第354話
別にここまでと構造は変わらないと思うんだけど、最奥に続く扉はやけに重々しい音をたてて開き始める。
予想通りであれば、この最奥にサティが待ち構えているはず。というか、ここまできてもし、どこかから逃げ出していれば、それはそれでその事をフルト王国の裏社会中に言い触らしてやるだけだ。
そんなことをいうと子供染みた行動に聞こえるけど、面子を潰されれば裏社会の人間としてはもはや死に体だ。だからそれはあり得ない。
実際ここまでの消耗もあるからわざわざ魔法を発動させてまでそんなことを探る気はないけど、副次効果で感じられているだけでも扉の向こうから気配はしている。
「さて、ここで最後だ」
向こうからするともちろん気付いているだろうから、堂々と声なんて出しながら扉を最後まで押し開く。
「がっ、ぐっ、この……っ!」
聞き覚えのある憎らしい声が、あがき抵抗していた。
え?
最奥の部屋に入るなり目に入ってきた光景に驚いて、とっさに声も出なかった。
「ぐぶ……げばぁっ!」
恐らくこの部屋に飾ってあったのであろう装飾過多な長剣を、サティが切っ先の方から飲み込んでいく。
さっき入ってきた瞬間には刃の部分を血を流して握ったサティが床に膝をついていたんだけど、その直後に飲み込んだものだから、こちらは混乱している。
もちろん、人間は長剣の刃を飲んだりなんてできない。だから実際には僕の目の前でサティは血を吐き、もがき苦しみ、そしてずぐりという音がして首の後ろ側から赤く濡れた刃の先端が飛び出した。
「なに……を……?」
「……」
かすれた声で疑問を口にした僕に見せつけるように、糸で吊られた人形のように妙にかくかくとした動きでサティは無言で長剣の刃を引き抜き、柄の方へと持ち替えて立ち上がった。
行動の理由が全く分からないということは置いておいたとしても、口から後頭部へと長剣で貫けば人は死ぬはずだ。
なのにあいつは口から大量の血を溢れさせながらも、立ってこちらを見ていた。
「なんだ? ……誰だ、お前はッ!?」
半分怒鳴るようにそう聞くと、サティは自分の血に塗れた切っ先をこちらに向けて口を開く。
「ワレハ、セカイノアヤマリ、ヲ、タダス、モノダ」
潰れたはずの喉ではっきりと、しかし人間的なものには程遠い発音で途切れ途切れに、そいつはそう言ってきた。
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