第106話 ツチの声

 冷たい。清澄な泉のなかに沈みこんでいるのだろうか。痺れ、痛みをこえて感覚の麻痺するまでにひたり。いや、水のなかではなく、無垢なる白の、水の結晶のなかに埋もれてあるのだろうか。塗りこめられるような濃密な吹雪のなかにしゃがみ込んでいるものなのか。あやめも別たぬ濃霧が立ちこめているものか。いろが白であるのか、それすら定かでないひと色に視界を包まれ、かろうじて冷たいと感じるばかりで、他にはなにも見えず聞こえず嗅げず、四肢がはたしてあるものかどうか動かすことのかなわず、そも欠損せずにあるものかもわからずに。冷たい、さりながら寒くはなく。目も開けているのか閉じているものか、開けていたとしても使うことのできぬ状態であるのか、確認することのあたわずに。それでいて怯えたり焦ったりする思いもわかず、ただひたすらこのときに身を、心をゆだねていて。雪であるのか霧であるのか、なにとも掴めぬなかにいて、立っているのか、しゃがんでいるのか、もたれかかっているのか、横たわっているのか、躰のむきのどうなっているかすら分からぬ状況。そも躰がはたしてあるものか、も知れぬわけであり。知覚したいという欲求や、ないのだろうかという探しあてようとする気もさまでなく、冷ややかに静かに揺蕩いながら。

 冷たいということはつまり、少なくもそう感じるだけのものがあるということであろうし、それだけのぬくもりがあるということが可能であろう。おぼろげながらも感じ、思うということは、分け隔てる意思が働いているということであり、他と切りわけた己というものがあるということであり。目覚めたばかりでまだ幽かではあるものの、自我が徐々に形を成しはじめていて。水底に蓄えられていた大気の、うたかたとして浮かみあがってくるが如く生まれ。貝殻の舟にのり、西方から吹く風によって進み、豊かなとりどりの新鮮な花々の待ちうける岸へと受けとめられて。匂やかなな花衣。

 かき混ぜ、かき交ざり、渦のおこり。ひと色の無に近い白に、皺のより、裂け目のでき、濃淡もできはじめてきて、絵筆をおいたように色味もにじみ、ほの現れてきて。徐々に色のまし、かたちの生まれ、うごきのはじまり。はじけ、ひらき。あらわれ出るは、絶え間のない清らな流れ、草葉の擦れあう音、鳥のくり返し啼く音。潤い涼味のあるそよ風が撫ぜてゆき、首筋に心地よい。頸部に疼痛を感じ、ふれると熱をもっていてはっとさせられる。一体、なにがあったのだったか。思いを巡らせているなか、目に映じてくるのは、とりどりな緑の階調、陰翳、せせらぎ、しぶき。しぶきのかかる岩の群れ。ゴマギ、ヤマアジサイ、ハマクサギ、ケンポナシ、フサザクラ、サイカチ、ヌマスギ、カツラ、ヒルギ。そんななかにそびえ立つ、爛漫たる紫の花房の咲きほこるカミユイの大樹。照り映える紫のむれ、いや、日にあたりてではなく、大樹そのものから放たれし光であり、威。圧倒し、すべての動きが、もとより物音も息をひそめたかのように静止して。静謐のとき。さりながらその巨木はカゲロウのように雲散し、それとともに氷解するように流れの再開し。とりどりな樹木の梢をわたる若葉いろの風。木洩れ日。セミの声はなく、遠くからカッコウの声のひびき。せせらぎのふちの、流れのゆるやかなところにはミツガシワのしろい花やコウホネの黄いろの花のほころびて。そのわきで運ばれてゆく木の葉や花弁や虫の死骸や。時折カワセミが燦めきながら突き破りするうちには、アユや微生物やらの息づき。突き破られながらも、みなもは瞬く間に何ごともなかったかのようにふさがり間断なく流れゆく。菫青石いろや翡翠いろに変転しつつ。その飛沫が、飛沫ととらえ得ぬほどの細やかな粒子となってか、風にうるおいと涼味をそえて。たずねいるみやまの奥の里ぞもと吾がすみなれしみやこなりけり。リウは川べりの岩に腰をおろし、目を伏せている自分を見いだし、驚く。驚いたのはこの状況に、ではなく、自身の反応にーー受けとり方に、であり。生々流転するさまを、なんでもないことのように、当たり前のことのように、いや、かるく扱う意識すらなく、どうして見過ごすことができていたものだろうか、と。息づいているもの、かつて息づいていたもの、息づかずにあるもの、息づきながら途絶えること、もろもろ。森羅万象の明滅するなかの塵のひとかけらでしかない自分を、見いだせていなかったのはなにゆえであろうか。分かっているつもりでいたのだけれど、さりとて今なら分かる、ともいいきれず。ただし、分からぬということにようよう心づけた、とは言えるように思えて。その息吹き、気配に耳を澄ませ、聞きとることが、いくらかできるようになったような気のされて。塵のひとかけらでしかない吾にある、万象とつながるそれらに。どうして忘れていたのだろうか。

 うす紫いろに染まった指さきを、首筋にあてていて。手のかたちに青と紫にしるされたその箇所をなぞりゆき。オトギリソウやらヨモギやらスカカズラやらゲンノショウコ等で作ったという生薬を塗布し、手ぬぐいを巻いてあったはずであったが、とれてしまったものだろうか。徴を刻んだ当人が、となりの岩にかけていることに、そのときになって心づき。どうしてここにいるのだろうか。彼はともかく、吾は。一瞬いぶかりつつも、事実いまここにあるわけであるし、望ましいことではあるわけだから、疑問はすぐに霧消し、相手にこうべをむけて。笑みを見せるシュガ。さりながら、心なしか、木洩れ日が肌に葉のいろをのせているが如く、うっすり淋しげな、哀しげな色の差しているような気のされて。むき出しになった頚を見て悔恨に突き上げられ、自身を責めているのだろうか。正気を失っていたから、致し方ないことであったのだし。そうはいっても目の当たりにしていて、そうすっぱり割りきれるものではなかろうもの。なにか当て、隠すものがないかふところや袖のうちを探っていて、ふっと思いつく。べつのことであるのかもしれない。吾のとった言行のせいであろうか。もしそうだとすると、約したとおりあの店に下働きとしていないため、ということになるだろう。かろんじたり、逆らったりしてそうしたわけではなく、やむなくではあったのだけれども。事情を知らなければ、そう思われるのは自然ななりゆきではあろうし。説明しようと目をあげたとき、そこにいたはずのシュガの姿が、ぽっかり穴があいたように失せていて。なにも告げずに去っていってしまったものだろうか。まさか、そんなことをする人とは思えないけれど。さりとていなくなっていることは紛れもない事実であり。冷やりとする。まさか、川に落ちてしまったのか、と岩の上に立つ。ミツガシワやコウホネをなびかせる菫青石いろや翡翠いろに変転する清流には、人の影もかたちもなく。勢いが烈しいとはいえ、仮に落ちたとしてちいさなわらべでもなければまたたく間に流されるとは考えにくいし、落ちたとすれば音で気づけたはずで、なおかつあのシュガが簡単に足をとられるとか、とられたとしてなすすべもなく揉まれ運ばれしてゆくものだろうか。そも落下することからして、あり得ないのではないか。誤ってということはまずなかろうとリウは思ったところで、ざっと厭な影のよぎり。誤って、でないとしたら。自ら、身を投じ。まさか、シュガに限ってそんなことを。・・・・まさか、とそう言いきれるだけのなにを、吾は知っているというのか。川下を凝視する。その片鱗も見つけられないことを祈りながらも。背びれで日を反し泳ぎゆく魚群。それを思わせる光の流れ、渦だけが見え。

 消える先は何もひとつに限ったはなしでなく。木々のほうであるのかもしれぬ。もしかすると、離れる際、どこかへ往くとその用向きとともに告げられていたのかもしれなかったが、聞き落としていた(聞いていなかった)だけなのかもしれないのだ。決して一緒に行こうと誘っておきながら置きざりにしたのではなく、というのはそういうことをするような人ではないはずだから、すこし場を外すつもりで、ということになるのではなかろうか。そうに違いない。そう解するのが一等妥当であるように思え(思いたく)、すこし待てば良いばかりだと、待ちうける姿勢で川に背をむけて。不意に、ぞくりと冷える背筋。飛沫が立ち、その量が多くかかってきたものか。背に手をまわすも、濡れてはいないようで。小首をかしげながらふっと視線をあげ、それは何ごとかを感じたからでもあるらしく、緑蔭の織り成す闇に目がむかう。むいた後で、なにかの潜んでいるらしい気配が意識にのぼり。背筋に感じたのは寒気であったろうか。そこにいるのは、シュガであろうか、と眼をこらす。執拗に、じっと観察されているような気のされてきてならぬ。シュガであれば、そういった真似をするものだろうか。驚かせようとして、か。考えにくいものの、そうあって欲しいとかぶせるように思おうとして。点在する目、目、目。闇に穴をあけていったように、爛々と光り見据えてくる、あまたの眼球。瞬きひとつするでなく。怯える気持がつくり出す、ありもしない幻影なのだろうか。然り、確かに怯えていて。ヤマイヌの群れだろうか。そう思うせいか、うなり声が聞こえてくるような気のされてきて。気のせいかもしれない。そう見え、そう聞こえるように感じられているだけで。そんななか、ケモノ臭が鼻腔をかすめ。今にも姿を現し飛びかかってきそうな殺気が迫ってきていて。逃げるとすれば、一体いずこへ。川の奔流のなかしかないのか。さりながらそれで無事でいられるとも、とても考えられず。生きたまま咬み裂かれるか、呑みこまれ岩に打ちあてられ揉まれもまれして藻屑と化すか。二者択一であるのなら、リウは迷わず後者をとり、変転するみなもに向かい。さりとてやすやすと飛びこむことなどできようはずもなく、息のあがり、足が震えながら貼りついたように岩から動けずにいて。突如として水量が増し、轟音を立てながら烈しく流れはじめる。日が強くなってもきたのか、まばゆい光の奔流と化していて。背後から濃くなりゆくケモノ臭。ままよ、と飛び上がり。飛び上がるより、たまゆらの前、かそけきものではあったが玲瓏たる響きを聞き、白蛇や白狐の映像のよぎり、シュガの姿がはしり。響きは、龍笛の音。シュガのかなでし調べのようで。ために思いきれたのかもしれず。火焔のようであり、濁流でもある、その真中にある白光のうちに身をゆだねて。真っ直ぐにつらぬきゆく白道。信じ、まかせ、ただひたすらまっしぐらにつき進めばよい。引いてくれる手のあって。引いているのだろうか。引きも引かれもせずに、つないでいるのか。ともに進んでゆく。どこかへいなくなったかと思ったのは勘違いで、ずっとずっと寄りそってくれていたのか。・・・・

 あたたかい。その場所にたどり着けたのだろうか。とりどりに耀く蓮の花の咲きみだれる広大な池。金、銀、瑠璃、水晶、アコヤガイの貝殻の内側、赤い真珠、翠玉らに彩られた国へと。熱いくらいの乾いた手のひらに右手を包まれていて。光あふれるなか、そっと目を開いてゆく。無垢なる白にかがよう世界。ツキ、ヒ、ホシと唱えるといわれるサンコウチョウの鳴き声がし、沈香の香のただようなかに。まつげ越しに見え、感ぜられたのは、うつつの世であるらしいということであり。燦々と日が射し込み、一面光沢のある白塗りの壁が反射して光輝に充ちた一室に横たわっていて。見慣れぬ室内。右手をつかんでいるのは厚く大きな手で、躰もシュガよりも厚みがあり大きいおのこ。付き添ってくれていたのはセヒョであり。意識をとりもどしたことを喜んでいてくれて。一体、なにがあったのか。ここはどこなのか。問おうと口を開こうとしたとき、記憶が打ちよせてきて、ひたひたとよみがえる。この人に負ぶわれ、コヅキの屋敷に訪れ。そうか、ここはコヅキの屋敷内か。そして、その老あるじから侮辱され、自分のことだけならいざ知らずセヒョのことにまでおよんだため抑えが効かなくなり口ごたえをして・・・・。その先の憶えがなく、もしかすると急激に大量に頭に血がのぼってしまい、前後不覚になってしまったものだろうか。激昂していた覚えはありありと残ってあったため、あり得る話であると思え。羞恥心が突き上げてきて、左手のほうに顔をそむけると庭が見え。うす水、紫、しろ、赤、うす紅、複色。宙に活けたように咲く、シノノメ草の花のあまた揺れ。してみると、あのまま睡りにおちてしまったものか。トンボのゆき交い、セミの音はまだ起きていない。恥ずかしさが強まり居たたまれなくなりながらも、セヒョはずっと付き添ってくれていたのだろうと思いのいたり。ぐじぐじ卑小な自分に拘泥し責めている場合ではないだろう。セヒョにこうべを向け、

「ありがとう。しんどい目にあわせてしまって・・・・」

 と礼を言い、謝ろうとすると、日をはじく鼻筋や頬、炯々たる巨きな双眸を柔和にほころばせかるく猪首を左右にふって見せられ、なんでもないことやと返され。ほんとうにあたたかく、強い人なのだなと、初めて見るように、いや、リウがまともに彼というものに意識をあてたのは初めてであったろう。生まれもった強さもあるとして、さらに強くなっていったのだろう、この人は。自分自身で成し遂げ。膂力、法力のみならず、それによって慈しむ気持を損なわず、成長させ。内心感嘆しながらも、そうはいっても当人にどう伝えたらよいものかこと葉が見つからず、伝えたところでどうなるものでもないとも思え。さりながら、声によるものが唯一の伝達手段でもないわけで。

「なにごともなく気をとりもどせたようで、なによりやな」

 セヒョはそう言うと、玻璃の精美なうつわをあつかうように、つかんだリウの右手をそっとその脇におろし置く。ひどい昏睡状態であったのだろうか、とリウは疑念をもち。具体的になにがあってどうなったのか、問おうと口を開こうとしたとき、縁側から衣ずれと跫音。

「お目ざめにならはったようですよ」

 キライの声がし、ほうか、とコヅキの鷹揚な返辞がつづき。気配を感じ、だれかわかった瞬間、微かに顔をしかめてしまったらしいことを、セヒョの表情からリウは読みとり。セヒョから、からかうような励ますような面つきをされ、問題ないとつぶやくように言われ。自分が付いているから問題ないという謂なのか、それともまた別のことなのか判じられなかったけれども、気が平らかになり。謝るべきだろうか。悪態をつかれはしたものの、これから世話になるかどうかはともかくとして、今既に厄介はたしかにかけているわけではあるし、相手は年長者であるわけで。無礼といえば無礼であったことは間違いないことで。謝るべきだろうと判断する。セヒョに頼んで上半身をおこさせてもらい、めまいがしながらも何とか堪え、小柄な翁を待ちうけて。キライの姿が現れ、つづいて照りのあるコヅキの禿頭が見え、室内に腰をおろしたところで、

「すいませんでした。失礼なことを・・・・」

 と目を伏せる。頭を下げる場面ではあるものの、そうしたらそのまま前に倒れこんでしまいそうであったため、やむなく。

「いやぁ、こっちもな、いきなりあない言うてもうてなァ。堪忍えェ」

 思いのほか怒気のふくまれていない、険のない明るい声で、にじり寄ってくる気色。意想外で驚き、目をあげるとつるりとヒョウタンみたいな顔には笑みがあり。心なしか、おもねるような、恐れるような色が淡くおびているようでもあって。

「試すつもりではなかったんやけどなぁ、まがうことなくわてらの血統。マリヤの子やってわかったしィ。それに・・・・」

 と、こと葉を濁し。さりながら、なにを言おうとしたのかリウはさのみ気にならず、叱責を浴びせられたり冷たく皮肉られたりしなかったことでほっと胸をなでおろしていて。謝ったことで痞えもとれていたことでもあるし。朝日のまんべんなく射し込む清浄なる室内にて、コヅキは咳払いをひとつすると、

「お詫びでもないけどなぁ。おなぐさみに、むかし話ひとくさり聞かせてやりまひょかぁ」

 と語りはじめる。なにものかに耳をかたむけ、かたむけ聞きとるような素振りをみせて。


 アメとツチが割れ別たれたとき、アメから落ちしものがツチに受けとめられ、そこからいろいろなものが生まれた。アメから出たものにより、ありとあらゆるものは生まれた。そしてにぎわった。ツチには高低があり、一等高いところにいた奇妙な生きものが、テンを敬い尊ぶことをはじめ、それを低いところにいるおなじ奇妙な生きものにも伝えて広まるようになった。その奇妙な生きものは、ヒトというものだった。ヒトは道具をつくり出したりアメのものであるヒをあつかったりと器用ではあったが、力よわく、かたい皮もなく、大きな生きものにはかなわず餌食になっていた。それは自然のあり方ではあったが、ヒトは器用であったせいであろうか、それを不快だとか恐怖とおもう意識をもつようになり、そうされまいとした。そのために団結することを思いつき、アメを尊ぶことを覚えた。尊ぶとは、つまりアメを道具とすることだった。そしてヒトは大きな生きものを狩り、ちいさな生きものも狩り、ツチを自らのみ生きやすいものにしていった。あたかもヒトだけのものであるかのようにした。それが当たり前となり、高いところにいたヒトは、われこそがアメの子であると言いはじめ、みなも認め、そうなった。一緒になったほうが便利であったからだった。さりながら、アメのみであらゆるものは生まれ育ちしたものだろうか。疑問をもつものはだれもなかった。そんななか、病がはやり、地ゆれ、大水あふれて、ようやっとそうではないのではないか、と疑問をもつようになった。

 そうおもうようになったのは、そうおもえるだけの賢さを得られたのではなく、ツチの声を聞くヒトがあらわれ、そのヒトが言いだしたからだった。こうなったのは、ヒトがほかの生きものをむやみやたらにあやめ、むさぼり、ツチをないがしろにしたからだ、と言った。はじめは笑ってだれも聞くものはなかったが、聞かざるを得なくなったのだった。そしてアメを尊ぶものと、ツチの声を聞くものは、おなじく担ぎあげられるようになり、天災もおさまった。そして年月はすぎてゆくわけだったが、ある代のツチの声を聞くものはいった。

ーーアメとツチが別たれたように、いずれわれらも別たれることとなろう。そしてツチが、またしてもないがしろにされるようになるであろう。そもそもはヒトがヒトやほかのものを治めようとすることが、ただしいことであるものかどうか。ツチをないがしろにしたあかつきには、ツチのよりよく声を聞き、その力をはなつタマをもつヒトがあらわれ、同時にアメのタマをもつヒトもあらわれる。そしてアメだけを敬うところは崩れさるであろう。そしてツチにかえるのだ。

 それは預言であった。さりながら、だれもまともにとりあわず、アメの子というそばにいたヒトもそうだった。それゆえに、預言どおり、ツチの声を聞くものを追いだし、アメの子というものなかでも分裂し、追いだすこととなった。そして預言が成就することになることを、アメの子という人が勘づくつくこととなった。賢くなったからではなかった。賢くなったのであれば、追いだしたヒトらを呼びもどし、なかなおりしたはずだった。器用であったから、そのシルシをつかむすべを作りだしていたのだった。

 ヒトはいつまでたっても賢くなれず、ただただ道具をつくり出してゆくだけだ。賢さとは道具をつくり出すためにあるものだと、おもいちがいしているからだ、とツチの声を聞くものは、聞きとっていた。

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