第4話

 衣替えをするかのように、山の木々は紅や黄色と色鮮やかに葉を変えた。昼間にもとのざわめきが戻ると、賑やかさは夜へと移る。裾野へと広がる原っぱには鈴虫の輪唱が響き、チエさんたちの庭もまた、その例外ではなかった。

 チエさんは、月の出る夜には決まって縁側で、鈴虫の歌に耳を傾けていた。仰向けに横たわるチエさんは、月や照らされた庭、桜の木を眺めながら物思いに耽り、いつの間にか眠りについては、コウイチさんに抱えられて布団へと運ばれていた。秋のはじめから少し遠くにある学校に通い始めたチエさんは、帰ってくるのが夕方すぎになることが多くなった。庭で遊ぶ時間は減ってしまったけれど、家の中からは、その日あったことを嬉しそうに話すチエさんの声がよく聞こえてきて、私にまた新しい楽しみを与えてくれた。

 何日かに一度思い出したように庭に出て、桜の木に耳をくっつけるチエさんの行動は、相変わらずだった。私もたまにお供して、鈴虫の輪唱に負けてしまいそうなその細い音を聞いた。

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