第362話

 二重に唱えた強化のレテラを、全て火力を高めることにつぎ込む四文字魔法。

 焼灼する白ブレイジングホワイトと僕が呼ぶそれは、タメが必要で隙をさらす必要があるだけあって、単純な威力なら僕の手札の中でも圧倒的だ。

 さらにいえば、今の僕は一年前とは魔法制御の練度が違うから、高火力の白炎をただまき散らすというだけにはならない。現にこの部屋の天井や壁は炙られつつも、全部が溶けたり炭になったりしてはいない。魔法の威力を目当ての空間にある程度まとめられているということだ。

 

 そしてその目当ての空間、跳び下がったサティがいた辺りを凝視する。眩しさに目が眩むけど気にはしない。

 どうしても、前回のサティとの戦いが頭にちらついていた。白炎の中を、それが当たり前のことみたいにかき分けて進んできたあの姿だ。

 

 「……」

 

 だけど、今回はそうはならなかった。僕が放った渾身の魔法はしっかりと獲物を中に捕らえて極高温を発揮している。

 目が痛むほどの輝きの中が見通せている訳ではないけど、自分が発動させた魔法だから、そういう感触というのは察知できる。やっぱりこのサティは、別物だっていうことなんだろう。

 

 「ん?」

 

 だからこそ、一つ違和感もあった。

 しっかりと魔法の効果は発揮しているはずなのに、抵抗されているような感覚というか……。

 

 「…………」

 「まさか……、何だっていうんだ、こいつ」

 

 魔法の白炎が消えて、部屋の中にはただ熱気を残すのみとなったところで、姿を現したサティを見て愕然とした。

 いや、姿を現したというのは正確じゃないかもしれない。だって、全身が炭化してただの人型の炭となり果てているそれは、ただそこにあったというだけのことだからだ。

 だけど僕が発動して、確かに効果を発揮したそれは渾身の四文字魔法だ。特に中心部は太陽の表面にも匹敵するような温度となる。そこにさらされて形を留めているなんて、基本的にはあり得ない。あるとすれば魔法的な力……、つまりさっきまでのサティの体はそれだけ常識外れな魔力強化をされていたということなのかもしれない。

 

 そう考えると、思わず頬にも冷や汗が流れるってものだ。

 早めに倒そうと決めて、それがうまくいったからこれで済んだけど、もしまともな肉弾戦にでもなっていたら、すり潰されていたかもしれない。

 

 「一応、確認しておこうか」

 

 そんな想像をして、物言わぬ炭にも背筋が寒くなるような感じがしたものだから、確実に仕留められたことを確認しようと歩いて近づいていく。

 一歩ごとに全身の骨が軋み、体の中で火球が炸裂しているように錯覚するほど痛みが酷くなっているけど、こういうのは疎かにできないからね。

 

 「とはいっても……、こいつはどうなれば死んでいるってことになるんだ?」

 

 この部屋に入ってきた時に見た光景と、その後に血をまき散らしながら元気よく動き回っていた姿を思い出して、僕はそんな風に口にした。

 

 「まあ、蹴り壊して粉々にしておけばさすがに大丈夫かな」

 

 そうして一旦痛みからは目を逸らしつつ、僕は右足をゆっくりと持ち上げた。

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