第366話

 ぼろぼろになってきた部屋の天井が崩れ、石の塊が降り注ぐけど、白塊の頭上にあるものはいつのまにか逸れて床に直撃していく。

 

 「――(抗うな)」

 

 さっきも聞いたようなことを言いながら白塊は殴りかかってくる。その白い靄で構成された腕はとても届かない距離だったはずなのに、気付けばそれは目の前まできていて、必死に飛び退いてかわすはめになる。

 

 空間を操る奴の能力は厄介だ。いや、厄介なんて言葉も生温いほどの世界に対する反則行為だ。

 

 「ヴルカ放出パルティィ……く、はぁはぁ……」

 

 何度も襲い掛かってくる腕を迎撃し、さらに反撃もする。だけどその魔法を三文字で放つ余裕もなくなってきた。

 相手の攻撃の苛烈さ故に魔法を構成する時間的余裕がないということではなく、魔力切れの症状がそれだけ深刻になってきたって意味で。

 とはいっても、火球をいくつも放って確認できた通りに、やっぱりこの能力をなんとかするには手数で対抗するしかなさそうなんだよね。

 

 「――(足が止まりつつあるぞ)」

 

 教師が生徒に指摘するような調子で白塊はさらに二度、三度と殴ってきた。

 

 「ぐっ、くそっ!」

 

 立ち尽くしたままで雑に腕を振っただけのそれは、空間を超越して僕の頭を打ち、肩や横腹に直撃する。

 悪態をついて痛みを思考から追い出すようにして誤魔化したけど、正直にいえば信じられないような威力だった。

 ここに辿り着くまでの戦闘で疲労し、負傷していたところにきて魔力も枯渇しつつある。体調ということでいうなら、今すぐベッドで横になって眠りこけたいくらいだ。

 

 「――(ふふふふふ)」

 「ぐぅ、がぁっ」

 

 ついに余裕すら見せ始めた白塊の攻撃は、腹立たしい気持ちはあるけどどんどんとかわしきれなくなってきていた。

 唸り声のような自分の声が、痛みからなのか怒りからなのかさえ自分でもわからなくなってくる。

 

 ……だけど別に、諦めたとか手だてが思いつかないということじゃない。

 

 「ヴェント放出パルティッ!」

 

 二文字ではあるけど、十分に威力を持たせた火球や風刃を放ち続ける。超越的な能力を使ってとはいえ、避けるということは当たれば効くということだ。

 なのに、僕の放つ魔法はことごとくが逸れていき、一つとして当たることなく白塊の脇を通り過ぎていた。

 白塊の化け物は相変わらず余裕の態度で、僕はというと体力も魔力もゼロに近いぼろぼろの状態。だけど、勝機はこっちにあるってことを、今にわからせてやるよ。

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