●2月15日入隊試験2日目

初日の

★第一次試験(フライトテクニックテスト)と

★第二次試験(シューティングテスト)を終え、

どうにか生き残ったガロンだった。


今日の二日目★第三次試験(コズミック・レイ耐性テスト)には自信を持っていた。シビル種である事は元より、仲間内でもタフだった。

皮肉な事にそのせいで、生まれ故郷のベイクライト村の唯一の生き残りとなる。仲間を全て失った辛い記憶が蘇り、決意も新たに気合いを入れ直していた。そして何より親方と共に開発した【レイ・ガード】という強い味方がある。このギアのオプション能力(シビル・バリア)があれば、宇宙線どころか、ニュートロンを2・3発食らってもまず耐えられる。

ただ、その後の特殊技能試験(ヒツジ雲使いとの連携テスト)

これが鬼門だ。

仲間を失った幼い頃から孤独を日常としてきた彼にとって、他者との連携には自信がなかった。

『果たして自分と合うヒツジ雲使いなど、見つかるのだろうか?』

 ……そんな不安がズッと渦巻いている。

ガロンはこの不安定な気持ちを持て余していた。


試験開始1時間前になった。

気を紛らわすためにも一刻も早くピットへ向かい、エアロバイクの調整でもしていたい気分だった。試験会場まで空路10分ほどだから、まだ少々早かったが出発することにした。


ガロンがピットに到着すると、すでに2名の先着がいた。

1番ゲイトリオ渓谷のセルバムと7番ホーライ山のチーダイだ。

巨漢でいかにも山岳地帯育ちを感じさせる、山猫のような男がいきなり話しかけてきた。

「よう、おいらセルバム。あんた確か5班で飛んでたガロンだよな。いい飛行してたな。しびれたぜ」

突然声をかけられ度肝を抜かれたが、自分の飛行を誉められ、ガロンも悪い気はしなかった。


「そりゃ、ありがとな。だが悪いな、オレはあんたのフライトほとんど覚えてないわ。ていうか、出番まで緊張で頭ん中まっ白だった」

セルバムは余程社交的なのか、ノシノシとガロンに歩み寄ると、こんどは肩を抱き寄せて、言った。

「わかるわかる……まぁ、しかたねえさ。おいらは初順の組だったから、たまたま終わってから色々観察できたってだけよ。ガッハハッハッ」

と豪快に笑い飛ばした。


もう一名、ピットの隅でエンジンの点火プラグをチューニングしていた、見慣れない憲法着を着たヤツが、ふわっと身体を浮かせスーと音もさせずに近付いてきた。

「や、ワタシ チーダイ言います。よろしく」

ボンボン飾りの着いた派手なニット帽の頭を下げ、会釈する。

音のない接近にビクッとしながら

「おっ、オレ…ガロン」「おいら! セルバムだ」

2人もチーダイの会釈をまね、お辞儀を返した。

「ワタシも観ていた、ガロンさん放射線見えてた。間違いナイね。

それ、秘密兵器あるネ」

チーダイはそう言って、ガロンの被っているヘルメットを指さした。

『こいつ、【レイ・ガード】の機能を見抜いてるのか?』

ガロンは内心穏やかではなかった。使用許可申請を入団要項には記したものの、その能力の詳細まではいっさい口外していなかった。

少し警戒心を強め「なっ、なんだい。そんなことねえよ。こいつはあくまで放射線から視力を保護するもんだよ」と、ごまかした。

「ガッハハッハッ。そんな小せえこたぁ、ええじゃねえか。58期のおいらたちゃ、合格すりゃ同期だぜ。仲良くやろうぜ」

今度はチーダイの肩にもその太い腕を回した。

「いや、ワタシ別に、探り入れるとかナイね。興味あった、ただ、それだけある」

チーダイもそれとなく弁解した。



それにしてもこの3人。

1時間も前からピットインするとは、臆病なのか用意周到なのか……

理由はともかく、奇特と言わざるえない。


「ワタシ、エンジン調整マダ途中」

そう言うとチーダイは腕時計を見て「イマ、9:35開始までアト25分。お互いガンバロ」そう言って自分のエアロバイクに戻っていった。

ガロンも【レイ・ガード】の露出調整を始めた。

セルバムは「よし、オレも最終チェックだ」と言ってラピスティックの結晶を磨き出した。

ちょうどその頃、ぱらぱらと残りのメンバーが顔を見せる。


ビルド村のエックスとピレリ村のボカボッカは、2人連れだってやって来た。出身地が近いせいか、仲が良さそうだ。

次に、カルス島のマッカランが現れた。南の島の女の子らしく、スワラの葉とマリーユの花を編み込んだ、かわいらしいワンピース姿だ。

そして昨日さんざん付き纏われたナックスが現れた。


相変わらずハードなレザーのジャンプスーツで、スレンダーなボディーを包んでいた。ただ、今日は紫紺のロングヘアーを、一つに束ねて気合いを入れていた。

集合時間ぎりぎりになって、一番小柄なセイラが自分のサイズにカスタマイズした小さなバイクに乗ってやってきた。

紫の毛皮がシビル種であることを、かろうじて物語っていたが、

異形の印象がある。

背中から生やした4枚の羽のせいで、妖精にしか見えない。

聞けばニッケル妖精洞出身だそうで、その異種の血統が8分の1混在していた。


色々と個性的な8名の受験者が、準備ピットに集結した。


10:00丁度になり、バール団長からの館内放送が響いた。

〈受験者の諸君。今日2日目の午前中は★第三次試験(コズミック・レイ耐性テスト)を行う試験管の指示に従い、試験空域に整列せよ〉


ガロン達8名は、各々独自にチューンナップしたエアロバイクを駆り、試験会場の空へ滑空していった。

カンムリ椰子の卵形ドームには初日同様、既に審査員達が詰めている。

ただ昨日と違う面子があった。


それは昨晩魔導師モアモアの要望で、観戦を許可されたミーメだった。

昨日試験を盗み見ていたことは、幸いバールには隠しおおせていた。

バール自身、以前よりペイトリオとの相性を懸念していたため、ミーメにも相方探しをさせたいという、モアモアの策略にまんまとはまった。

「どうじゃ、お嬢。ここならNo.5ガロンの様子が、手に取るように観察できるじゃろ」

「ありがと、お〜ばぁば。昨日みたいに隠れながらじゃ神経すり減るもん。今日は堂々とゆっくり観戦できるよ。助かった」

それでもミーメは、ちらちらと親父を気にしていた。


「あっ! あいつら…。来ちゃダメだって言ったのにぃ〜」

「おや、おや。本当じゃ……あれじゃな」そう言うと老魔導師は、東の地平線の立木の隙間を指さした。

その低空には、木々に隠れるようにパフ4兄弟の姿が見て取れた。


「じゃが…今日は角笛持って来とるんじゃろ。いざとなったら出動する事態になるかも知れんぞ」

モアモアは意味深な笑みを浮かべてそう言った。

「何よ。そんなこと無いもん。あっ、もしかしてまた先観鏡使った?」

ミーメの背筋に嫌な悪寒が走った。

老魔導師は、はぐらかすようなニヤケ顔で、ただミーメの反応を楽しんでいた。

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