5.愛ゆえ
『……って夢をみたんっすよ、それがやけに鮮明で…』
私は昨日投稿された動画を見返して、『あの後の事』を思い出す。
****
「私は……私の夢は良いんです。…あの人と私を、元の世界に戻してください」
『…本当に?』
女神様は確認するように言う。
『もう二度と彼とは会えないんですよ』
女神様の言葉に、私は「わかってます」と返した。
「私と居る困った顔のR.B.ブッコローさんより、私は……画面越しでも良い、楽しそうなR.B.ブッコローさんが良いんです」
私の言葉に、女神様は『…そう』と言って姿を現し、私に手を伸ばした。
『私の手に触れれば、何時でも戻れるわ』
「……」
私は軽く息を吸って、R.B.ブッコローさんの方に振り返る。
そして、思い切って叫んだ。
「R.B.ブッコローさん!」
「はい?!」
「……好きです、お元気で」
私は彼の口が何か言おうと開くのを見たが、何を言ったのかを知る前に、目の前の女神の手を取った。
(さようなら、R.B.ブッコローさん…)
***
「皆本さん?」
「あっ、……はい」
店長に呼ばれて返事をする。
戻ってきたんだ、私…。
「ポップとかって書けるかな?」
「!かけます…!」
私は店長と奥の部屋へ行く。
まだ感覚が抜け切ってない。
ここも異世界だったらどうしよう。
(あっ…)
そんな不安になっている私の視界に入ったのは、R.B.ブッコローさんの小さなぬいぐるみだった。
私は彼と同じ世界に居る。
だから、会えなくても良い。それだけで私は生きていける。
(そうだ、ポップの端っこに……R.B.ブッコローさんの絵を描いてみよう)
私は字は綺麗に書ける方だけど、絵を描くのは苦手だった。
それでも、頑張って時間をかけて、R.B.ブッコローさんへの愛を込めて描いていると、時間を忘れるくらい楽しかったし、
「この子可愛いー!」
「あら、ケンちゃん気に入ったの?」
…こんな風に、たまにR.B.ブッコローさんを気に行ってくれる人も現れる。
そんな時、私は何よりも嬉しかった。
(戻って来て、良かった…)
****
『今回はこちら!今人気の『本大好き系VTuber』ホンヨミ アイさんとコラボ!という事でですねー…』
画面越しに彼の声が聞こえる。
私は彼には二度と会えない。
…でも、会えないからといって、彼を諦めたりはしない。
要は、『会わなければ』良いんでしょ?
「こんにちはー!ホンヨミ アイです!」
画面越しにR.B.ブッコローさんを見ながら、私はいつも通りにマイクに向かって話す。
私は今日も、彼の居る世界に生きる。
…もう二度と彼と会えないとしても、私は彼への愛で、生きていけるから。
あの時……ただ一目、会えたから。
ただ一目、会いたくて。 センセイ @rei-000
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