第5話 変えた成果と代償


良太郎は待ち合わせの場所に着く。


「 良ちゃーーんっ! 」


先に着いて黒澤さんが手を振って待っている。


「 黒澤さん、お待たせ。 」


待っている黒澤さんはとても笑顔で、いつも見せていた無愛想な彼女とは別人だ。


「 黒澤なんて言い方やめて?

多香子って呼んで? 」


よそよそしい呼び方ではなく、親しみある下の名前で呼んで欲しいようだった。


「 多香子…… さん。

何にする? 俺はあまりここ来たことなくて。 」


当然良太郎は缶コーヒーばかり飲んでいたから、おしゃれなコーヒー店とは無縁な男。


「 任せて! 私のおすすめにするからさ。 」


そう言い慣れた感じに注文し始める。


( それにしても…… 俺が戻って過去を変えてから二日後って事だよな?

昨日一体何が起こったのか…… 。 )


昨日を思い出そうとすると、まるで自分が本当に体験したかのように昨日を思い出せる。

昨日は普通に出勤すると、黒澤さんが凄いお礼をいっていた。

周りにも良太郎をヒーローのように語っている。


「 岩崎さん…… 連絡先交換してもらっても良いですか? 」


上手い事進み、連絡先を手に入れて仲良くなっていた。


( この力は凄いな…… 。

過去を変えたらこんなにも変わるとは。

あのカレンダーのお陰だな。 )


「 良ちゃんどうしたの?

ボーーっとしちゃって。 」


考え事していたら上の空になっていた。


「 何でもない、何でもない。

ちょっとだけ考え事してただけだよ。 」


「 そう? なら良かった。

カフェオレのクリームたっぷり乗せだよ。

私の一番のオススメなんだから。


微笑みながら話してくれた。


( 何だろう…… 前から知っているのに、こんな表情とか初めて見るなぁ…… 。

俺は全然みんなと話してこなかったのか。 )


深く思い知らされる。


「 良ちゃんは私にとってのヒーローなの。

あんなヤバいやつに一人で立ち向かって、私感動しちゃったんだから。 」


黒澤さんは何度も感謝をして、良太郎を褒め称えていた。

その度に心が痛くなった。


二人でゆっくり話をしながら出勤した。

その歩いている時間は、とても早く感じる程に。


「 …… おはようございます。 」


良太郎が挨拶をすると、同僚が一気に声のする方を見る。


「 岩崎くん、おはよう。 」

「 岩崎さんおはようございます! 」

「 おはようございます。 」


いつもは流して返答もしてくれないのに、誰もが挨拶を返してくれる。


「 岩崎君…… おはよう。 」


上司からも熱い眼差しと共に、肩をポンっと手を乗せてきた。


( 黒澤さんを助けただけで俺の地位は逆転した。

嬉しい気持ちもあるが…… 。 )


ここぞとばかりに寄ってくる人達に、イライラする気持ちも沸いてきていた。

結局はみんなは真面目より、ノリの良い人や目立ってる人が好きなのだと分かったからだ。


「 良ちゃん昼休みは外で食べよう?

私良い店知ってるからさ。 」


黒澤さんは嬉しそうに話す。

いつも一人だったのが、黒澤さんや他の仲間達まで仲良くしてくれる。

孤独ではなくなっていた。


「 おいっ! イイ気になってんなよ? 」


同期のスーパーエリート、相楽盛夫が怒って話をかけてきた。


「 なんだ? イイ気になってるはずないだろ? 」


「 黒澤さんは俺が狙ってたんだぞ?

どんな手を使ったのかは分からないが、お前なんかじゃ到底手の届かない人だ。

直ぐに取り返してみせる…… どけいっ!! 」


今まで見せたことないくらいの怖い表情で、激しくぶつかりながら行ってしまう。


( あのカレンダーの力で未来がこんなに変わるとは…… 。

人の思いもお金も全て思いのままか。 )


まだ実感の沸かない現実。

誰からも嫉妬されてしまうくらい、幸せもんになってしまう。


お昼も楽しく食べて幸せいっぱい。

それと同時にいつもは適当にしていたのに、言葉選びや嫌われないように必死に。

嫌われ者は言葉一つ一つまで気遣っている。


「 私さぁ、思うんだよね。

何で良ちゃんともっと早く話さなかったのかな?

ってずっと考えちゃうんだよね…… 。

話してても楽しいし、物知りだし。

いつも一人で居たから話しにくい雰囲気だったのかな?

本当に不思議なもんだよね。 」


その後楽しく食事を終えて、仕事も終わって一人で公園へ。


「 どうした? 浮かない顔して。 」


カレンダーをくれた謎のおじいさんが隣に座っていた。


「 じいさんさぁ…… 。

過去を変えたけど、何か違うんだよなぁ。 」


全てが良くなったのに、何故か嬉しそうではない。


「 あのカレンダーで良いように変えたお陰で、可愛い子にはモテたり、周りからは優しくされたりして最高なんだ。 」


「 じゃあどうしてそんな顔をするんだ? 」


立ち上がって噴水に近づく。


「 人の気持ちを操ってるみたいで、どうしても気が進まないと言うか…… なんと言うか。 」


上手く言えなくてヤキモキしてしまう。


「 そんな風に考えるやつが居るとはな。

珍しいやつだなぁ。

何も考えず楽しめば良いだろ? 」


「 俺が知ってるから…… 。

俺は自分にだけは嘘をつきたくない。 」


良太郎は黒澤さんとの関係を良くする為に、未来を変えた事を後悔している。


「 そこまで言うなら丸を消せばいい。

そうすれば寝たら、同じ今日が始まる。

ただし過去を変えてない今日だがな。 」


便利なカレンダーは嫌な改変は、丸を消すだけでなかった事に出来るようだ。


「 まさか改変した未来まで変えれるとは…… 。

凄い力だよ、このカレンダーは。 」


良太郎はクスクスと笑ってしまう。


「 あの子との出会い方はどうであれ、俺の歩んだ時間を後悔しない。

同じ今日がまた来た時に、俺はズルなしで彼女を振り向かせてみせるさ。

ありがとう、またね! 」


そう言い走って行った。

それを静かに見守る。


「 本当に彼にカレンダーを渡して良かった。

邪念や欲望…… 様々な負の感情が起こる。

だが彼はその感情に打ち勝つ心の持ち主だ。

私が使うより何倍も楽しいのう。

わっはっはっはっは!! 」


おじいさんは笑いが止まらなくなっている。

良太郎の素直な心を見て、おじいさんは益々好きになっていく。


家に着くとカレンダーの前に立っていた。


「 …… このまま過ごすのも絶対悪くない。

だけど…… 簡単なストーリー程見てて楽しいもんじゃない。

俺はいつまでもスリルを味わいたいんだ。

だから戻す…… 。 」


そう言いながらつけた丸を修正液で消す。

これで眠ったらまた同じ今日が始まる。


ぶぅーーんっ!

メールの通知のバイブが鳴る。


「 今日も楽しかったね、ありがとう!

明日もあのコーヒーショップで待ってるね。

遅れないでね! 黒澤多香子。 」


そのメールを悲しそうに見つめる。

そして返信せずに布団へ。


「 ありがとう…… 。

次会うときはまた何も変哲もない男だけど、絶対に振り向かせてみせるさ。

俺だって…… 頑張れば絶対に…… 。 」


そして深い眠りへ…… 。

眠るとカレンダーは光り出して能力が発動する。


「 ん…… ? 寝ちゃったか。

今はいつなんだ?? 」


直ぐに頭を触ると大きなこぶは失くなっていた。

包帯もしていない。


「 本当に元に戻ったのかぁ。

これで良いんだ…… 良いんだ。 」


自分に言い聞かせるように何度も呟いた。

直ぐに準備をしてコーヒーショップへ。

ネクタイは曲がって着けながら、急いでコーヒーショップ向かいました。


「 はぁはぁはぁ…… 彼女は居ないよな。

そりゃそうか。 」


周りを見ても彼女はいない。

当然の事なのに来てしまう。


「 あれ? 岩崎さん? 珍しいですね。 」


目の前に黒澤さんが立っていた。


「 あっ…… たまには飲もうかなって。 」


呼び方も今まで通りのよそよそしい感じに。

その瞬間に戻った事を再確認する。


「 あの…… もし良かったら…… 。 」


「 …… ん?? 」


勇気を振り絞り仲良くなろうとする。

仲良くなる事が出来たのなら、今だって不可能はない。

良太郎は強く思った。


「 よっ! 岩崎ぃ!! 」


「 …… えっ? 」


そこにはスーパーエリートの相楽盛夫が黒澤の隣に来た。


「 何だそのバカ顔は?

財布盗まれちゃったから、昨日色々ご飯奢ってあげていつの間にか家で寝ちゃってな。 」


二人は顔を見合わせて笑った。

その瞬間に二人の関係は、財布を盗まれた後から急接近していた。


「 そ…… そうなのかぁ。

それは良かったな。

俺は先に行くから…… じゃあね。 」


そう言い走って行ってしまう。


「 何だ…… あいつ。

気まずいとか思ったのかな? 」


盛夫はキョトンとしている。


「 岩崎さん…… コーヒー買わなかったね。 」


黒澤さんは最後に言いかけていた言葉は、何だったのか気になっていた。


途中で公園の草むらにスーツで倒れる。


「 これが…… カレンダー無しでの現実。

痛すぎるぜ…… 痛すぎるよ…… 。 」


静かに何度も呟いた。

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人生の上手い生き方 ミッシェル @monk3

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