第357話

 「ヴルカ放出パルティヴルカ放出パルティ、……ヴルカ放出パルティ

 

 サティとの距離を保ったまま横に走りながら火魔法を連発する。痛みを無視しても動きまで万全とはいかない。だけどこの位の状態だと、短時間なら全力で動くこともできそうかな。

 だとすると機を見て仕掛ける……いや、うまく機を作るべきだ。

 

 それに一つ好条件も見つけた。サティのあの特殊能力だ。消滅のレテラを使うこともなく魔法をかき消すあの厄介な能力。あれがどうもこの状態になってからは使えない様子に見える。さっきはわざわざ剣の風圧で対応していたしね。

 結局試す機会もなかったからわからないけど、体の中に通すタイプの疾風王エアランナーでも、直接触れられたら解除されたんじゃないかと予想していた。だからサティと戦う時には魔法を目くらましにしたり足元を崩したりとか、そういう使い方を考えていた。

 だけどどうやら、この点についてはいい意味で予想が外れたことになる。

 

 「シィィィィヲォォォォォォ!」

 

 やはり剣に振り回されるような奇怪な動きで、サティはぐるりぐるりと数回転して複数の角度から打ち込んだ火魔法を打ち消した。

 だけどその内のいくつかは消しきれなかった火がサティの服を僅かに焦がすのを見た。かすり傷にすらならなかったけど、魔法が普通に通用するということはこれで確認できたってことだ。

 

 「ィィィィッ!」

 「ちっ! ヴェント滞留スタレ!」

 

 再び切っ先をこちらに突き込んできたサティをかわし、予想通りに段々と速くなっていることを感じて舌を打った。だけどまだ当たるほどではなく、反撃に風魔法を互いの間で発生させた。

 サティの側には風の刃が吹き荒れ、僕の側には単純な風圧が発生する。二文字での複雑な制御。こういうのは本来は実戦で使えないほどに困難な魔法だけど、得意な風属性であれば僕ならこれくらいはできる。

 

 「…………」

 

 期待通りにサティには傷を負わせることができ、僕はうまく風に乗って距離をとることができた。

 だけど大きくはない切り傷をいくつかつけたところで、ダメージというにはほど遠いものだったように感じる。なにせサティはというと不気味な無言で立ち尽くしているだけだし。そもそも最初から首に致命傷がある状態で戦い始めたっていうのに、多少の怪我は今更かな。

 

 段々と動きが速くなり、その人間らしくない不自然さは増していっていることに焦りを感じる。早く仕留めるという方針は決めて動いているけど、肝心の決め手がない。

 さて、どうするか……。どうすれば、あの怪物を殺せる……?

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