第369話
この短い時間の間に、ばらばらと降っていた天井の瓦礫はその数と勢いを増し、壁もひびが拡がるだけじゃなくて崩れ始めている。この部屋が……というかパラディファミリーの地下本拠地の一画を巻き込んで崩壊するのも時間の問題といった感じだ。
そして白塊の化け物へと降っている瓦礫は、やっぱり空間を歪められて当たらないけど、その距離というのは随分近いところを通るようになっているのを見逃していない。
さっきと同じだ。
こいつの空間能力は厄介極まりないものだけど、その行使には明らかに限度がある。限度に近いところまで既に負荷をかけている状態だからこそ――
「こっからは殴り合いをしようかァ!」
――距離を詰めたところで振るった右の拳打が、狙い通りに白塊の頭の部分を打った。
「――! ――?」
声にならない――元からこいつは言葉を話していた訳ではないけど――音を発して白塊は戸惑っている。
「おらッ、そらァ!」
さらに左、右と続けて拳を白塊の腹の辺りに叩き込んだ。
「ん? あぁ、そうだった」
左の拳打を叩きつけた衝撃で左腕からは血が飛び散り、それでさっき剣で貫かれたことを思い出したけど、まだ動くなら今はそれでいい。
この白塊の表面はざらっとした感じで、中身が詰まっているような重さがあった。ちょうど砂袋を殴っているような感触かもしれない。
それにこいつには顔がないから、当然表情も見えなくてダメージがあるのかないのかわからない。
「――――(どうして、このような自滅的なことができる?)」
相変わらずの上から目線で思念を伝えながら、白塊も殴り返してくる。腕もやっぱり中身が詰まった砂袋みたいな感じだから、殴られた腹には大きな衝撃があった。
……的確にこっちの弱ってる部分を狙うじゃないか?
もう今は至近距離で、しかもこちらも殴りかかっているから、白塊の腕をかわしたり防いだりすることもできない。だけどそれは向こうも同じで、つまりはここからはどちらかが倒れるまでの潰し合いをするということだ。
「ぜぇ……ひゅぅ……、は、ははは……」
殴り、蹴り続けながら、漏れる呼吸は我ながら情けないものになりつつある。それに気管か肺もやられたのか、うまく息を吸い込めない。
だけど、この状態になったことを考えると、こみあげてくる笑いをこらえることもできなかった。
ようやく攻撃が届いてほっとした、ではない。こいつを心置きなく殴れるからだ……たとえ自分もダメージを受けながらであっても。
確証はないけど、こいつがサティの中にいたってことは、ゲーム『学園都市ヴァイス』からあまりに外れたこれまでのサティの行動っていうのも納得できる。何かを内から囁いていたのか、それとも以前から既に部分的には乗っ取っていたのか、詳しいことはわからないけど、関係ないと考える方が無理がある。
だからこそ、散々苦労させられた元凶を殴れるなんて、それは気分が良いに決まっているよね。
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