第368話

 ここが勝負どころと極度に集中しているからか、あるいはそろそろ怪我の状態が致命的になりつつあるからなのか、どちらが原因かはわからないけど僕の目には全てがスローモーションに映っていた。

 

 うろたえたようにしている白塊の揺らぎ、連鎖的に全体が崩壊していく天井の落下、そして壁全体に及ぶひびの拡がり。そういったものが全てゆっくりと動き、はっきりと見えていた。

 

 「――(この程度で)」

 

 当然というのもおかしいことだけど、ばらばらと落ちる瓦礫は一つとして白塊に当たることはなく、それこそ砂埃すら降り注がないようだった。

 だけどあの空間を捻じ曲げる防御については、さっき自分の魔法で確認した。数が多くなれば対処が甘くなるということははっきりと見て知っている。

 

 「ヴェント滞留スタレェ……」

 

 こんな簡単な魔法ですら発動が苦しいほどに消耗しているのかと、自分の状態に自分で驚きながら、頭上に留まる風を発生させる。これで多少の瓦礫なら防げるから大きなものだけかわせばいい。

 崩壊し続けるこの地下施設の部屋の中、改めて白塊の方へ視線を向けると、周囲に瓦礫の山を積み上げさせながら悠然とこちらを見ているようだった。もちろん人型をしただけの白い靄の塊には目なんてないんだけど、確かにそう感じられた。

 

 「――――(小賢しい真似をしても無駄。ただの自滅だ)」

 

 ……ふん。

 天井が崩れ始め、壁が軋んでいた時に、お前が揺らいでいたの見たからね。今は余裕ぶっているけど、あれは明らかにうろたえていただろうに。

 

 「……それに、これは下ごしらえだよ」

 

 徐々にスローモーションだった景色が元のスピードを取り戻しつつあるなか、僕は最後の気力――体力と魔力はもうほとんどないから――を振り絞って脚に集めた。

 

 「――?」

 

 空間の能力で崩落をしのぐ白塊は、今のこの状況が僕の自爆覚悟での攻撃だと思っているようだけど、ありえないね。

 自分の身がどうってことじゃなくて、僕が敵対した相手を成り行きで潰れるに任せるはずがないだろう?

 

 そして僕は、むかつく白い靄を自分の手で殴るために、骨が軋む程にきつく握った拳を腰だめに構えて、後先なんて考えずに前へと踏み出した。

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