第370話
「お、らァ! そらァ!」
降り注ぐ瓦礫に空間防御の能力を割いた白塊の化け物は、僕の攻撃が当たるようになっている。
とはいえ、それでも逸らそうとしてくる力というか影響みたいなのは感じるから、気を抜けば空を殴り抜きそうになる。
「――! ――――!」
それに白塊も開き直ったように反撃してきている。棒立ちで腕を振り回しているだけなのに、その重い腕は的確に僕の体を壊しにかかってくる。
攻撃にまで能力をまわす余力は完全になくなっているのか、空間を不意に飛び越えるような殴り方はしてこない。つまりただ速いだけの攻撃だ。なのにその白い靄で構成された腕をかわせないのは、こちらの状態を表しているともいえる。
だけどこの期に及んでかわすとか、駆け引きとか、そんなのはない。自分の身すら顧みずに、いいから殴らせろと仕掛けたのはこっちなんだから。
「つぅ……、うぉぉおおらァ!」
頭上に展開した風魔法が弱まりつつあるのか、あるいは部屋の崩落が激しくなっているのか、どちらかはわからないけど徐々に頭に瓦礫が当たるようになってきた。
それでもまだ白塊の化け物には瓦礫は当たっていないから、空間の防御能力はそれだけ高いってことだ。
そのことはムカつくけど……、まあ別に崩落で心中に巻き込もうとした訳でもないしね。今実際に殴れるようになっているんだから、狙い通りに違いない。
殴り、殴られ、瓦礫に当たり……、そしてまた殴る。
骨が砕け、内臓は悲鳴を上げ、左腕や頭からの流血が辺りに飛び散る。
「――(ここが崩れた程度で我は死なぬ)」
「だろう、なっ! でも知るかァ!」
僕の放った渾身の四文字魔法で焼け焦げてなお、そこから復活してきたのがこの白塊の化け物だ。瓦礫に埋もれたくらいで死ぬとは思えない。
じゃあ殴れば仕留められるのかというと、いくら魔力で強化している身体能力だからといって無理だと予想できる。
でも僕は殴る。殴り続ける。たまに蹴って、そしてまた殴る。
それはいくら殴り返されてもやめる気はない。
「――(なぜこんなにっ)」
「ぜぇ、効いてる……はぁ……じゃない、か」
部屋の半分以上が既に瓦礫で埋まった中で、僕はもう意識を保てているのが自分でも不思議なくらいの有様だった。
表情どころかそもそも顔のない白い人型のこの化け物だけど、なぜか傷を負わせているということが実感できた。ただ内に魔力を流しているだけでは足りないし、かといって魔法をまとわせる力ももうないからなけなしの魔力を素のままでまとわせているこの両拳が、さっきから何やら光っているからかもしれない。
ここにきて、これまでにない魔法体術の領域に至ったような気もするけど……まあ、そういうのはまた後でいいか。
今は、反撃が鈍くなってきたこの白塊を心行くまで殴り続けるこの感触を堪能したい。
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