第364話
敵対しているなら容赦はしないし、ためらいもない。それは間違いないんだけど……。
「くるか?」
白塊――人型の白く光る塊――が、その腕に該当する部分を振りかぶった。タイミングをとるようにそれを口にしたものの、どうくるかがあまりにもわからないね。
「――!」
思念なのか実際の音なのかもわからない何かを発して、白塊は上げていた腕をこちらに向かって突き出してきた。右腕で突きを放ったような動作だ。ただし、向こうからこちらへの距離はそれなりにあって、ずんぐりむっくりとしてはいるけど人間とそう変わらない大きさの白塊がああしても手が届く訳もない。
「っ!
届くはずもない突きは、だけど当たり前のようにこちらまで迫ってきた。白塊が巨大化した訳でも、腕が伸びた訳でもないのに、気付けばその白い腕は目の前にきている。
空間を削り取るようなその不可解な動きに驚く暇もなく反撃しようとしたところで、頭をガツンと殴られたような激痛に苛まれた。だけど悠長に痛がっている暇もないから、無視して魔法の暴風を放って白塊を押し戻す。それでも思ったよりも若干威力が低かったことに不満と焦りが胸中に満ちていった。
どうやら、自分で思っているよりも魔力切れが近いってことみたいだ。
「――――(今楽にしてやる、もう生にしがみついて苦しむことはない)」
「……」
意味のわからない音で上から目線の言葉を放たれるのに腹が立つけど、一旦それは無視する。
さっきの攻撃……、原理なんてさっぱりわからないけど、とにかくこいつは空間を超越した攻撃ができるらしい。一方でこちらから触れることは普通にできるみたいで、とっさの風魔法で押し返して防ぐことはできた。
とはいえ、ああいう能力があるってことは……。
「
鋭く尖った岩塊をおもむろに放つと、それはまっすぐ飛んでいって――
「――(無駄)」
――途中で逸れて白塊の横を通り過ぎていった。
僕の立ち位置から白塊までまっすぐに岩塊を飛ばした。曲がって飛ぶような制御もしていない。
つまり予想通りに、あの空間を操る能力は防御にも使えるってことだ。魔法の基本として自分の魔力以外のものに干渉するのは難しくなるんだけど、相手の放った魔法は許容範囲ってことになる。とはいえ、直接僕の体がある空間を捩じ切ったりしないってことは、それはあいつにとって無理ってことで、それなら十分に勝機はある。
「ふん……ははっ」
頭に浮かんだ白塊の攻略法を今の状態では難しいと思考した冷静な判断を鼻で笑い、さっきからずっと上から目線でむかつく奴を踏みにじってやりたいという衝動に身をゆだねて口端が上がるにまかせた。
まあ、これで本当に最後だろうし、小賢しく考えるよりもやりたいようにやるだけってことだ。
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