第365話

 一対一で、しかも限られた空間内での戦闘。こういう状況だと、まずは解析魔法を滞留制御で展開するのが有効なんだけど……。

 

 「ちっ」

 

 酷くなる一方の頭痛を、舌打ちをして不機嫌に振舞うことで誤魔化す。

 そんなことをしても痛みが和らぐはずもないんだけど、ここは意地でもなんでもいいから踏ん張るしかない。

 

 とはいっても、魔力を節約しているだけだと、こいつには勝てない。それはさっきの空間を操る能力を見て確信した。

 

 「――(諦めるのだ)」

 

 上から目線で何か言ってくる白塊の化け物に腹が立ちつつも、その感情を全て魔力に変換するような心持ちで一気に魔法を組み上げる。

 

 「ヴルカ放出パルティ強化フォルテッ!」

 

 弾数に強化を注ぎ込んだ火球の弾幕を展開すると、わざと狙いを甘くして分散させたそれらが白塊とその周囲に向かって飛んでいく。

 だけどそれらの内、白塊への直撃コースだったものだけが、いつの間にか逸れていた。

 

 「――(抗うな)」

 

 結果として僕が放った大量の火球は全てが当たるどころか掠ることもなく白塊の周囲に着弾していく。

 だけどそうなることは、さっき確認してわかっていたし、今更驚いたりするはずもない。

 

 「ヴルカ放出パルティ強化フォルテェ!」

 

 さっきの繰り返しで同じ魔法を同じように発動させ、そして発生した大量の火球がやはり同じように白塊の化け物へと飛んでいった。

 それらが着弾するよりも前に、さらに同じことを二度、三度と繰り返す。

 

 「――――(自棄になっても苦しむだけだ、諦めるのだ)」

 

 諭すような雰囲気とともに伝わってくる腹立たしい言葉を無視して部屋中を埋め尽くすような火球を放ち続け、その行き先を注視する。

 

 「……はぁ、はぁ、どうだ……これで」

 

 数に強化をまわして威力はそれなりの魔法だけど、相当な数をあちらこちらに放ったから、部屋の壁や天井がどんどんと削れていく。さっき燃やしたから既に殺風景にはなっていたけど、それがさらにボロボロの様相へとなっていった。

 一方で、降り注ぐ火魔法の中でそこだけ場違いに安全だった白塊は、突如その腕らしき部分を振り上げる。

 

 「――(止めろ!)」

 

 そう怒鳴ったと同時に、奴の周囲が歪んで見える。爆発とか衝撃じゃなくて、空間そのものを歪めたようだった。

 

 その魔法だか、能力だか自体には音はなかったけど、余波で天井が大きく抉れ、壁が砕ける音ががらがらと響き渡る。

 

 「――(誤りは正す。受け入れろ)」

 

 いかにも余裕ですという態度を崩さない白塊だけど、僕は今の空間歪曲をする直前にしっかりと見ていた。殺到する大量の火球はことごとくが逸らされて外れていたけど、段々とその軌跡が白塊本体に近くなっていたことを。そしてそれが無視できなくなった頃合いで、慌ててあんな強引な対処をしていたことを。

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