第109話 光彩
・・・・の好むもの
ぞうげい つづみ 小端舟
おおがさかざし ともとりめ
男の愛祈る百台夫
びしゃッびしゃッ、ぬかるんだ地面に打ちつける律動的につづく派手な跫音。ガジュの売り子どもの張り上げる謡いがかわり、それにともない抑揚も足踏みする拍子もかわり。仕草も当然べつのものになっているのだろうが、ひとがきに囲まれていてすこし離れたところにいた三人には見えず、かき分けて見にゆこうという者もなくて、そも聞こえながらも耳にはいっていない状態ではあり、暫時むきあってから後、共におなじ方向へとあゆみだし。がっしり肩幅のひろい巨体の托鉢僧、笠と蓑を身につけ杖をついた老人、髪も単衣も濡れてへたり込んでいるせいかみすぼらしく見える男わらべ。奇妙なとりあわせではあったが、注意をむけるものなどいない。べつの視点をとれば奇妙なところはかろうじてとりあわせばかりで、異様ななりのものなどなかったわけではあったから。僧の丈たかく、ししづきの良いところは異と言えなくもなくなかったが、さりとて人目をひくほどの異様でもなく。むしろ積極的に関わろうと試みようとするものが稀であったろうか。
こぬか雨の音もなく降りかかってくるなか。路のわきにカタバミがちいさな花をひらき、青々としたススキのひと群れがかすかに揺れて。水をふくんでうなだれた赤みのある穂(開花)。したたるほどに花穂に蓄えられていない。まだ瘦せたイヌの尾の如き穂には、まだなっていないためであろう。目にはいり胸にのこった尾花の像から、花粉が飛散するようにモヤがあらわれ、情景のかわりゆき。なかみどりの湖面に、黄味をおびはじめた浅緑のさざ波。トンボが飛びかい、ときにチュンナ(スズメ)の潜り隠れて。実りこうべを垂れてはいるものの、収穫までにはもう少々成熟する期間を要する模様。ひと粒ひと粒が細かな鈴のようにも見え、もし仮に真実鈴のつらなりであったとしたら、吹きぬける風にのりあたり一面いっせいに、清らに洗い浄める壮麗なるオトダマの輪唱が拡がり、都の隅々まで沁みとおっていったやもしれぬ。いや、鈴など物理的に分かりやすい音色をたてぬものではあり、聴覚ではせいぜいかさこそと乾いたかそけき音がするだけではあったが、鼓膜ではとらえ得ぬ精妙なしらべを奏でているように感ぜられてならず。さりながらそれはあまりに淡く、うすいもので、それはその稲穂のもつ性質ーー密やかだとか控え目、というものもなくはないのかもしれなかったが、それら性質とも異なる弱い響きで。水や養分をあたえ養いはぐくむ、まずその地の生気が弱まっているような気のされてならず。弱まっているというのか、病んでいるといった方が正確であるのか。いまの年はひでりなどなく天候に恵まれているはずであるし、人の手もしっかりはいっているように見えはしたが。もっとも稲自体は枯れが見えるとか病にかかっているなどなく、健やかに伸びているように見えはしたため、まったくの気のせいであるのかもしれないが。それはうす暗い家屋のなかからのぞき込むような見え方で、本来であれば立ちいれない場所であるらしく、あえて禁を破りしている、よこしまというのか歪んだ気配のそこはかとなくただよい。歪んだというのはその当人の気質のみならず、どうやら直に見ているのではないらしく、なんらかの方法で空間をねじ曲げて物理的には距たりのある場所を観察している気色。物理的に、といえば、このものは目の前にあるものさえ、はたして見てとれることのかなうものなのだろうか。・・・・ともかくも、遠隔にあるものを透視している、それを吾は共に見ているものらしい。それがどのような人物であるのか、何のためにそういうことをしているのか、その場所(見えるもの、その人のいるところ)はいずこであるのか、皆目見当もつかず、そもそれが過去にあったことであるのか、今現在のことであるのか、はたまた未来におこなわれることであるのか判然とせず。実際におきることではなく、単なる幻想、ふっとあらわれ出たそれでしかないのかもしれぬ。そうに違いない。稲穂の映像が揺らぎ、消える。どうやら呼びかけられて気が散ったものらしい。呼びかけてくる声。・・・さま。・・・みさま。
肩にふれられ、肉体にあたる感触にびくりと震えリウは気をとり直す。セヒョに手を当てられたもので、なにも力いっぱい叩きつけられたわけでもなかったが、立ったままたまゆら睡っていてしまっていたものか、おこされて、はっと覚醒したような感覚で。いぶかしんだり、不思議がるセヒョとリョウヤに、なんでもないとかるく笑って紛らわせ。ごまかすつもりもなく、そもそも自分自身なんのことであるのか、なんの現象であるのか掴めずにいて、話しようがないことではあって。
被っていた笠や蓑はしっとり幾分おもくはなっていたものの、表面のみでなかまで染みることのなく、とはいえ汗をかいたりして、からりと乾いているとも言いがたい状態にはあって。被いの雨よけの効果がいかばかりあるものか、それが初めからあると感ぜられぬ、分からぬものであり、それ以前に気にもともないことでもあったが、除けるものなく長い時間無防備に歩きまわっていたらどうなるものかリョウヤを間近に見て、ふれて、ようよう心づくことのかない。言われてした身ごしらえを大げさなと呆れていた部分もあったものの、たしかに早く移動できないなか、いまの状態では少しばかり遠出していたら直に打たれていたわけでかなり濡れてしまっていただろうとありがたさ、軽んじたことに羞じらいを感じつつ、それよりも自分がのうのうと雨を除ける装いをしていて幼きものがしっとり水を受けていることを当たり前と流せずに、せめて拭ってやろうとほっかむりに使っていた手ぬぐいに手をかけたとき、その手をセヒョは制し、ふところから自身の手ぬぐいをとり出して男わらべに手わたすと、リウに対し、
「ひとのためになんかしたい、やらずにおれないてのは、ええことやで。ええことやねんけどな、ときと場合によることもあるねんで」
おのれを忘れて他を利するは、慈悲の極みなり。燃えさかった宅から三人の子らを、ヒツジの車、シカの車、ウシの車の三車があるとホラをふいて導きだす喩えがセヒョの脳裡にあったようだが、それを口にすることのなく。とりいだしたる手ぬぐいというものも、かろうじて手ぬぐいとわかる古び煮染めたような布きれではあったが。刹那、呆気にとられ不審がりもしたリウであったが、こういう出で立ちをさせられたのはなにも雨除けのためばかりでないらしいことに初めて思いいたり、ごめんなさいと謝りうなだれると、
「いや、そんなへこまへんでもな。すこしは自覚したりするのが要るかもしれへんな、てだけのことやで」
胸に応えて自責の念にかられ、とか、忸怩たる思いで、うなだれた、わけでなく、同意と謝するためにかしらを下げると、杖の先の刺さった地面が目にはいり、その幾分沈みこむさまのすずろにおもしろく感ぜられ眺めていただけであったので。懐かしさ、のような感情が多分にあって。かつてそこにいたような、親しみのような。誤解させて、それこそ自分が相手を気に病ませる、までゆかずとも、気にさせるようなことは避けたく、訂正すべく慌てて顔をあげようとしたとき、
「そら、あかんがな」
そう大声が飛んできて、と胸を突かれ、よろめきそうになる。セヒョが発したものでなく、首筋を拭っていたリョウヤのものでもなく。ガジュの売り子どもの踊る場から離れた川べりに来ていたのだったが、柳のしたにも人だかりがしてあるところがあって、そこから飛んできたものらしい。こちらの方は見ものだけで集まっているのではなく、さまざまな者が活発に意見を交わしていて。
「それって、あなたの感想ですよね」
「恥を知れ、恥をッ」
ときに明らかに、にちゃっとしたり顔で皮肉るもの、高圧的に罵倒するものも一部あったものの、おおむね意向は一致している気色ではあり。
「やっぱり、カミに鎮座ましますべきは、あのおかたやろなぁ。ここだけのはなしやけどなぁ、あのふんぞりかえったご立派なかたが床にふすようなっとるらしいわぁ」
中心となっているらしい者の声ーーしわがれてはいるものの、朗々とのびのあるーーがすると、ほんまかいなそうかいな、とざわめきの盛り上がり、
「それやったら、あのひっつき虫さんが、祈祷してなおしはるんちゃうの」
あざ笑い、皮肉って言うもの。その対象はむろん、弁者ではなく。同意のしのび笑いのひろがり。
「そやなぁ。それができるくらいやったら、ヌエなんていうけったいなんうろちょろさせとかはらへんやろけどなぁ。・・・・それになぁ、生きガミさんが患うて、わてらシモジモのもんらと(意味合いが)ちゃうんやんなぁ」
「腐ってもタイ、カミさんやしなぁ」
「天意にそむいたはる、てことやないやろか」
「そうかもしれんねぇ。・・・・さんのほうはお健やかなんやろ?」
「らしいわぁ。次の御代をになうご令息も壮健かつ聡明らしいしな」
「寝たはるお方のほうはどないなんやろなぁ」
「そやなぁ、さっぱり聞かへんけどなぉ」
「もうすぐアラタマ祭やんなぁ。やらはるんやろか」
「そら、やらんわけにはいかへんやろけどぉ、どないするかなぁ」
弁者は違えどまたぞろ天長と祭司長を非難するひと群れ。この間も見かけ、ずいぶん堂々と弁じたてるものだと冷や冷やもし驚きもし、最近ああいう手あいが多いのだと聞きもしていたものの、体調のことや自身をとりまく環境だとかで関心をもてるだけの余裕もなく、考えるべきこともあったため、一時的なはやりすたりではなかろうか、くらいにしか捉えることのなく、頭から締めだされていた格好で。今もまた見かけたことで、そういえば少しばかり前にも同じような集まりがあったことを思いだしたくらいであり、やはりさまで興味をひかれない内容ではあったが、あてにはならぬにしろ国をあげての大祭がひと月ほど先に控えているなか、天長が床にふしたというのは気になるところではあり。足をとめ、真偽を質しにゆくほどではなく、質したところで詮ない相手ではあろうし。リョウヤはなにか引っかかるものでもあるのか、天礼再興を称え盛りあがる集まりの方をしきりに気にしているようすであったが、セヒョは忌々しそうにして早く離れたい気色であったし、リウはリウで、天長のことはほんとうだろうか、とか、なぜ天授は口の端にのぼらないのだろうかと考えたりしてして男わらべのようすには気づかずに歩んでいて。天授という存在は、ジュデという流浪の民、四散しそこここの地に根づき、薄れした、つまりその存在はなくなったという認識なのだろう。実際は水戸やという反物屋が、正当なる血統を脈々と受け継ぐところとなっているわけだったが。よほど巧く隠しおおせている、ということであり。だからこそ、天長と祭司長の手から吾を守り得たとも言えそうではあり。事実、彼らの標的となる存在が吾であったかどうかはともかくも。あれこれと、とりとめもなく思い巡らしていて、
「わッ・・・・」
と幽かな叫び声に耳朶をうたれ。声のしたほうを見ると、リョウヤが硬直していて。我にかえったリョウヤは、自身の反応に驚いたようすで慌てたように素早くうごくと、セヒョの左わきにゆき。身をかくす素振り、セヒョの陰にはいり。そこを陰とするなら、陽となるのは川側であり歩行者がなくもないがみな足早で、それらしいものは背後になったあのひと群れしかなさそうで。どないしたん、とセヒョに問われ、リョウヤは口ごもっていて。それとなくふり返りふり返りして杖をついて進んでいて、ふっと目を惹かれる。見覚えのあるうしろ姿を見かけ。小柄な若い女人。片手に傘とフロシキに包み込んだもの、もう一方の手には杖。以前も見かけ、ぶつかってこられた人ではないか、と思う。あのときも、彼女はおなじ主張をする集団のそばにいたもので。どこかに奉公しているらしい容子であったが、今もまた届けものかなにかの最中で、ふと立ち止まり、いわゆる見物人になっているものだろうか。偶然に驚き、そこにはうれしさがあり、労りたい気持も湧き、ひと声かけてゆこうかと迷ったときーーそんなことをしても相手はこちらを覚えていないかもしれないし、覚えていたとして困惑させるだけであるかもしれずーー、たもとを引っぱられ、見るとリョウヤがそばにいて怯えたような表情でしきりに駄目だと言うように小刻みに首を左右にふって見せていて。口を結んだまま。声を出して気づかれまいとするかのようで、何のことやら皆目見当もつかなかったが、その切迫した雰囲気から問いかえすことをせず従い、引っぱられながら杖と足を運ぶことをし。セヒョもなにも問わず、さりながら二人を庇うかのように後ろにつき、ゆっくりと歩みゆき。見えぬように印を組み、低くつぶやくように誦しつつつ。
「・・・・ラマカーンカラチシュッタザラ。オンキャラマセイタカ・・・・ハッタ」
三人が塀の角に消えるまえに、うら若い女人がはっと何ごとかに気がついたようにその方角へ顔をむけ。目のあたりには布が巻いてあって、かつ彼らとは距離があり認められた(察せられた)ものかどうか、その幼げでさえある口もとにうすい笑いがひろがり。
「いちょう、にしきぎ、さざんかに、しいのき、ごようまつ、むくのき、なつめのき、やなぎ、くりのき、とう」
軒下に、オジャミ(おてだま)を繰りあそんでいるわらべが一人。われときて遊べや親のない・・・・。そのわらべに親のあるものかないものか知らず。あるから幸とも、ないから不幸とも一概には言えぬもので。 そばにいる男わらべは、こわばった面つきのまま、頑なにつぐんだ口を開こうとせずにいて。あの人だかりも、女人からもだいぶん距たり、お互い確認できぬところまで来ていたのだったが。セヒョはひとたび訊きはしたものの、いらえがないものを追及することなくいて。リウも、無理に聞きだすことでもなかろうと思う。話そうと思えたならおのずから打ち明けてくるだろうし。そうはいっても、肩や首筋が緊張で力がはいっている様子は気の毒であり、なんとか緩められないかと、オジャミでつかっていたかぞえ唄から思いつき、
「いちじく、にんじん、さんしょに、しいたけ、ごぼうに、むかご、なすびに、やまいも、きゅうりに、とうなす。という唄があるけど、きみのは違うんじゃないかな。いちじく(のところ)が、いもで、やまいも(のところ)が、はくさいで」
出しぬけの話で、リョウヤは何のことか咄嗟につかめず戸惑いながらも、数秒たってから肯くと、
「龍女というお店にいるとき、厨だったり庭で、外からするのをよく聞いていてね。調子だとか、文句がちがうふうに歌う子がいるなて。だれかまでは分からなかったけど」
真相をつかもうとするまでのことでもなく、そういうゆとりがなかったからでもあって。ふと思いだしたことだったが、あれはリョウヤだったのだろうとぼんやり感じ、話しているうちに確信し。見抜かれていたのかと驚いてか、男わらべは目を見開き。その素振りから、吾がいることを知っていた、探していたらしいとリウは察し、さりとて不快にはならず、大方ミワアキに言われしていたことであろうし。ちらちら探るような目をむけてこられ。責められるとでも思っているのだろう、閉じた唇をさらに閉め、両こぶしを握りしめ。その反応は、素直な子どもらしくない依怙地な、かまえた気色で。だからこそ、かわいくないとか小なまいきとも思わず、むしろ胸を針で刺されたように痛み。無邪気なうけ応えをできるようなところに今までいなかった、ということであろうから。シラギ山では、粗暴な言動からわらべ仲間から厭われていたらしいが、そうなるにはそうなるだけのわけがあるわけで。苛めつけられたイヌが、やすやすと人になつき、すんなりためらいなく甘えられたりできるものかどうか。売られ奴隷となり都に連れてゆかれ下働きにはいり、おなじ奴隷の仲間たちからカジュと賎しめられ、のけ者にされて。それでも偶々屋敷の庭にあったカミユイの樹をつかい染め糸をするようになり、扱いがよくなり。扱いもそうだが、なによりも染める工程によろこび、やりがいがあって。ニジという、より沿ってくれる存在もあり。そしてその芯となるもの、なにも染めの技術だけでなく、こころを保つものを育みあたえてくれた母と父がいて。いま思えば、まわりの人らは、親戚をふくめあまり芳しくないものが多いようではあったが、深い慈しみをふんだんにあたえてくれたふたりを親にもてたことは、恩寵としか言いようのなく。自分のことしか見えず、見ようとせずに恨みがましくなったり憎んだりしたことがなくもなかったが、間違いだったのだと分かる。間違いというのか、あまりに幼く、狭い了見であり、忘恩であったのだと分かる。吾は恵まれていて、そしてその恵みを、恩を返さねば、いや、還したいと思えて。からかうなど、軽口をたたいたりして緊張をほぐしてやろうとして持ちだした話題ではあったが逆効果になってしまい、そういう作為は無駄、かどうかはともかくとして吾にはうまくできないと改めて自身の不器用さに思いいたり、
「ごめんね。気がついてあげられなくて」
そう声をかけ、肩にそっと手をおいて。気がついてやれなかったこともであるし、手をこまねいて助けてやれなかったことをも含めてのもので。吾のものより小さく細く、シシヅキの薄い肩にふれた瞬間びくっとはじくように震えがおこり、そして徐々に小刻みなゆれが手のひらにつたわってくる。リョウヤは顔を背けて、手のこうを目のあたりをこすりつけ、ハナをすすり。杖の柄に片手をもどし、つられ、またもや目がしらが熱くなってきたリウであったが、不意のまばゆい光に目を細め。ゆらぐ視界に、あわい七色のきらめきの躍りだし。雨のやみ、雲の裂け目から日が射しはじめてきて。尾花も軒先にかかった繊細に編まれたクモの巣もかがよい。
「こら、えらい立派な」
とセヒョが菅笠を傾けて、陽気に声をあげ、
「そら、見てみい」
とふたりを促す。彼の目線がむかう方を見て、リウは息を呑む。暗いスギ林をさまよっていて。寂としてなんの物音もない。さりながら何かが潜み、狙われているような濃厚な気配。闇にも光らぬ目をこらし、爪と牙を立てんとするケモノの群れの息が臭うような。いずかたへ往こうとしているものか、帰ろうとしているものか、判然とせず。ひとりであるような、誰かを連れているような、連れているとしたらその人を助けようとしているのだろうか。状況も場所もなにも分からぬなかに放り出されたような、とらえどころのない不安な心地。それが一転、いずこであるのか深山の見える上空からの空間を切り出したようなところに変わり。水縹、というより、より近いものでいえば後に薄水いろとよばれるようになった色の空を背景に、鴨の羽いろから深藍いろまでとりどりに彩られた深々とした緑の山が裾をひろげ。水戸やの掛け軸のなかにある景色のうかび、その地にようやっと抜けだせたような、あたかも何か突き刺さっていた牙や爪が外れ、かるくなって、その傷痕に清涼な気が流れこみ、流れさるような心地。赤、だいだい、黄、みどり、青、藍、むらさき。天空に描かれた、けざやかな階調をなす彩りの半円。聞こえはせぬが、妙なる楽の音を奏でているように感ぜられもして。たまゆらの間に、心身が明るみ。隠れて見えぬだけで、半円でなく、円を成すいろ鮮やかな光の輪。それは日だけでできるものではなく、水だけでできるものでもなく。日と水によって初めてあらわれるものであり、日と水があれば必ずあらわれるものでもない。アメとツチの微妙な、精妙な組み合わせによって、ときにかなう光彩。虹によらず、なべてアメとツチにより、生まれ、あらわれいずる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます