第351話
「おぉらあァ!」
いくつもの拳打を一瞬の内に叩き込みにかかる。
「ははっ、あははははははは!」
嬉しそうに哄笑するヴィオレンツァが、一つ、二つと重い拳を打ち返してきて僕の攻撃を相殺した。
「っ、これなら!」
左右に高速移動してヴィオレンツァの視界から外れ、見えていないであろう方向から前蹴りを突き込む。
「つあっ!? 危ない、危なかったですよ、今のは!」
ほとんど当てずっぽうみたいに振り回されたヴィオレンツァの腕が、今にも横腹に突き刺さろうとしていた僕のつま先に激突し、その馬鹿げた衝撃で姿勢を崩した僕は一旦距離をとった。
速さなら完全に僕が上。だけど力では向こうが圧倒しているから、総合力では拮抗している。
他の幹部達を相手にしていたなら、向こうが隠している罠や切り札を警戒しつつ、こちらからも不意を突くような行動を模索していたはずだ。
だけど、ヴィオレンツァを相手にする限りはそういったことは必要ない……どころか、悪手ですらありそうと思える。
「当たれよ、デカブツがァ!」
「あははっ! 届いていませんよ、アル殿!」
口では衝動のままに荒れたことを口走りつつ、だけど手足は的確に動かして攻撃を繰り出している。対するヴィオレンツァは嬉しそうに笑いをこぼしつつ、力で対抗してくる。
互いの攻撃は全く当たらないということはなく、こちらの攻撃は何度かは既に当たっているし、向こうの攻撃は何度かかすったり防御させられたりしている。
それで消耗度合いが互角――最初から怪我をしていた分こちらが不利ともいえる――だというのは、腹立たしいものだね。
そういえば、ヴィオレンツァは今でも僕のことを「アル殿」と呼んでいるんだな。パラディファミリーからすれば襲撃をしにきた時点で……いやそれより前から僕は完全に敵だと思うし、他の幹部はそういう対応だった。
そこからわかるのはこのヴィレンツァがとことん武闘派だということだろう。要するに、組織としての筋よりも、戦う相手として満足できるかどうかしか頭にないんだろう。表向きはドンへの忠誠心が高い幹部として振る舞っているけど、結局はそういう人間に見える。
「気が逸れていませんか? 隙がありますよ!」
「うるっ……さいな!」
ヴィオレンツァの裏拳が僕の肩に激突してその衝撃にくらくらとしつつ、無理やりに体勢を立て直して一瞬で三発の拳を腹に叩き込んでやる。
互いに攻撃を受けつつもまだまだ倒れそうな気配はなく、力と速さというそれぞれの強みを活かして互角の殴り合いを続ける。……だけど、ここまでのやり取りで僕は己の勝利を改めて、そしてより深く確信していた。
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