10
「雨がひどいから、とりあえずうちに来ない?」
詳しい話はあとで聞こうと声をかけるが。
服装やフォルムからして男児に見えるその子は、相変わらず手のひらで顔を覆ったまま返事をしない。
このままでは埒が明かないと思い、目の前にいる彼の脇に手を入れ勢いよく持ち上げた。
驚いたようにわずかに弾む小さな身体を、落とさないように両腕で抱きしめ直す。
「任せなさい、お姉ちゃんは体力には自信があるからね、元気だけが取り柄なんだから」
自分で言っていて若干の虚しさがよぎるけれど、今はそんなことを気にしている場合ではない。
スニーカーで雨道を蹴り、たどり着いた店の扉を片手で開くと、急ぎ中に滑り込んだ。
「ちょっと待っててね、すぐにタオル持ってくるから」
目を合わせる暇もなく彼を床に下ろすがまま、流れるように奥の階段を駆け上がる。
居住スペースになっている二階にあるお風呂場。その脱衣所の棚に置いたタオルを手当たり次第に取ると、もう一度階段に向かった。
とりあえず全身を拭いた方がいい。
それから、それから――。
と、今後のことを思案する頭が、ぴたりと動きを止める。
一階に舞い戻った私を待っていたのは、真っ赤な太陽のような瞳だった。
喫茶店の出入り口付近で立ち止まったまま、じっとこちらを見上げている少年。
すべてがオレンジの明かりに照らされ、幻想的に煌めいていた。
先ほどまでは視界も悪く、連れ帰るのに必死だったため、そちらに気を取られていた。
初めて認めた鮮明な姿に、驚きを隠せない。
おもちゃや特殊メイクなどに詳しくはないけれど、そういった作りものの類ではないと直感した。
いや、思い知らされた、というべきか。
それほどまでに彼は、圧にも似た独特なオーラを放っていた。
光の加減によって、真紅にも橙色にも映る不思議な髪をしばし茫然と眺める。
彼はなにも語らない。
子供らしからぬ切れ長の目で、私を静かに見据えるだけだ。
ふと、藍之介の言葉が脳裏をかすめる。
「変なものに取り憑かれちゃうかもよ」
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