第367話
「――(その精神力だけは褒めてやろう)」
相変わらず何を言っているのかわからない音を発する白塊の化け物だけど、その内容がなぜか理解できるものだから腹立たしい。
人型のそれはただ真っ直ぐに立ち尽くしているような姿勢で、腕の部分だけを無造作に振り回してくる。素人のケンカみたいな動作で、いくら速いといっても本来なら当たるようなものではない。たとえ空間を超越して迫ってくるのだとしても。
だからこそ最初の方はかわせていたのだし、今当たるようになってきているのはそれだけ消耗しているということになる。
いや、消耗というか、負傷しているからというところか。痛みは何とか無視して動けるけど、徐々に体が言うことを聞かなくなりつつあるのを自覚している。
目が慣れてきたのか、白く光る靄のような腕が振り上げられるのを見て、それがどういう風に迫って来るのか予測がつく。だからそれに沿って体を動かすだけで避けられるはずなんだけど……。
「くっ……そ、この!
だけど足が床に張り付いたようにとっさに動かず、離れた位置から突然目の前まで来た白い腕に頬を殴られる。とはいえ、よろめきながらも意地だけで魔法を発動して反撃する。
「――」
おそらく余裕のうなりをあげている白塊の脇を、何事もなく僕が放った火球が通り過ぎていく。もう何度目かもわからない攻撃は、やはりその軌道を逸らされて当たることはなかった。
「――(無駄だとは思わないのか?)」
「無駄だと思うのか?」
余裕であると誇示するためだけみたいな意味のない言葉に、こっちの意地を言葉にして叩き返してやる。
我ながら情けないことに、もう怒鳴るような余力もないからかすれた声になったけど、それでも言わずにはいられなかった。
「――?」
ふん、不思議そうにしているな。もやっとした白いだけの化け物のくせに、まるで人間みたいに首を微かに傾げたのが馬鹿にしているように見えた。
「わからないなら、教えてやるよ!
今度は大きな声が出せた。覚悟を固めてのことだからかもしれない。もうろうとする頭では自分の感情すらよくわからないけど、少なくとも魔法はうまく発動して、指向性もなにもなくただ威力だけが強化された暴風がボロボロになった部屋の中に吹き荒れた。
「――(足止めなど意味はない)」
首を元の角度に戻した白塊の化け物は、その言葉を証明しようとするかのように再び腕を振り上げる。
足元を揺らす振動と、重厚なものがぶつかり軋む大きな音が響いた。
狙いが成ったことに口端を吊り上げる僕の視界の中で、それは劇的に起こる。
「――!」
わずかに揺らいで、おそらくは驚いているのであろう白塊の頭上から、天井が瓦礫となって降り注いできた。
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