第371話

 この白塊は空間を捻じ曲げて自分に攻撃が当たらないよう防御している。だから懐まで飛び込めば瓦礫を僕も防げるんじゃないかと思ったりもしたけど、実際にそうはならなかった。

 つまり周囲空間全体を歪めているんじゃなくて、自分に当たりそうな敵なり物なり一つ一つに個別で仕掛けているってことだ。

 それは攻撃の手数を増やせばこいつの空間防御を機能不全にできるっていう読みが当たっていたという裏付けにもなった。

 

 まあ……だからなんだというと。

 

 「――(ぐう)」

 「は、……ははっ」

 

 白塊にも瓦礫が当たり始めていた。

 一応は致命傷になりそうな大きなものくらいは避けていた僕と違って、基本的には胴体の動きは鈍い――腕の振りは速いけど――白塊はごつんどがんとその頭に瓦礫がぶつかっている。

 つまり僕からの攻撃で消耗したこいつは、瓦礫を避けるだけの防御能力も失いつつあるということだ。

 

 「――(なぜだ?)」

 「ん?」

 

 段々と反撃の腕も鈍くなり、ただ殴られるままになりつつあった白塊が不意に疑問を口にした。いや、まあ口なんてないし、そういう思念を理解できただけなんだけど、だからこそ心底疑問に感じているのだということが理解できた。

 

 「――――(我は崩落程度では死なぬ。だがお前は違うだろう)」

 

 なるほど、こいつはさっきも自分で言っていた通りに、瓦礫に埋もれたくらいでは死なないんだろう。だから僕がこうして殴っている訳だけど、その僕は逃げなくてもいいのか、と言いたいみたいだ。

 

 「お前を殴るのに飽きたら、……はぁ、ふぅ、どっかに、行ってやる……よッ!」

 

 手を止めることはなく、魔力で光る拳と一緒に言葉を叩きつけた。ずっと痛む腹や、骨が軋む手足はもちろん、疲労も頂点に達しているから動けていることが自分でも不思議なくらいだ。

 

 「――(世界の誤り、正真正銘の狂人めが)」

 「それはどうも。なにせ僕は悪役貴族だからね!」

 

 かなり弱々しくなった思念を感じて、両拳に最後の力を込める。消耗しすぎて足を上げて蹴る体力も残っていないけど、殴るだけならまだできる。

 

 「――――――」

 「お、らァ! はぁ、ふぅ……あ゛ぁ! 死ね! 潰れろ! そんで消えろォ!」

 

 もはや広い部屋が埋まりきるくらいに瓦礫が積もった中で、最後に残ったこの狭い空間までもが埋もれてしまうその最後の瞬間まで、僕は拳を固めて白塊へと叩き込み続けていた。

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