第10話 英雄の姿

 この街には英雄がいる。そう言われた中であの人物を見かけたら、一目で彼が噂のその英雄だと分かる。紅一色のスーツに、スリーピースで中にちらっと見えるシャツは黒、ネクタイは銀、髪の毛は真っ白。ヘロが喫茶店に入って来たのを見たとき佐賀が「英雄だね」と千尋に返したのは、その格好が「英雄です」の対象でなければ他に誰がいるのか、という状況だったからだ。


「それほど深い意味はないよ。何色が英雄っぽいかという話で、赤がそうだ。色彩心理で戦隊ヒーローといえばまず赤だし、英雄のスカーフといえば赤。きっと見ている人を奮い立たせるんだ」


 佐賀がヘロにその衣装について問うと、ヘロは佐賀にそう答えた。説明というよりは、なぜか感想のように聞こえてきた。


「生命の色だな。アダムとイブが口にしたのは赤い林檎。人間の身体を巡るのは赤い血。生命の泉に、赤は深い関連がある気がする」

「鋭いんだね、色に」

 ヘロは、佐賀の深みのある言動にそんな反応をする。


「絵師なんだ。絵を描いてる」

「絵師、だからか」


 ヘロは「絵師」という言葉を口に含んで「絵師、とは何か違うのかい、画家と」と味の違いを感じるようだった。中々、分かる男だ。


「いい質問だ」

「これでも国立を出ているんだ」

「なるほど」


 確かにこの男は好奇心の目をもって生きているなと佐賀は認識していたので、「国立を出ている」という発言に対して佐賀はやけに納得する。


「まず画家から説明しよう」

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