●緊急対策会議
≫調査本部が捜査を依頼していたゲオルグより、重要機密データを念視映像にて入手。データが4ギガもあり、オレもまだ見ていない。手間の簡略化と漏洩防止のため、本日12:00より【ラピス・レイヤー】本部の司令室にて、少人数で緊急対策会を開く。参加メンバーはメゾンド、モアモア、ペイトリオ、マックス、ビーストとオレを含む6名で行う。以上。
尚このメールは既読後速やかに消去すべし。┃09:40バール≫
◀︎会議参加メンバー▶︎
●【ラピス・レイヤー】総司令官バール
●製雲魔導師モアモア
●科学技術省名誉顧問メゾンド
●上級雲使いペイトリオ
●【ラピス・レイヤー】通信機関長マックス
●【ラピス・レイヤー】[A1]パイロット・ビースト
12:00きっかりに本部司令室で、たった6名による会議が始まった。
指令室の南側の壁は、見晴らしの良い一面ガラス。
そこからば青い空と牧草地帯で、青と緑に塗り分けられたバラライカの牧歌的な風景が一望できた。反対の北側にはその色合を、そのままに反映したバラライカの国旗が掲げられている。
東西両サイドの壁には、20席づつ計40程の通信ブースが配置され、その目の前の壁面には50コマづつマルチモニタが、あらゆるアングルで(ラスト・クラック)の様子を監視している。
通信機関長マックスが、いつもの自分のデスクで2~3の操作を施している。振り向くと、バールに向かって「メイン監視システム、常駐中央監視室サブルームへ移送完了です。後は当直の部下に任せました。ここの電源は一端切ります」
ヴァ~~~~~~~~~ン!!
と大げさな音を立てて、全てのモニタがブラックアウトした。
これから映像検証に集中するための、マックスらしい配慮だった。
およそ100㎡のスクエアな広い空間。
入り口のドア近くに、円卓会議と書かれたスイッチがある。
4~60までの数字が並んでいた。
バールはその中から6を選んで、パチッと押した。
すると、突然シュワン!! と音を立て、
中央の開けた空間に、6脚のシートと円卓が迫り出した。
バール自身は北側の席に座り、後の5名に各々の席に座るよう促した。
各席のテーブル前にはネームプレートが立ててあり、それぞれ自分の席を
探して着席する。
全員がシートに腰掛けたのを見計らい、バールが挨拶した。
「皆さん、緊急の召集に対応していただき感謝する。ありがとう」
全員が会釈を返した。
「まずはゲオルグからの念視映像を観てみよう」
そう言って手元のレバーを引いた。
と、南のガラス面にスモークが掛かり外光を遮断した。
次に天井から直径5mほどの半球体が降りてきて、立体スクリーンを形成する。各自のシートは45度ほど傾いてリクライニングモードになり、天を仰ぎ見る姿勢になった。
ちょっとしたプラネタリウムみたいだ。
「よし、再生する」
バールがプロジェクタのスイッチを入れるた。
天井の半球体のスクリーンに、灰色の羽毛に覆われたゲオルグの顔が大写しになった。黄金色の光彩が斜幕で7割ほど隠れ、まるで2つの三日月が浮かび上がったように見える。
黒く堅そうな嘴をカチカチと噛み合わせて細かく震えている様は、正に念視状態に入っている証拠だった。
┫遡ること100と20年の時空を戻り、ハウラー・ナックスのルーツを念視できた。
これからその映像をお見せする┣
画面は突如、深紅に燃えさかる恒星メガの地表を映し出した。
その熱を帯びたような強烈な画面に、一同一瞬目を伏せた。
黄金色のゲオルグの眼差しの先には、そのフレアの中を滑空するイカロス・ファストの雄志の姿が捉えられていた。
当時のトップチームメルトサーチ率いる9名だ。
誰もが知ってる、この星を救った精鋭部隊。
闘将メルト率いるLWシュナイダー、RWキャンベルのトップチームと、それを追走するセカンドチームベルトリカ隊、LWにカンナRWにジル。3番手はマイヤー隊、LWにチャーミRWに伽藍の3つの美しいトライアングルが、メガ地表から襲い来るフレアドラグーンを制圧せんとする戦闘シーンだ。
「おおう!」
加増を観戦する誰とも知れず、感嘆の声が上がった。
襲い来る凄まじいフレアドラグーンの攻撃に、怯むことなく果敢に挑んでゆく姿に、ただ感動するバール。
「この9名の中に、ハウラーのお母さんがいるの?」
メゾンドが口を付いて疑問を述べた。
「じゃろうなぁ……。名前は違うが……」
と答えたのは、モアモアの婆さんだけだった。
緊急召集されら6名の目前で、もはや伝説と受け継がれているだけの女神達のバトル映し出された、戦闘オプションをもう少し見たかったビーストとしては、画面が切り替わり不満のうなり声を漏らした。
さらに古い映像に切り替わる。
そこには、ある一家の家庭風景が映し出されていた。
6名のギャラリーが見たものは、正しく幼き日のハウラーの姿だった。
「お母さん、まらドラゴンと戦うの?」
「行ってくるわ! メルトからの召集だから、たぶん一大事ね!」
母はイカロス・ファストのフル装備に身を包みながら、さらっとそう言った。
「装備から推測すると、主眼TE(トップアイ)だ。広角視野ゴーグルを着けてる」
ビーストがそんな推理をした。
「メルトは片目のはずだから違うと見て、てことは、ベルトリカかマイヤーのどちらかだぞ」
とバール。
画面は恒星メガの地表すれすれ、炎の嵐が渦巻く中を飛行するイカロス・ファストの姿を映しだした。
一糸乱れぬ美しいトライアングルフォーメーションが3編隊。
水平に並び、飛行間隔を維持しながら均一の速度で進んでいた。
眼下には、深紅のチェダーチーズを溶かし沸騰させたようなマグマの海がたゆたっている。時折プツン◎と飽和状態になったガスが吹き出し、その飛沫をまき散らす。その一粒でも数千度はありそうだ。
「う~~~ん。すげえ安定した飛行技術だ。ま、当時3000人からいたイカロス・ファストのトップ9だから、当然か……」
[A1]パイロット・ビーストが唸った。
画面を水平に飛行する一団。
突如10数体のフレアドラゴンが、マグマの海から飛散し、米粒程のイカロス・ファストを巻き込むように襲いかかってきた。
一瞬画面全体が、紅蓮の炎で埋め尽くされた。
「うわあっ!」
メゾンドは、声を上げ仰け反ってしまった。
それほどの迫力だ。
誰もがイカロス・ファストの実戦など初めて見るのだから、それも当然の反応だった。
凶暴なフレアドラグーンが、それも10体以上の群で縦横無尽に暴れまくる様は、正にこの世の地獄絵図だった。
ゴーーーーーーッというバーナーのような排出音をさせた。
その口からは業火を迸せ散らし、螺旋状に身体を巻き込もうとする。
もはやイカロス・ファストの姿は、全く見えなくなった。
飲み込まれたのか? と誰もが感じた時だった。
白銀に輝くペガサスのシルエットが、主竜の顎を白い塊となって貫いた。
良く見ると、そのペガサスは3つの三角形が基盤になっていた。
「おう! トリフォー編成の最終形態と呼ばれている、ペガサスの陣だ」
ビーストはバールと目を合わせた。
その視線に気付いてバールは
「オレだって実際に見るのは初めてだ。てっきり話だけの伝説だと思ってたよ。全員がマッハを越えるハイスピードを実践できるからか? 」
と答えた。
それにメゾンドが続けた。
「だとすれば、ハイ・シビルだからこそ成せる技って事になるわね」
白く発光するペガサスは、行く手を阻むように何10頭も折り重なるFDを諸共せずに、次々とFDの急所を突き抜け討伐していった。
壮絶な戦闘シーンの後、画面が切り替わった。
映像は再びゲオルグを映し、彼の解説が始まった。
┫今お見せした念視映像は、イカロス・ファスト最後の聖戦と言われ、この戦いでフレアドラグーンは絶滅した。凶暴な邪魔者を排除出来たことで、恒星メガ再建計画もその後無事に工期を終え……現在の平静たる姿に落ち着く訳じゃ……。3550年〜3560年10年間の長きに渡り続いた、FDとの戦いは終焉を迎えた。そこで本題に入る訳じゃが、問題はこの戦闘に今回の懸案事項ハウラー・ナックスの母親が参戦しておったのか?という疑問に対する答えを、次に見せる念視映像で解明した。最後の聖戦の始まる更に10年前。イカロス・ファスト結成当時まで念視は遡る┣
再度、映像が切り替わる、「いよいよじゃな」とモアモアが呟いた。
全員画面に集中している。
画面はバラライカなら、何処にでもありそうな一軒家。
そのダイニングで、朝ごはんを食べる少女を映し出した。
「ママ〜、卵は半熟にしてって言ったのにぃ」
年の頃6歳くらいの少女だ。その深い紫紺色の体毛は、
一見してハイ・シビルだった。
ここで画面はカシャっと、[ハウラー]という玄関の表札を写した。
映像を凝視していた6名がざわついた。
直ぐに画面はダイニングに戻る。
「文句言ってないで、早く食べなさい。ママだって今日は忙しいの。大事なイカロス・ファストの入団結果が出るんだから。合格してたら防衛本部まで顔出さなきゃ何ないのよ」
少女は、イカロス・ファストも防衛本部も分からない。といった様子でキョトンとしている。
プルルルル〜〜〜〜〜〜ッ
プルルルル〜〜〜〜〜〜ッ
プルルルル〜〜〜〜〜〜ッ
電話が鳴る。
「はい、ハウラー・テンカンプスです。はっ、はい! ご、合格ですか?
やったわ、ナッちゃん。ママ!イカロス・ファストに入れたぁ!」
少女は小躍りして歓喜するママを、冷めた目で見つめ自分のお絵かき帳を開いた。
チラッとその表紙に拙い文字で[ハウラー・ナックス]と明記されている。
重要証拠部分として、画像がスロー再生される。これはゲオルグの配慮だろう。
場面はまた変わった。場所はどうやら防衛本部。イカロス・ファストの結成式の模様だ。純白の戦闘服を着た隊員達が講堂に整列している。
300名はいるだろうか…………。
一人づつ名前を呼ばれ、壇上にあがり入隊バッジを受け取っていた。
「ハウラー・テンカンプス」
と壇上の司令官から名を呼ばれ、彼女は壇上に上がった。
ゲオルグの画面は、ここでズームアップした。
司令官はイカロス・ファストの象徴である、ペガサスを象った白銀のバッジを手に取り彼女の襟に付けた。
そのバッジには「ハウラー・マイヤー」と言う名前が…………。
「えっ」とメゾンドが声を上げた。
その気持ちを察したかのようなタイミングで。解説のゲオルグにスイッチした。
┫当時よりハイ・シビル種は希少な種族であり、その特出した能力が故……世間の風当たりは強く、やっかみから誹謗中傷する者も多かったのじゃ。今でこそ絶滅した種として、さらにはイカロス・ファストでの活躍も相まって英雄扱いされとるがの。当時は異種として異端視する世の中じゃった。軍はそんな彼女らを世間の風潮から守るため、あえて軍名を与え個人情報を保護したんじゃよ。ワシの念視で明らかになった事は、テンカンプス=[ハウラー・マイヤー]と言う軍名を持ち、ハウラー・ナックスの母親に違いない、と言う事じゃ┣
念視映像はそこまでだった。
これを踏まえて6名の対策会議は開始された。
バールは半球体のスクリーンを収納し、リクライニングを元に戻した。
「さて、幾つかの決定的な事実が判明したこれを受け忌憚の無い意見を頂戴したい」
バールの振りに、いち早くメゾンドが口を開いた。
「確認するけど、ハウラー・ナックスの母はイカロス・ファストのマイヤーってことね」他の5人は揃って頷いた。
それを見てメゾンドは更に続けた。
「ということは、ハウラー・ナックスは間違いなくハイ・シビルであり、彼女の発言(フレアドラグーンとの接触の件)は事実として確定した、という事になるわ」
大きくゴホン! と咳払いをし注目を促すと、マックスが話し始めた。
「マイヤーって言ったら、メルトサーチ直属の主力部隊マイヤー隊の隊長だ。すげえ大物だぜ。だが軍名なんてトリックがあったとは、テンカンプスで調べても分からない筈だぜ」
感慨深い口調でモアモアが語り始めた。
「あたしらの時代は、まだマシじゃのう。昔のハイ・シビルがそんなに異端視されとったとは、驚きじゃ。のう、ペイトリオ」
隣のペイトリオが頷いて応えた。
「ええ、残念だけど私たちが持っている弱い面……と考えざる負えないわ。ヒツジ雲にしても、最初はずいぶん偏見の目で見られたものね。新しい物を受け入れるには時間がかかるのよ。バビルザックだってきっとそう言うわ」
ヒツジ雲は製雲工場長であるバビルザックが、化学合成実験の末 苦労して生み出した気体生命だ。
画期的な新生命体で、品種改良によりその伸びシロは無限の可能性を秘めていた。
ペイトリオ達ヒツジ雲使いは、ヒツジ雲の製造の歴史を必修科目として学んでいた。
ある意味で誕生当初のヒツジ雲達もハイ・シビル同様、冷ややかな世間の反応に苛まれてきた。
複雑な思いが交錯したのか、感受性の豊なペイトリオは目頭を熱くした。
ペイトリオの後ろから、モアモアがピンクのハンカチでそれを拭ってやった。そして囁いた。
「最初は得体の知れない気体生命じゃった。じゃが今では、ヒツジ雲は世界を救う勇者じゃ、ハイ・シビルじゃって最後は、英雄として皆んなの憧れにまで昇華を果たした。時を経て正しい評価へ行き着くものなんじゃ。万物の真理じゃよ」
ガタン★
と音をたて、イスから立ち上がってバールが話を整理した。
「さあて、ゲオルグからの情報は見ての通りだ。個人的な見解や意見はあるだろうが、今は【ラピス・レイヤー】として、この事実を受けた上での対策を決定しなければならない。調査本部から、そのように要請が来ている。今まで疑問だった2点について明確な答えが出た。一つはハウラー・ナックスがハイ・シビルである事実。
この結果を受けてハウラーの証言にリアリティーが増した。
FDフレアドラグーン生存と、我が惑星パーミルの間近での目撃という衝撃的な内容。FD実在の確証については、目下特別探索チームを結成し、継続して捜索中である。本部のデータメモリ上にも、FDの存在を匂わす数値が見受けられる。データの詳細はレポートとしてまとめてある。マックス配ってくれ」
指示を受けてマックスが。10枚ほどをクリップで止めたレポート用紙の束を6人に配った。それを待ち、さらにバールが続けた。
「そのデータは、あくまで現状の解析が間に合った分だ。続報は随時発表する。ディスクやUSBなどの保存メディアを避け、あえて古典的な紙のレポートにした。情報の漏洩を懸念した処置で、特殊な自動発火インクを使用している。24時間後に印字された文章は焱となって消滅する。各自内容は頭に叩き込んでくれ」
パラパラと紙の束を捲りながら。メゾンドが言った。
「化学技術省でも、国家機密文書にはこのインク使ったことがあるわ。確かにこれなら確実に処理できる。コピーも出来ないって代物よね」
「ほぅ、そりゃ念の入ったこっちゃな」
モアモアはしげしげとレポート用紙を見つめた。
一泊於いてバールは改めて話し始める。
「フレアドラグーンが実在する。と仮定すると…………。現状【ラピス・レイヤー】の戦力で迎え撃つことは、かなり厳しい。開発中の戦闘用アンドロイド[ベータ99]も、戦力としてはかなり期待できるが、これも実践配備となるとまだ時間が掛かりそうだ」
バールは視線をマックスに向けた。
その意図を汲んでマックスが続きを話した。
「[ベータ99]ですが現在10000体が試験運転可動テストを行なっている最中です。実践投入となると、まだ半年は掛かる見込みです」
バールは渋い表情になり、重い口を開いた。
「機関長の言葉通り、戦闘用アンドロイドは調整中だ。FDの存在追求は継続して実行して行くつもりだが、実在が決定的となった場合、【ラピス・レイヤー】現存戦力は非常に厳しい状況にある。この事は認識しておいてほしい。あと、これはモアモアの婆さんにお願いなんだが、今日の会議の内容を、実戦に出動するレベルの娘達に伝えておいてほしい。もちろん機密情報であるから、それなりに口止めは必要なんだが……。人選は任せる、頼んだぞ。彼女達にも、いつ緊急出動(スクランブル)が発令されるか判らんのでな」
モアモアはピンクの尖り帽子を揺らして、頷いた。
こうして緊急対策会議は、衝撃映像の試写会の様相を持って幕を閉じる事となった。
➡️continue to next time
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