11
まさか。
けれど例えそうだったとしても、雨に濡れたままのこの子を放って置く気にはなれなかった。
床に張りついていた足を浮かせ、彼の元に歩み寄る。
そして目線が合うよう片膝をつくと、持ってきたタオルを小さな頭に被せ、わしゃわしゃと動かした。
きちんと触れられるし、身体が冷たくなっているのも感じる。
難しいことはわからないから、私には私にできるだけのことをしてあげよう。
「ずぶ濡れだしこのままじゃ風邪引いちゃうかも、とりあえずなにかあったかいもの飲もっか? それからお風呂に入った方がいいかも……あ、あんまり綺麗じゃなくて小さいんだけど、それでもよかったら」
話しながら髪や身体を拭いている間も、彼は私から視線を外さなかった。
「……お前、俺が恐ろしくないのか?」
不意に開いた唇がかたどる文字。
すっかり成人した男性のように大人びた声に、変わってるな、と思いながら微笑む。
「別に怖くないよ? あなたも生きてるんだし、私と一緒だよね?」
彼を一通り拭き終えた頃、くしゅんと出たくしゃみを両手で抑えた。
冷えているのは私も同じだった。
でも大丈夫。今までの人生で熱を出した記憶なんてないから。
「好きな椅子に座って、コーヒー……は子供には苦いよね、ホットミルクにしよっか」
自分の頭を適当に拭きながら、彼から離れてキッチンへ向かう。
壁際にある銀色の冷蔵庫を開け牛乳パックを取り出すと、店でも使っている子供用のマグカップに中身を注いだ。
砂糖を多めに入れた方がいいかな?
そう考えながら冷蔵庫の隣に置かれた電子レンジにマグカップを入れた。
「ようやく見つけたぞ、俺の眼鏡に叶う姫よ」
背後から聞こえた声に、思わず振り返る。
「必ず迎えに来る、心して待っていろ」
心に直接語りかけるような声音だけを残し、少年は姿を消していた。
大きく開いた瞼を何度もぱちぱちと上下させ、目を擦っては店内を見回した。
「ど、どうしよう、遂にストレスで幻覚まで……」
病院にかかるお金なんてないから自力で治さなければ。
そんなとんちんかんなことを考えていた私は、彼が立っていた地面がしっかりと濡れていたことに気づいていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます