第359話

 「ん? ……くそっ」

 

 突っ込んでくるサティをぎりぎりでかわしたところで、風魔法でつけた傷が少し小さくなっているのが見えて悪態をつく。

 ただでさえ怪我を気にしないアンデッドと化しているのに、ゆっくりと治癒もしているのか。治癒というか、修復って感じだけど、まあそれはどうでもいいか。

 

 「ヲォォォォ!」

 「つぅ!」

 

 また剣の先が掠めて、僕の腕に傷が増えた。

 打開策を考えているだけでも、傷は増えるし、体力も徐々に削られていく。

 

 そもそも殴ったり蹴ったりで効率的にダメージが入るとは思えない――さっきの蹴りでも動きが鈍りもしなかった――し、三文字魔法の効果も見ての通りだ。

 となると、四文字か……。それもそう簡単に修復できないように焼き尽くす。以前にサティと戦った時にも切り札として使って……そして通用しなかった焼灼する白ブレイジングホワイトだ。

 

 「アアアァァァァ!」

 

 初めはまだしも意味のわかることを言っていたサティは、もはやただの異音を口から発しつつ暴れまわる。剣としての質は良くないようにも見えるあの装飾過多な剣の刃にはしっかりと魔力を通しているようで、部屋にあった調度品も、頑丈な壁でさえもすぱすぱと斬られていく。

 

 「ああ、このっ!」

 

 何回かに一回は傷を負いながらも、なんとかかわして立ち回る。とはいえ、剣筋もなにもない無茶な動きであっても、あの速さだ。このままだと強力な魔法を使うための時間を稼ぐなんて無理だろう。

 

 「――っ!」

 

 何度目かに大きく動いた時、それまでよりどこかが悪化したのか腹の内部で再び何かが爆発でもしたのかという痛みがあった。

 一瞬それで足が止まって、危うくサティの剣が直撃しそうになったからまた慌てて飛び退く。

 

 ……痛み、か。別にわざと受けた訳ではないけど、インガンノもヴィオレンツァも、傷を負いながら踏み越えてきた。ここにきて不測の事態があったからといって、僕の側が楽になるようなことなんてないよな。

 

 「シォォォ!」

 「……ふん」

 

 喚くサティを見て小さく鼻を鳴らした。サティの死んだ体を使って意味不明なことを言い続けていることに不満がある訳じゃなくて、小さくまとまった戦い方をしようとしていた自分を感じて苛ついたからだ。

 

 「おい、覚悟をしろよ。僕はもう、したからな」

 

 そして僕は、正気なんて欠片も残っていなさそうなサティに向かって言い放った。

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