第353話

 ヴィオレンツァはインガンノと違って策を弄するようなタイプではないから、一旦戦いとなれば真正面からのぶつかり合いだということはわかっていた。

 だから実際に、一度有利になった展開が覆されるようなこともなく、そのまま押し切って勝つことができた。だけどそれは楽勝だったという意味ではないし、だからこそ無傷で乗り切るなんてことも不可能だった。

 つまり、ヴィオレンツァが控えていたこの部屋に入ってきた時でも大怪我をしていたけど、出ようとしている今となっては満身創痍といった状態になっていた、ということだ。

 

 「はぁ……はぁ……くっ、はぁ……」

 

 荒い息の途中で、突然大きくなって体に響く痛みに時折足を止める。

 楽なことをしに来たつもりは最初からなかったけど、これはなかなか……きついね。

 

 そしてその部屋を出たところはやっぱり短い廊下になっていた。

 僕が知っている――かつて思い出した――ゲーム『学園都市ヴァイス』でのラストダンジョンとこの場所が同じなら、先に見えている扉を開ければ最奥であるドンの部屋だ。

 入る前から思わぬ門番がいたり、ここまでも色々とあったけど、構造自体は基本的には変わらなかった。だからまあ、多分それであっているはず。

 

 ヴァイシャル学園に通っていた一年前に、おそらく邪魔者を一度に消す作戦としてカミーロ殺しの犯人に仕立て上げられてしまった。そこから逆転して僕と仲間達がたとえ裏社会の中であっても生きていけるように、そして何より舐めた真似をしてくれた連中に落とし前をつけさせるために、僕はここまで来た。

 言ってしまえば成り行きという面もあったのだけど、考えて見れば結局これは避けては通れないことだった。なぜなら僕の行動原理というのは、結局は悪役貴族として宿命づけられた死の運命――死亡フラグ――をなんとかしたいってことなんだから。

 だから、どうしてかゲームにない展開になっていたとはいえ、パラディファミリーというものとは向き合わざるを得なかった。それが『アル・コレオ』の死に大体の展開で関係するものだったしね。

 

 とはいえ、ドン・パラディことサティは何を考えているのやら……。

 僕やかつて戦ったメンテみたいに前世の記憶を思い出しているならゲームにない変な行動もわかるけど、おそらくサティはそうではない。あいつがそうであるなら、最初に会った時点で何かを仕掛けてきているはずだし、その後もゲーム知識に由来するような行動の気配はなかった。

 

 ……さて、色々と考えたおかげで少なくともさっきの戦闘の疲労は抜けてきた。

 せめて常備している魔法薬が使えれば、腹の痛みもましになっていたんだろうけどね。事象空間トコヨノコトワリを使ってしまうと、その範囲内にある魔法薬も効果が抜けてしまう。魔法道具は空間から出れば大丈夫で壊れたりはしないんだけど、魔法薬は一瞬でも効果範囲にさらされると駄目なんだよね。

 まあない物ねだりの思考が出るのも少しは余裕が戻ってきた証拠かな。

 ついつい色々と頭の中で考え込んでしまうのは僕の癖だけど、それで最悪の状態から少しでも気が紛れるなら悪くない癖なのかもしれない。

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