第105話 雪にのぼる
可憐なアヤメの花びらが、心なしかかすかに震えているように、リウの目には映っていて。青スダレの静かに止まり、香炉の煙のたなびかずに昇りゆき。そばにいて、蒲団だとか寝間着を換えてくれ、手ぬぐいで額や頸すじを拭ってくれたり、吸い呑みの中身をかえたりかいがいしく世話をしてくれていたスケはいるものの、大きなうごきが止んだ後のことであって。枕元にスケが坐し、横になった掛け軸の前の花にとまるリウの目線。花のいろを鱗粉の如く落とし震えているのものは、はたして花弁そのものなのだろうか、もしかすると吾の内のどこかで起こりしものであるのだろうか。いずかたよりか、降りきたるものであるか。こぼれ落ちるかそけき音まで聞こえてくるような心地のされて。うっすらと、粉雪のようにさらさらと。
雪のふる音などするわけのない。たいていの人はそう思うものなのかもしれない。さりながら、年のおよそ半分ほどはちらつき、降り、ふぶき、積もり、覆いつくされする土地に生まれ育ったせいであろうか、閉ざされた家屋のうちで囲炉裏の火にあたっているなかでも、リウは聞きとれたものだった。聞きとる、というより、感じとる、といった方が相応しいのか。降りくるときにおこる無音。ざわめきを吸いこみ降りてゆく気配。紗のように広がり、おおい、遮断し。時にとよもす寒雷。降りしきるそれは、闇の底を白く光らせて。日なかでは白金にかがよう。白光の地でふり仰ぎ、降りしきる雪を眺めるのをいとけないリウは好んだものであった。目や口にはいりはするものの、ひらひらとあまた向かいくるやわらかく冷たくかろきものをじっと見つめていると、うごいているのは白いそれらであるのではなく、自分であるような気のされてきて。降られているのではなく、自身が浮かびあがり昇っているような感覚におちいり。めまいのするような、足もとの覚束なくなる感じになるが、それはそうだろうと思う。足は地からはなれ、身が宙にあり、上昇してゆくわけなのだから。おぼつかなさ、不安定さに関わらず、いや、それを含めての心楽しい行為であったろうか。重い肉体という囚われを脱ぎ捨て、まっさらな、かろやかに飛びゆく心地。眉や髪を白くして帰ったとき、ときに迎えにこられたとき、笠をかぶっているのにどうしてこんなに雪をつけてくるのかと呆れられ、すぐにとけ出し水になったそれを母や父に拭われたものだったが、ことによるとその行為が楽しみでしていた部分も少なからずあったのかもしれぬ。あたたかな手のぬくもり、笑い声。嫌ではないのだけれど、わざと嫌がるふりをして逃れようとし、逃がすまいと抱きすくめられたりしたり。たわいもない戯れ。そういったことごとが、静かに降りつもっていて、とけ去ることのなく、ほの明るく被って護り導いてくれてもいたらしいことに、ふと心づく。花弁のふるえ、そこからうすくこぼれ落ちてゆく燦めきは、ふり積もった雪が風に舞いあがり、耀きちるようなもので、内面にある吾のあたえられ(慈しみ、むつみ)し、つもりししたものの流れであるのかもしれぬ、と思え。睡りしそばには必ず母か父がいて。その時分に半ばかえったような心地で寝返りをうち、そのおりに戻ったのだろうか、と刹那思い。そこに父がいて、ゆるやかにウチワで煽いでくれている。それでありながら今現時点の自分や自分のおかれた状況を見失わずにいる部分も確かにあったため、頬のほころび懐かしみながらも、感じていた訝りや違和がつのりゆき。父はこのように細く、色がしろかったろうか。暫時思案し、なにかが砕けたように、ぶれていた焦点があわさるように、目の前の人が認識のかなって。そこにいたのはスケであり。スケがいたことは意想外なことでないはずであったのだが。先ほどから世話、もしくは介抱をしてくれていて、そばにいてくれているのは分かっていたわけであるし、外見で似たところのなく、それも白と黒くらいの違いであり、それは外見のみならず雰囲気にもいえるわけで。誤りようのないはずの二人であり、そういう反応をしてしまった自分自身に驚いていたものだったが、半睡状態であったから夢うつつで寝ぼけた状態でもあり、とり違えてしまったものだろうと思われもして。そう落としどころを定めるまえには既に、口では父に対する呼びかけをしてしまっていた後であり。ただし、幸いといえるのかどうか、声に出す直前には気がつくことのかなっていて、うごきだけで止めることのあたい。そうはいっても手を伸ばそうと右手を上げかけてもいたし、くちびるの動きや表情から、察しのよい者であれば読めとれもしよう。はたして読まれたものかどうか、リウは探ろうというだけの余裕、図太さとも言えるか、神経の太さのなくて羞じらって目を伏せ、あげた手を襟もとにおき、あたかもそこを直すためにしたことであるかのように繕い、仰向けに姿勢をかえて。明らかに不自然なしぐさではあったものの、なにも言うでなく、うっすり微笑しながら風をおくりつづけているスケ。注意深いものであれば、その壮年の痩身のほそおもての微笑に、幽かに苦みが漂っていたことに気がついたかもしれない。リウは鼻梁を梁のほうにむけ、ただひたらすら自身に舌打ちしたい気分でいて。こんな吾に父親あつかいされても、心外にしか思われないことだろうに、なにをとち狂って。スケには伴侶や、子はあるのだろうかとふと思い、そぞろに気になりはしたものの、訊きづらく、訊くにしても出しぬけにではなく話しの流れでするものであろうし。なにゆえ気になったのか、リウは自己の内面を追及してゆくことはなかったけれども、スケが母を語るようすがふと脳裏をかすめたせいであったかららしく。そしてそのかすめた、母を語った彼のようすには、リウにむけるまなざしをも含まれるものであって、いや、主となるものがそれであるくらいであったのだったが、「ようす」を成すものとして分けて捉えることのできずにいて。もっともそれは冷静に分析する余裕がなかったのみならず、さまで注意をむけられることなどないだろうという自己評価の低さもあってのことではあったのだが。
何はともあれリウは急いでそこから意識をはがして、べつに気をむけようと思い巡らし。その動揺はあくまでもリウの内の出来事でしかなかったのだけれども、あたかもスケと対話していて気まずい話になってしまったような内心慌てぶりで、それはもしかするとどこかでスケに察せられていると感じとる部分があってのことなのかもしれぬ。そして誤魔化したいという心理が働いていた、のかもしれない。そうだ、とリウは思いつけたことのひとつあり。掛け軸の絵を誰が描いたのか、どういった人の手によるものかという、やくたいもない疑問をもったことを思い出して、問うことにして。ほっと胸をなで下ろしながら。
「たぶん、あの方やないかと思う人はありますけど、はっきりしたことは。おトモさまなら分かる思いますけどなぁ」
気まぐれのような不意の、かつ、ぎこちない問いに、スケはいささかも面の色をかえるでなく、ウチワの竹の柄にそえた右手をゆっくりと左右にふりつづけ。知りたいことは知りたいものの、ともかくも訝るでなくすんなり引きとられたように見えたことで目的ははたせたわけで満足し、そうなんですねと残念でなく応え。果たしてそれが、リウの狙い通りの効果をもたらしたものなのかどうか。偽ることに慣れていない身でありながら。・・・・
「来たはりましたし、聞いてみまひょか」
スケからそう言われ、はっとしてこうべを上げようとしたときに、楊梅いろの風がおとずれ、陽炎が凝固し形を成すような具合に、出しぬけに現るといった具合にそばに腰を下ろしていたおトモの姿。高齢のわりには身のこなし、足どりが早いということも幾分あろうけれど、リウがぼんやりしていて心の準備ができていなかったことが、ふいに音もなく煙のように現れたかのように感ぜられたその主となる理由となろう。反射的に起き上がろうとして、
「かまへん、かまへん、寝とったらええがな。ほんで、塩梅はなんぼかええんかな」
そう制され、持ち上げ浮かせた背を落とし。ええ、と応えたとき、
「この絵はどなたの手によるものか、お聞かせ願えますか。リウさんが知りたい言わはってて」
スケが控え目な調子でおトモに問う。リウが先ほど自分でもち出したことで、聞いてみようかと言われていたばかりでそうなるのが自然であったのだが、かるい気持で口にしたことであり予想していなかったためか少し面喰らうも、おトモの眼がスケからこちらへ転ぜられて、同意のうなづきをして見せて。
「これなぁ・・・・」
ちらっと掛け軸を見てから、うすく嘆息し、
「分かっていうてる、わけやないみたいやけどなぁ。なんかしら感じとってるんかもしれんなぁ」
期待とも諦めともつかぬ、喜びとも悲しみともつかぬ、それでいてそれらがないわけではなく、全てが均等にない交ぜになったような複雑な面もちをした媼は、じっとリウに眼をあて。睨むでもなく、探るでもなく、無に近いものになってあったそれが、さもありなんと諾ういろとなり拡がり。意味深長なおトモのかお色の理由の分からずに、リウは戸惑いを覚えていると、
「・・・・コヅキという者の筆でなぁ、その男のもとに身を移すよう言いにきたところやったもんやさかいなぁ」
その場しのぎに口にしたものが、偶々であろうが、端なくも先にあるであろうことに触れていた、ということか。まぐれ当たりというものにしかすぎないだろうに、どうも買いかぶられているようだと感じなくもなく。この家柄の血筋であるから、ただ者であるわけがない、ということか。ただ者も、ただ者。もしかしたらただ者以下であるのかもしれないのに。微苦笑が浮かびあがりそうになり、それは自嘲ではあるものの、小バカにしていると捉えられそうでもあり、てのひらで口を被いかるく咳をしてそれを散らそうとしてから、
「もちろんそれはかまわないですし、ほんとうであればすぐ出ていかなければならないところだとおもいますが・・・・」
水戸や、ひいては天授の継承にはならぬと答えたからであり、そうはいっても躰がままならずにいて、その立場では聞きづらいことではあったが、わけを聞いておきたくもあって暗に問うと、
「ようさん、人来る予定なっててな・・・・」
おトモは笑顔で話しだした口をふいにつぐみ、一瞬間思案顔してから笑みを消し、
「ごまかしてもしゃあないし、ほんまのこと言うわ。なんやらこの家にはいろうとしてきているもんが、ちょろちょろ騒がしゅうてなぁ」
「ちょろちょろ。・・・・っ。吾のせいですか。それなら」
出てゆくべきですね、と言おうとし、身動きしようとしたとき、
「留まらぬにせよ、継がぬにしろこの家の正統なる血統や。そしてわての甥やで。それがなんやらけったいなもんに害なされようとしてるときに、ほなとばっちり喰ったらかな(わ)んからて、ほかしたりできるもんかいな」
そのような人でなしだと言いたいのか、という含みで、叱責にちかい口調で言われ、
「いまの塩梅ようないんも、どうもなんやらつけられたかららしいしな。敷居またいだ途端はじけたようやし、はじけたからカラダに支障おこさせたようやし」
呪術的ななにか、ということだろうか。それはやはり、血統に関わるものであろうか。リウは他に考えようのなく、それ以上思考を進めることはなかったものの、もし仮に狙われていることを意味するとすれば、それはすなわち天授を継承する資格をもつ者であるとリウが特定されたことになるであろう。そういう者が探りをいれようとしてか、危害を加えようとしてか、関わろうとする存在は自然絞られてもくるはずで。そして無論おトモはあたりがついていて、ために安全な場所へ移動させようとしている、といったところになるのだろう。
「わてらにまかせとったらええわ」
リウはわらべが着るような単衣ーー洗いざらしの粗末でさえある布のーーに着がえさせられ、裏口から虚無僧すがたのセヒョにかつがれて出て、人通りのない裏やぶに待機してあった荷車に乗せられ、茣蓙をかけられ荷物であるように見せかけられ。荷車の人足のほかは、セヒョがそれとなく後からついてゆくだけ、といった徹底ぶり。このままアダシノに捨てられるのではないかと、先ゆきの見えなさに不安がよぎらなくもなかったーーそこには当然、以前さらわれたときの思いもあったーーものの、リウは流れにただ身をまかせていて。コヅキという人は、どういった人であるのだろうか。あの絵からうけた印象により、間違いなくそこに向かっているとすれば、楽しみで気の迷いが幾分やわらぐようであり。セヒョがついてきてくれてもあるわけだから安心だろう。荷台に乗せられたおりかいま見た、道の辺のちいさな花が目にしみて、塞がれた視界のうちににじみ出し、ちらちらとふるえ。ツユクサ。ツユクサの花のいろ。それは布を染めるときに下絵でつかう色素であり、それで描いた線は、彩色をおえ川の流れになびかせると抜けおち水をうっすら染めて。きっと大丈夫。胸もとをつかみ、水のながれを思い描いて。
人の繁くゆき来する道をゆくことはすくなく、そのだいたいが裏通りであったらしく。アブラゼミらの鳴き声が降りかかるのはかわりのなかったものの道中人声がすくないことの多くて、それは人声の多寡のみならず荷台の揺れ具合でもよく分かり。車輪の立てる音も異なり、震動でさまで強くはなかったが下にある板に打ちつけら続ける体感もあって。被せられた茣蓙は日に炙られていて息苦しくもあり、ちょっとした拷問のようなものであって、身をまかせるだとか自然体でくつろげるはずもなく、清廉なものに思いめぐらして気を紛らわせたりする余裕もなくなっていて、ぎゅっと目をつむり手を握り歯を喰いしばって堪えていたものだったが、そんななか、ふっと空気がかわったことを感じ。森林へ足を踏みいれた感覚にちかいだろうか。相変わらず炙られつづけ、熱風や突き上げやアブラゼミと車輪の轟音に攻められつつも、ふっと息のつける心地となり。
ごっちゃなわらす、玉もてではる
ひんのわらすはくれえ玉
すいのわらすはしれえ玉
玉こばはこぶはおっがねぇ
おっがねぇかみくだきもするニジの神
はこぶはアメとツチとのゆうとこさ
かっちゃのリルのふところさ
ひとつにすべってツチならす
サッコラサー
サッコラサー
なにゆえか母の歌っていた子守唄が身内によみがえり、あふれ、流れてだしてきて。うまく掴むことができないでいるが、どうやらその唄には謎かけがしてあるらしいと感ぜられてくる。表面的は北の地の方言で泥を重ねるように塗りたくられてはいたが、乾いて土壁になった奥に、秘められたものがある感じ。なぜそのようなことを思うのだろうか。どうして空気がかわったように感ぜられるのだろうか。どこに来たのだろうか。それらはつながりのあるものなのだろうか。ぼんやり思うばかりで、ただほっとしているなか、荷車のゆるやかに停まり。
茣蓙を外され、門戸の内にはいっていることを知る。遅れてはいってきたセヒョに背負われているときに、麻の質素な身なりをした中年男がにこやかに現れ、挨拶をして、人足に金子をわたし礼を述べて帰らせて。
「お待ちしておりました」
短軀でがに股の、腰の低く当たりのやわらかな人で、この人がコヅキだろうか。そうであって欲しいという思いがあってのことだが、そうでないことはすぐに察することはできていて。もの言い、もの腰、みなりから主ではなかろうことは判断がつくが、それのみならず、コヅキとは、おトモの兄であるとおトモから聞かされていたものだから。
「この暑いなかえらいしんどかったでしょう。塩梅よろしない、受けたまわってますしなぁ。あるじはすぐにお目にかかることのかないますが、ただまぁ・・・・」
戸を開けたてし室内を案内しながら中年男ーーキライと名乗るーーは話していて、途中低く笑い声をもらしてから、こっそり声をひそめ、
「なかなか驚くようなとこのあるかもしれませんけど、中身はさっぱりしたええお人やおもいますわぁ」
主人のことを言っているようだ。通っている縁側から、節や葉のけざやかな翠の竹林。石灯籠が点在する庭はよく手がいれられていることの分かる整いで、日光はかわらず強かったが、しんと静まって涼しげな景観を成して。けわしいセミの音が、心なしかそう激しく聞こえなくなっているように感ぜられ。石灯籠のひとつの上にとまっていたトンボが浮いて離れ、また着地し。薄くかるく、微妙に虹の光沢のある翅。
「おいでになりました」
足を止めたキライが葦戸の前で声をかけると、
「おはいりッ」
かん高い声のあがり。しわがれのある老人のものと判るものではあったが。キライが戸を引き、セヒョに背負われたまま室内にはいり。そこに坐していた者をみて、リウはヒョウタンを連想す。小柄で髪の失せ、撫で肩で、白い照りのある肌もあって。輪郭は優しげであったが、眉間に深い皺の刻まれて胡散臭いものを見るようにむけてくる目は険しい。やれやれといった風におおきくため息をつき、
「まったく、厄介なもん押しつけてきてからに」
顔をしかめ、舌打ちさえしかねない勢いで、リウは怯みそうになるも触れているセヒョの背がこわばるのを感じ。そこに怒気があることを読みとり、なんとか噴出をとどめねばとはらはらし、案出しようとしたとき、
「おはなしの通り、リウさまは体調が優れないようで、そんななかいらしたわけですから、下がらせてやってかましまへんやろか」
キライがセヒョの前に割りいるようにして、屈託なく言い。
「そやな」
そうするしか致し方なかろう、とでも言わんばかりの調子でコヅキが素っ気なく返し、しっしっと払うように手を振るしぐさをし。
「ほな」
キライは頭を下げ、今にもむかってゆきそうな勢いのセヒョの前に立ちはだかるように向きあい、目で制し、腕をつかんで連れてゆこうとし。キライはセヒョの腹あたりくらいしか上背はなかったものの、膂力はあるらしくがっちりセヒョを抑えていて。そうはいっても、セヒョが本気を出せば簡単に振りはらえそうであり、猿ぐつわをはめられているわけでもないから悪態ならつけるわけながら無言ではいて、自制している気色はあって。
「あの・・・・」
思いきってリウは口を開く。か細い声であったが、うすい眉をひそめた翁の目のあがり。視線の合い、喉がつまるような思いではあるものの、絞りだすようにして、
「おトモさまから、行ったらどうかと言われたので来たまでです。迷惑でいてもらいたくないのであれば、そうおっしゃって下さい。出てゆきますから。吾だけならともかく、そうする義理もないのにこうして連れてきてくれた人もいて、そういう対応されるようであれば、このセヒョさんに申しわけないですし」
怒りに強ばっていた背から、驚きがつたわってきて。むけてきて顔を無理に笑みにし、
「オレはええからな」
と打ってかわって宥めるように言うのに首を左右に振ってみせ、動悸がしめまいがしながらも、すでに口にしてしまった後であるしという腹をくくる思いや、勢いづき、その勢いに流された気味もあり、
「よくない。なんで吾のために、そういう。・・・・吾が耐えられないんで。出てゆけというのなら、そう言うてくださいよ。出てゆきますから」
体調のせいで平静を保てなかったということもありそうであったし、今まで溜まりに溜まっていたものが一気に堰を切って出た、という面もあったものか。荒げるというほどの力強い発声にはならなかったものの。リウは真空状態にとらえられたかのように何も考えたり思ったりできなくなっていて、ただひたすら内なる巨大な流れを感じている。とどろき起こる膨大な量の。意識が飛び、前後不覚に陥る。陥るたまゆらの間に、雷鳴のとよもし、地鳴りのおこり、突風の渦巻き、竹がしなり家屋がきしむのを感じ、あがる叫び声を見、聞きす。コヅキが飛びあがるように立ちあがり、真剣なまなざしをむけてきて印を結び、なにかを口ずさみ。火が消えるように、闇にのまれ。ただ、闇。
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