第358話

 「シィィ!」

 

 距離が離れるとすぐにまたサティが装飾過多な剣を振り回しながら突進してくる。不自然に引きずられるような動きで、しかも剣筋だってめちゃくちゃだ。

 

 「くそっ、やっぱり速くなってる!」

 

 飛び退くようにしてかわしながら不満を口にする。どうやら駆け引きどころか会話も成立しない相手みたいだから、思ったことを口にしても不都合はないだろう。

 というか、今ので一気に速くなった。不自然な動作の読みづらさも相まって、かわし続けることも難しいと思えた。

 

 「ヴェント放出パルティ強化フォルテっ!」

 

 それでもさっきのをうまくかわせたことでできた隙を利用して、三文字の魔法を発動する。風の刃を内包した暴風が膝をついた体勢の僕から次の攻撃に移ろうとしていたサティへと向かって吹いた。

 動きを止めつつ切り刻む魔法は、不定形ゆえに範囲が広くて避けづらく、必殺とはいかないけど確実に傷を負わせる。

 

 「イィッ……!」

 

 サティはよろよろと下がり、全身に切り傷を負いながらもさすがにそれに怯んだ様子はない。

 というか、切り傷から若干の血が流れているけど、噴き出したり流れ続けたりはしていない。なかには深い傷もあるように見えるけど……。

 当たり前といえばそうだけど、もうサティの心臓は止まっているみたいだね。動く屍……アンデッドみたいになってしまっているってことか。

 

 となると、半端に刻んでも血を流させて消耗させるということはできないし、打撃も基本的には効かないだろうね。

 切るにしても打つにしても、中にいる奴があの体を動かせなくなるくらいに損傷させることが必要だ。

 

 「シ、……ヲォォォォ!」

 

 跳び上がって放物線を描きながらサティが剣を振り下ろしてくる。

 

 「おら!」

 

 速いけどこれは大げさな動きだったから反応しやすかった。半身になって斬撃をかわしつつ、同時に左足を突き出して足刀蹴りをカウンターで叩き込む。

 ぼきりと鈍い音がして、脚にもサティの肋骨が折れた感触が伝わってくる。

 

 「アヤマリ……タダァスゥ!」

 

 おそらく内臓に折れた骨が刺さったと思うんだけど、サティはというと一瞬動きを止めただけですぐにまた剣を振り回そうとする。

 

 「っ! いっつつ……」

 

 慌てて下がったけど、今度はとっさに魔法を放つ余裕もなかったから、加速し続ける動きをかわしきれずに頬と二の腕を浅く斬られてしまった。鋭い痛みがあったけど、それだけだ。あの装飾過多な剣に毒が塗ってあるわけでもなく、痛みの度合いでいえば元から体内で響いているものの方が断然大きい。……とはいえ、とうとうかわしきれなくなってきたか。

 正気を失って何かに憑かれたサティなんてただの化け物だし、早々に押し切るだけだと思っていたけど、これは中々骨が折れるね。

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