第361話
左腕を貫いた刃は、そこからすぐに止まってその切っ先が僕の顔まで到達することはなかった。
純粋な戦士系ほどではないけど、僕だってかなりの身体強化を魔力でしている。それは筋肉や骨の強度そのものに関しても適用される話で、突きという攻撃を選んだサティの失敗でもある。
「突くなら必殺の一撃じゃないと、駄目だよ」
「ハナセ! ハナ、セ!」
表情は変わらず、でも焦ったような声でサティは引き抜こうと力を込めている。その動きの度に激痛というのも生温い感覚が腕から伝わってくるけど、放してやるはずもない。
というか、サティ――の中にいる奴――は、この装飾過多な剣を手放して距離をとるという思考はないようだ。僕が左腕を犠牲にして絡めとったことに動揺して、そこに意識が集中してしまっている。実戦慣れしている奴ならすぐに手放して、そこらに落ちている家具でもなんでも次の武器にすると思うんだけど。
サティを内から乗っ取った謎の怪物に対してこういうのもおかしいかもしれないけど……、能力の高さに驕った奴は付け入る隙があるってことかな。
「ハナセ! アヤマリィィ!」
こいつ意外と色々と喋れたんだなぁ……とか考えながらも、自分の中を循環する魔力を高め、収束させていく。
その魔力の流れを感知することができるのか、サティは焦りを深め、暴れている。
「ィィイ! アアアアァァ!」
「うっ、ぐぅ……こ、の……」
刺さった剣を手放すという思考はなくとも、それを引っ張る以外の選択肢は思いつくらしいサティが、手は柄に添えたままで何度も蹴り飛ばしてくる。
重傷を負っていた腹はもちろん、ヴィオレンツァからの攻撃を受けていた腕や脚もその度に軋み砕ける音が僕の体内で響いている。
だけど、既に負傷していた箇所を蹴られて僕の意識が飛ぶよりも、高めていた魔力が必要な状態になる方が早かった。
「ッ!? シヲ、モタラ、スゥゥゥゥ!」
ここでようやくその選択肢に思い至ったらしく、装飾過多な剣から手を離したサティが一歩、二歩と跳んで下がった。そしてすぐにその距離を攻撃力に変えるべく、反転してこちらに走り込んでくる。
だけど、残念だね。僕の方が早い。
「
目前まで迫っていたサティを一瞬で飲み込んだ白い炎は、そのまま広い部屋全体を焼き尽くしていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます