第356話
「ワ、ワレ……シチテンノ……オサァ……ガ……シヲ……モタラァ……ス」
さっきから相変わらず歪んだ声と頓狂な発音でたどたどしくサティ――だったもの――は何か言っている。まあ喉が潰れるどころか穴が空いているから、喋っているだけでも驚きなんだけど。
「何言ってるかわからないんだよ、君」
僕がさっき言ったのは“こいつ”にじゃなかったから、別に返事や反応は全く期待してなかったんだけど、それはそれとして露骨に無視されれば苛つきはする。
「……っ。ふん……
殴りかかる構えをとろうとして、体中が酷く痛むことを思い出して一瞬だけ動きが止まる。その事を殊更に無視しようと不機嫌そうな表情をして鼻から息を吹き、遠距離攻撃できる魔法に切り替えて詠唱した。
二文字詠唱は威力は低いし特殊な制御をする余地もないけど、その代わりに発動が早い実戦的な魔法だ。今も直前まで魔力の流れを隠しつつ、詠唱を口にするのとほぼ同時に放つ不意打ちだった。
「ム、ムダァ……」
話し方のたどたどしさとは打って変わった機敏な動きで、サティは剣を振って飛んできた火の玉をかき消した。
ただ機敏ではあるけどとにかく不自然さを感じる動き方だ。さっき斬りかかってきた時にも思ったけど、人形を糸で吊って操っているような。まあ、実際にそういう動き方なんだろうけど、とにかくこれが予測しづらい。生き物が動き出す時にある予備動作というものが、全くないところから急に動くものだから、身構えたりする余裕がないんだよね。
それに二文字とはいえマエストロである僕が放った魔法の火球をかき消した。あれはそれなりに威力というか勢いがないとできないことだ。
「……ん?」
警戒していると、今度はサティが剣の切っ先をこちらに向けてくる。その素振りはさっきもされたけど、今回は何かを言ってくるでもない。そこに――
「シィィィィ!」
「わっ、と」
――そのまま突っ込んできた。もちろん切っ先はこちらに向いたままだから、突きのような形になる。
とはいえ、剣技でいうところの突きとは何もかも違うその動きは、剣が勝手に突っ込んで体の方はそれに引きずられているようにすら見えた。
今のは驚いたとはいっても余裕を持ってかわすことができた。だけど最初に斬りかかってきた時よりも少し速くなっているように感じた。その分だけ動きの歪さも増したように感じたけど……。
サティを乗っ取った奴があの体に馴染みつつある?
根拠はないけどそう直感して、僕は床を踏む足に力を込めた。
得体の知れない相手だからまずは様子を見て隙を探ろう。そう考えていたけど、作戦は変更だ。こいつはできる限り急いで倒した方がいい。
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