第124話 決心
この世はつねの場所でなし
草の白露、水の月、なおあやしかり
イサドに花を、・・・・
ススマロゲだろうか。濡れたアセビの群に日があたって照りはえ、ススキはしっとり重たげに穂をたらし。うすく一面にねんばりした足もと、すべって転ばぬようリウはシュガの袖をつかみながら。おのれが、というのでなしに、相手が転倒することを防ぎたいという思いからであったが、身体能力として相手のほうが遥かうえであろうから、ありがた迷惑でしかなかろう。現に幾度か足をすべらせていて。そしてリウとて自覚できてはいたものだったし、仮にそうかと訊かれとしてもただ自分が転びそうで恐いからとこたえたろうが、自分がでによく分からぬ心のはたらきで、助けになるかどうかではなく、そうせずにはいられなかっただけ。必然的にリウはシュガに寄り添いならんで歩くかっこうとなり、タマが先導し、しんがりになったセヒョは不平そうに口を突きだし、それでも悪態をついたりシュガに突っかかってゆくことはなく、大股でゆっくり足を運ぶ。草むらにぽつりぽつりとしたたり咲きはじめている野守草の花。可憐な、なかくれないの花びらの。そんななか、リウは落ちつきなくおちこちへと目をやっていて。イルカなのか、祭司長の手のものか、かつてシュガの下にいた賊の一味か、害をなさんとするものの気配を濃厚に感じ。と、そういうわけでもなく、であればセヒョだとかシュガがまっ先に勘づきそうではあるし、反応し対応できもし、リウは足手まといになるくらいであったろうし。戸外から出たときかから、あちらこちらに、円やかなものが見えかくれしているような気がされて。然り、くきやかに目路にはいるというのでもなく、かろうじて輪郭が認められるといった程度の、まばゆい白銀のひろがるなかにいる白兎といった風情の気配を感じる、という方が正しいような按配。ニレの木の梢に、センニチコウの藪の陰に、岩のそばに、ふわふわと漂いいて、目をむけるとふっといっせいに隠れる感じ。それでいてまたふわふわと湧きだし、興味あり気にこちらを見ている気色で。つぶらなきらきらした瞳の小動物のような無垢なる存在で、危害を加えられることはゆめさらないとは感じとれていて、心配してはいなかったが、なんであるのか気になりはする。シュガやセヒョやタマが気づいているものかどうか、も。さりとて訊けないでいたが。もしかすると気のせいでしかないのかもしれぬし、気づいているにしろいないにしろ、言ったことによって探しまわられ、気が騒ぎ、乱れ、逃げださせてしまうことをそぞろに恐れたからでもあって。それこそ、ノウサギのような臆病で可憐な存在と知覚されていたからであり。思いあたるところでは、母や父から聞かされた、ススマロゲというモノノケだろうかというものくらいで。なんでもカマドにいるちいさなもので、夜ふけなど人けがなくなるところころと現れだしてきて、人の気配がすこしでもするとカマドのなかに隠れこんでしまうとのこと。ススの玉のようなちいさいもので、集団でいるらしく。先ほどから感じられているものたちは、ちいさくはあったが、黒っぽくはなく、いろいろな色にかそけく点滅しているようではあって。ひょっとしたら、クラムボンだろうか。これも母や父から聞かされたもので、うたかたのように漂い、人に見られるとはじけるように消える臆病というのか恥ずかしがりやのモノノケがいるのだとか。ただし、これは綺麗な流水のなかにいるもので、地上にあらわれることはないのだそうだが。クラムボンはヤマナシを嗜好するとのことで、リウもヤマナシを好みひとみしりでもあったことから、うちのクラムボンとからかうように言われたりもしたもので。そのモノノケは、かぷかぷと笑い声をたてるということを聞き、からかわれる度、リウは戯けて、かぷかぷと唱え。・・・・ことによると、あの媼と翁のような、神だとかそれに類する存在であるのではなかろうか。リウの気にかかり方は、不安だとか恐れでないことはもとより、訝りでもなく、好奇心にちかいものであって。仔リスでものぞき見てきているのだろうか、というような愛おしい慈しむような好奇心。その可愛らしい姿を見てみたい、という。
・・・・花は先立ち無常の風に誘はるる
ナンロウの月もてあそぶ、ヤカラも月に先だちて、ウイの雲
「待て」
リウはシュガに引きとめられ、はっとと胸を突かれ立ちどまり、目のまえから足もとまで素速く見まわし。何かにぶつかるか、足を傷つけるか、落ちこんでしまう危険があるのだろうか、と。これといって見あたらず、相手を見やり、青みがかった雪花石膏とよく研磨された黒曜石で作りなされた宝珠。内に炎をひそめ時に燃えあがりもする眸子と出あい。そこにおのれの影のうつりこんでいることを認められ。どうしたのか小首をかしげ問う以前に、吸いこまれもたれかかりたい衝動にかられているところへ、
「あいかわらず、ぼんやりやなぁ。ゆき過ぎてるやんかぁ」
現在、タマ、ハナ、トリ、カゼ、ツキが暮らすあばら家をうっかりゆき過ぎようとしていて。それどころか、タマとセヒョの存在も視野から外れていて、こうして歩いている目的すら失念し、シュガと逍遙している心地にひたっておのれに心づき、そうだねとはにかみ応えながらうつむく頬に、朱がさし、ひろがってゆき。タマに声をかけられなければ、その勢いでシュガにもたれかかっていたかもしれぬ。しかけていたろうか、していたような気もされるし、気づかれなければ良いがと期待しつつ、見え見えであるような恐れも抱き。さりながらそれは、腹の奥が冷たくこわばるようなものでなく、甘やかなものではあったのだったが。
「おカシラさんも、なんやらへんなかおしはってなぁ」
タマの笑いをふくんだ、おひゃらかすもの言いに、いかなることかとそっと眼をあげシュガの方にむけ、胸の高鳴り。たじろぐように目を伏せていて、おもてに心なしか赤みのきざし、耳はあきらかに朱に染まっていて。ひとり相撲でないことを知り、胸をなで下ろしもし、ざわめきもし。
「・・・・こんなとこでグダグダしててもせんないわ、はよ入ろうや」
セヒョが苛立だしげに声をあげ。
・・・・滅せぬもののあるべきか
菩提のタネと気づけぬは、口惜しかりきこっけいさ
「それはおそらく、コダマやろねぇ」
裏葉いろのセンスを靡かせながらコヅキの言い。みずからのヒョウタン頭に風をおくり。シュガやタマらのいた場所の辺りでリウの感じたモノノケについて、はなしたところ。
「コダマが町はずれとはいえ、ひとざとにあらわれるもんでしょうかなぁ」
目もと口もとの皺を心もち深めたミズクミが、疑義を口にすると、
「そやねぇ。兄さんとこやったらひょっとするとありえるかもしれへんけど、たいていありえへんやろねぇ。そやけど、木ぃの神さん出てきはったいうてたやんな。それやったら、ありうるかもしれへんし」
おトモが目じりに皺をたくわえ、白髪頭に手をやりながら言い。関連して、リウのしてあった木彫りの像に思しき媼と翁の話にふれて。コダマとはなんでも、古木の附近にうかぶウスバカゲロウのような、さらにかそけき存在で、いまでは山深い人がまず踏みこまぬ水も翠も清澄な場所に稀にしか見られぬようになっていたが、ひと昔、ふた昔前にはこのあたりにも人家のまばらなところでは時おり見られたのだという。現に、おトモはまだいとけない砌に幾度か目撃したことがあるのだとか。老女は懐かしげに目を細めて語り。雨あがり、日の照りつけるも、かまびすしいアブラゼミなどの輪唱のすることのなくなったためかどうか、しとどに水気をふくんだ熱気に、ひそやかに忍びこむ涼の感じられなくもなく。くる道中、尾花の穂がゆたかに垂れ、ハギの花がほころびはじめていたことが過り。雲の掃かれてゆきあらわれた穹窿の青も、幾分うすくなってきたような気のされて。リウはシュガとタマとセヒョとともに、ハナ、トリ、カゼ、ツキのいる処へと一旦もどってから、水戸やにいった方がよいのではというセヒョの発案で、もしかするとそうするよう水戸やのもの(コヅキか)に言われていたのかもしれぬが、セヒョとシュガの三人でゆくことにまとまる。三人よれば・・・・ならぬ、知恵のある、人員もあるものらのところで、これからのことを話し合ったほうがよかろうということであり、あそこにいるより危険性が間違いなくすくなかろうということもあり。可能であれば、わらべたちも伴いたかったのだが、ハナ、カゼ、ツキはともかくもトリは歩いてゆくのは難しい状態であるため、荷車なり手配してもらうことにして、タマはつき添いとして残すこととし。床の間のある座で、コヅキ、おトモ、ミズクミと対し、リウはシュガとセヒョといて。戸のそばに、スケとカクが控え。
・・・・に花を、花は先立ち無常の風に誘はるる
ナンロウの月もてあそぶ、ヤカラも月に先だちて、ウイの・・・・
店頭まえの往来にオウギを手に、謡いにあわせて舞う者のあり、耳目を集めていて。浅葱いろのキモノに丁子いろのハカマに緋いろのオウギをあわせた若人で、はきはきと清新な舞い、謡いをする者の声ものびやかで耳に心地よい。最近はじまり流行しだしたクセマイというものなのだとか。リウは正直、いまだ都には馴染めずにいて、その賑わい、はなやかさ、猥雑さに気後れと、ほんのり嫌悪感しかもつことがなくいたものの、人の目や耳(その他もあろう)を愉しませるものが次から次へと生みだされてゆくさまは、素直にすごいと簡単し、呆れさせられもして。そして、だからといって好感度がます、ということはさらさらなかったわけだが。
「それで、これからどないしたらええんか、いうことなんですけど」
セヒョが切りだす。ハナ、カゼ、ツキ、トリ、タマらの処遇については、リウがおそるおそる善処をたのむとあっさり受けいれられていて。セヒョが言ったのは、恐らく黒幕であろう天礼への対応(セヒョにとっては天誅)についてであって、そこにはシュガのあつかいも含まれているらしく、ちらちらとシュガを横目で見ながら。
「あのところに足を踏みいれたことは出てからひと度もなく、させられず、する気もなく、しようとしても阻まれたとおもわれるなか、いわれてやることがたびたびあったが、そうくわしいことは語られず、また問うてもこたえてはやはりくれなかったろう。そんなわけで、吾もあの方々がなにをしようとしているのか、内情ともどもまったくといって分からぬのだが・・・・」
シュガは口を開き、目を伏せて陳じながらこと葉を区切り。なにか思案している気色でいたが、
「おそらく、アラタマ祭でことをおこすだろうと、吾はおもうが」
「アラタマ祭ちゅうことは、天長、祭司長どものいる宮中のまっただ中でぶち上げるいうんか」
半ば唖然とし、半ば疑わしげにセヒョがその大きな目をむけると、シュガは肯き、おそらく、とまたぞろ言う。
「ありうるかもしれへんなぁ」
ミズクミが賛同すると、
「そやねぇ。うちらもそう睨んではいたもんやけど」
コヅキもおトモもミズクミも顔色ひとつかえるでなく、さも当然といったようすで。背後にいるため姿は見えないものの、スケとカクは身動きひとつせず微塵も動揺がおこっていない気配。天礼が廻天すること、いわば権力奪取し追い落とすことを願としていることは分かりきったこと、と言わんばかりで。リウはむしろその反応に驚きながら、そこからかすかに見えてくるもののあり。彼らのうちにも、いま一度まつりごとの長に戻りたいという願いがあるのではないか、と。たがために、敏感に察した母は出奔することを決意し決行したのではないか。そういうところに、成りゆきとはいえはいることとなり、母はどう思うだろうか、はたして良かったのだろうか、とリウははじめて水戸やのものたちに不安を覚えもして。もしなんらかの解決がついたとき、この人らはいかなる動きをとるのだろうか、と。ましてや、シュガと一緒になりたいと望みを言ったらば。・・・・
この世はつねの場所でなし
草の白露、水の月、なおあやしかり
イサドに花を、花は先立ち無常の風に誘はるる
ナンロウの月もてあそぶ、ヤカラも月に先だちて、ウイの雲
人間五十年、下天のうちをくらぶれば、ムゲンの如くなり
生をうけ、滅せぬもののあるべきか
菩提のタネと気づけぬは、口惜しかりきこっけいさ
緋いろのオウギの羽ばたくさまが、けざやかに眼うらに映じているような気のされる。あたかも火の粉を飛ばし燃えなびく焰の如き。ハナ、カゼ、トリ、ツキ、タマらのいる小屋へむかうときに見えた映像を思いだし、いずこかで目にしたことがあるように思われてならず。いつ、いかなる場所でなのか。もしかすると夢であったものか。世のなかは夢かうつつか、うつつとも夢とも知らずありてなければ。炎のツバサをもった鳥。たいていの猛禽類より大きく、気高く、神々しいくらいの威容をもちながらも、ツバサをのばしきることのかなわず、首を立てることのかなわず。柵のある、なにか容れものに囚われ閉じ込められてあるらしい。本来であればそのようなものを焼きつくすなり衝き破るなりでき得るはずであるものが、特殊な力がはたらき睡らされているというのか、痺れさせてうごけないようにさせられてあるというのか。囚われから解放してやらねばならぬ、というつよい衝動を覚える。それがナニモノであるか分からぬし、何ゆえにそういう思いが衝きあげてくるのか掴めぬものの。消えたようにうずくまるそれを救出せねばならぬ。そして、そして・・・・。どうしたいというのだろうか、吾は。どうなるというのだろうか。ただ、ひたすら愛おしさを覚えてならず。痛いまでに。さりながらそういう妄想じみたことにかかずらっている場合でないと気をひき締め、シュガを見やると、やはり俯きがちで目線が落ちて机上の附近にあてられたままで。良いように使われていたとはいえ、いわば敵対する相手である天礼側の、ましてやその血の流れる立場であってみれば、居心地のよくないことは容易に判断のつき。セヒョを除き、眉をひそめたり非難の目や文句をむけるものはいなかったが、実際の胸のうちはどうなのかは分からない。みな割りきれ、見方から色を完全に取りのぞけているだろうと想定する方が、無理があるだろう。なかんずく、させられて来たとはいえ、今までおのれの手で、また人を使ってしてきた非道の数々があるわけであり、それらと否応なしに向きあうかたちになっているわけであるし。なにも天礼と天授が対立する位置関係になっていてそのために、ということだけでなしに、直視しようにもなかなかできず、そんななかでも逃げずに待ちうける今の姿勢は、積みかさねられた罪業にたいするものなのではないか。あくまでも個人の問題であるため手助けなり手を貸すなりできようもないことで、さりとて過ぎたことだから水に流してと加害側にいうのは道理に外れるし、あまり気に病まずだとかあまり気にするなとリウには言えず。吾や彼とおなじく生きていたものたち、草木だとか、生きていないものらの現在、未来を破壊してきたわけだから。でも、それを言うのなら、誰しも何かしらの命を得て永らえているわけであるし、知らずに殺めたり傷つけたりもしているわけで、吾らと、いや、他の人はいい、吾となんら変わらないのではないか。規模や量にケタ違いの差があるとしても、その行為だけとれば。どこのだれに責める資格などあるのだろう、すくなくとも、吾にはない。吾が立つのはシュガとおなじ位置。と、そこで閃くようにリウは思いあたり、それが自然声をともない現れ出で、
「・・・・だから、シラギ山の・・・・をおひらきにしたんだね」
シュガに語りかけていて。不意うちで、だからと言うまえにあるものがなかったため、面くらわせるのがおちで伝わるものではないはずだったが、シュガは静に目をあげてまなざしを重ね、うっすら笑んでかすかに肯き。もしやすると声をかけられたから反応した、というだけのことであったのかもしれぬが、言わんとしていることを受け、肯定の返事だと、その双眸にやどる光から察し。無にちかい表情のなかに、哀しみや悔やむ思い、それに必死になって耐えているさまが透けて見え、リウはシュガの膝にすえられた手のこうに、手をそえて。手のなかで、刹那びくりと震えるもすぐにおさまり。見とがめられ、なにか言われるなりするかもしれなかったが、そんなことはどうでもよく、こうせずにはいられずに。かたく握りしめられた手は、この高温のなかにあって、湧き水に漬けてあったかのように冷えていて。
アブラゼミの鳴きしきり、干からびたミミズの死骸にアリがたかるようなときでも、浸せば身をきるような低温の清水。あたかも氷のとけ出した直後の如く。清らかに透きとおり、水底の土や小石、ゆれる水草、もしかしたら子ガニもいるのかもしれない、それらがくきやかに眺められ。限りなく透明でくきやかに見えながらも、驚くほど豊穣にとりどりな成分をふくみつつ。あらゆるものを内にやどしていれば濁りそうなものだが、むしろあらゆるものをすべてそのまま受けいれ迎えいれるから生まれる透明度。赤、みどり、青の光がかさなり具合によって色とりどりな彩りをなし、三つがかさなりあって白光があふれ出すように。人の体温からしたら芯まで凍てつくような冷たさも、生きものを包みこみ、育むあたたかさのあって。ふれているシュガの手に少しずつすこしずつぬくもりが通ってゆき、かたい拳がほぐれてもゆく。それはきっと吾が熱により温まって、ではなくシュガ自身の内からわきしもの、熾りしものだろう。手を貸し立たせたなどどうでもよいことで、自らの足で立ち上がることがうれしいし、誇らしくもあり。思いのかたちとしては、幼い吾子がはいはいから起ちあがるところを見守るのにちかいのだろうか。ただひたらすら悲しく健気で、いとおしい。おのれより、丈がありししづきの発達し、膂力もはるかにある相手でありながら。そういう色を帯びた眸子で見るからだろうか、そぞろにいとけなさの感じとれもして。みなもに映る影のようにゆれるシュガの顔、双眸。そんなにまで辛いのだろうか、いや、何を言っているのか辛いに決まっているではないか、と胸が締めつけられ。波紋が繁くなり波立ちはじめたとき、それは相手のものではなく自身のものだと気がつき、焦りあわてて両手でおもてを被おうとしようとするも、時すでに遅し、ほろほろと熱いしずくがこぼれ落ち。
草の白露、水の月、なおあやしかり
イサドに花を、花は先立ち無常の風に誘はるる
いずかたよりか、鈴の音もして。室内には八人も人があるというのに、誰も口を開きもののなく、スダレのはためく音すら聞こえ。
「・・・・これが正しいことなのか、もしかしたら、まちがいであるかもしれませんけど、なにか災厄につながってしまうかもしれませんけど、でも、もう離れたくないんです」
どんなことをしても、どんな目に遭うことになっても、と流石にそこまでは声に乗せられなかったものの、胸のうちで訴えつつ。シュガのことしか見えず、周りの人どころか自分すら見えなくなっていて自制どころでなくシュガの手にふれて涙をこぼすさまを晒してしまった後であるため開きなおった格好で、今さら隠しそれとなく婉曲に話をもってゆくというのも白々しいわけであるから。それでいてやはり、し慣れないケンカ腰にちかいはっきりした態度をすることに怯えがなくはなく、鼓動の早まるのを覚えながら。動揺しつつも、旗幟鮮明にしておいた方がよいだろうと、おのれを励まし言い聞かせるでなく、自然に思えもして。なにも言わなければ、なし崩し的に良いようにあつかわれるかもしれない。自分だけならともかく、シュガに危害を加えられるような仕儀に到らしめられることは絶対に避けたいし、いや、自分だけならともかくは嘘で、離されたくない、離れたくないというのが最たる望みであるのだから。
「ええんちゃう。われらがツチの神の、もっとも力のかよいしものには、わてらは従うのみや。おまはんがつよくしたいというものには、それだけの意味があるんやろしなぁ」
考えるでなく、コヅキは即断し、つづけ、
「ただしなぁ・・・・」
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