ぼくには魔法使いの血が流れてて。それで最近、ぼくの力が目覚めはじめて。このまま放っておくと悪いひとに捕まって力を悪用されるから、きみが教師兼監視役としてやってきた、と」

「そうそう」

 ぼくは腕組みをしてしばらく考えてから、顔を上げる。

「これだけの内容伝えるのになんで一時間もかかるの?」

「なにそれ、わたしのせい? きみの覚えが悪いからでしょ」

「きみの話に脱線が多すぎる。テレビ見るし、饅頭狙うし、あとクソゲーのこと知ってるのはなんで?」

「きみの身辺は調査済みって言ってるでしょ。で、わたしもやりたくなってさ、『ダンス・クリムゾン』。調査のついでに動画で見て、興味出ちゃってさ~」

 下水流さんはどうやらここに来るまで、ぼくのことをかなり調べたらしい。だがいまは、そんなことどうでもいい。

「ぼくが魔法使いとか言われても。反応に困る」

「とはいいながら、思い当たること、あるでしょ?」

「む……」

 そう指摘されると、身に覚えがなくもない。

 いまを生きる高校生にとって一笑に付すべき「実はぼくは魔法使いなのであった」などというセンテンスを、鼻で笑うことができない。

確かにぼくは今日まで十七年間の人生で何度か、普通ではありえない、超常現象じみた出来事に遭遇している。そのなかには一部界隈で有名なオカルト事件も含まれていて、ネットには記事や動画でおどろおどろしく紹介されていたりもする。

 しかし、そうはいっても、いくらなんでも。

「さすがに、魔法使いっていうのは」

「おなかすいた」

「え?」

「うわ、もう七時過ぎじゃん。カレー作るよ、きみのぶんも」

 いわれてみればすでに窓の外は暗くなっていた。

「え、いや」

「材料取ってくる~」

 下水流さんはそう言い捨てて、部屋を出て行った。

 ぼくは再び、地蔵みたいに取り残され。

「ただいま~。二十分でできるから待ってて~」

ほどなく下水流さんは編み籠にカレーの材料を詰め込んで、ぼくの部屋へ戻ってきた。

 ネコ柄のエプロンを身につけて、さも当然のごとく、

「きみをまともな魔法使いに育てるのがわたしの仕事で、まともな心を育むのはまともな食事。『食』っていう字は、人を良くする、って書くんだぜ? コンビニの食べ物だけじゃ栄養偏るし。今日からきみの食事は三食わたしが作るから、泣きながら感謝してね」

「……………………」

「なにその顔。文句あるなら聞くけど?」

 かろうじて地蔵を脱したぼくは、ちゃぶ台の対面を指さして、

「……ゴホン。……えーと、下水流カヲルさん。ちょっと、そこへ座ってくれないかな」

「え、なんで」

「正座じゃなくていいから。少しぼくと話をしよう」

「ちょっと待って、おなかすいたからカレー食べながら聞くよ」

ぼくの要望を背中で断ち切り、下水流さんは勝手に調理を開始。刻んだタマネギをボウルに詰めて、ぼくの許可もなく電子レンジに突っ込む。

「……………………」

ぼくはこの部屋の主なのに、主導権を完全に握られている。

なにこれ。

 どうして見知らぬ美少女が、ぼくの家の台所でカレー作ってる?

 ていうかこのひと、自分がなにしてるかわかってる?

 知らないひとの家に女の子がひとりで勝手にあがりこんで食事を作りはじめたら、なにをされても文句いえないぞ。いや、そんなことしないけど。でも、ぼくは男だし、チビではあるものの力だって女の子よりはちょっと強いはず。衝動的に変なことをする可能性だって、全くゼロじゃない。

 危ないと思わないのか?

ぼくの内面など素知らぬ顔で、下水流さんは鼻歌など歌いながら、レンジから出したタマネギを炒めはじめる。

 やっぱりやめさせよう。そう思ってぼくは言葉を投げようとして、止まる。

 こちらに背をむけている下水流さんが、なんというか、とても絵になっていた。

 身長は百六十センチ弱、身長はぼくと同じくらいだけど、顔をはじめひとつひとつのパーツが小さいから、足がすごく長く見える。八頭身と七頭身の中間くらい、七.五頭身っていえばいいのか、スタイル的な黄金比が下水流さんの立ち姿に確立されてる。

「ん?」

 下水流さんがいきなり、こちらを振り向く。

 びくっと、ぼくは思わず視線を外す。

「なに? まだなんか文句ある?」

下水流さんはレトルト米を電子レンジにセットして、背中越しに聞いてくる。

「……あるよ。……きみが聞かないだけで」

 決まり悪げに答えると、下水流さんは水をフライパンへ流し込みながら、

「食べながら聞くってば。もうちょいだから待ってて」

 あっけらかんとそう言って、市販のルーをフライパンへ。ほどなくカレーのいい匂いが漂ってきた。

 どうやら調理する間、ぼくの話を聞くつもりはないらしい。やれやれ。

「……全く……」

ぼくは抵抗を諦め、テレビをつけて、調理が終わるのを待つことにした。目の前の事態に文句はいくらでも出てくるが、とりあえずおなかはすいているし、カレーもちょっと食べたい。

「出来たよ」

 数分後、下水流さんはお盆にカレー皿をふたつ並べてちゃぶ台に置いた。

「ほぼ肉カレー。二十分あればできるから便利でさ。具材は肉とタマネギだけだから、ほぼ肉。ジャガイモもニンジンも福神漬けも入ってないけど、いいよね?」

「………………」

簡単な料理だが、香りはとてもおいしそうだ。

「いただきまーす」「……いただきます」

 頭を下げて、ひとくちぱくり。

「どう?」

「……おいしい」

 仰天するようなうまさではない。けれどほっとするような、素朴で懐かしい味わい。母親が生きていたころ、たまに食べたカレーを思い出す。

「お米炊く時間なかったから、パックのだけど。次はジャガイモとニンジンも入れたいな」

 にこにこ笑いながら、下水流さんもおいしそうにカレーを食べる。

 ぼくはいま、一時間半ほど前に突然現れた美少女と、ちゃぶ台を挟んでカレーを食べている。そのことを心の片隅で確認し、なにやってんだ、とまた自嘲する。

「で、文句って?」

スプーンを口に運びつつ、カヲルのほうから聞いてくる。

 ぼくは黙々とカレーを食べながら、

「……いろいろある。どこからツッコめばいいのか途方に暮れるくらいに。……けど、一番聞きたいのは……その……なんていえばいいのか……」

口を動かしながら言葉を整え、問いかけた。

「……きみは、知らない男の家に上がり込んで勝手に料理作るようなこと、これまでもやってきたの?」

 下水流さんは「はあ?」と呆れ顔をぼくへむけて、

「やるわけないじゃん。わたしをなんだと思ってるの?」

「いや、だけど、実際こうして」

「これは特別! きみを指導する必要があるから仕方なくやってるの!」

「うん、わかった、怒らないで。でも……身の危険とか考えない?」

 言葉を選んで問いかけると、カヲルは怪訝そうに小首を傾げ、

「身の危険? きみが、ってこと?」

「……いや、ぼく、チビだけど男だから。きみの身が、危ないんじゃないかと」

ぼくの言葉を、「ぽかーん」と擬音が出そうな表情で受け止め、それからようやく内容を理解したのか、下水流さんは表情を緩めた。

「あー……。なるほど。へー……。そういう心配するんだ」

「……普通するだろ。ぼくは乱暴なんてしないけど、他のひとにもこういうことしてたら、無事じゃすまない」

 言いながら、ぼくは最後のひとくちを食べ終える。

「言ってないかな? わたし、こう見えて実は最強の魔法使いなの。乱暴しようとしても、わたしには指先一本、触れられない」

 下水流さんはあくまで自信満々、そう言い切る。

「……………………」

 ぼくに出来るのは諦めの表情だけ。

「なにその顔。信じてない?」

「魔法使いだから大丈夫、って言われても」

「じゃ、乱暴してみる?」

 ぼくを真っ正面に見据えて、下水流さんは挑発するようにそう言った。

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