第350話
これほどの負担が全身にある
まあ、ない物ねだりはしても仕方がない。
「っ!」
奥歯をきつく噛んで、前進を開始する。大声を出して自分を鼓舞して相手を威圧するようなこともできない。叫ぶと痛むからね。
「……」
集中したことで一瞬が長く引き伸ばされたような感覚の中、ヴィオレンツァが口端を引き上げたのが見える。
獰猛な笑み、といった感じでいかにも暴力性を感じさせるようなものだ。要するに、こっちの動き出しを見て手ごたえを感じたからうれしくなって笑むのを抑えられなかったってところか。
こういう戦闘狂タイプっていうのは、味方にいれば頼もしいけど敵になると厄介極まりないね。脅したり怒らせたりして手玉にとることができないから、結局正面から戦う以外に選択肢がない。
嫌がっていても立ちはだかるヴィオレンツァは消えてくれないから、僕はそのまま魔法によって強化された体で高速接近して、右腕を振り上げる。
「……いいですね」
「いってろ!」
さっきと同じような攻撃を選んだ僕に対して、ヴィオレンツァはやっぱり嬉しそうにして笑みを深める。それに対して敵意を叩きつけるようにして言い返しつつ、右の拳を振り抜いていく。結局を声を出したことでやっぱり痛いんだけど、余裕ぶった態度に言わずにはいられなかったし、仕方がない。
僕の動きに応じて、ヴィオレンツァもやはり右腕を振り上げ、その拳を叩きつけるべく打ち出してくる。
こっちが選んだように、向こうもまたさっきと同じ動きだ。
だけどさっきとは違って魔法の岩に覆われていない僕の素の拳が、ヴィオレンツァの厳ついそれと激突する。
「っ!」
「ははっ!」
今度は押し返されずにその場で拮抗する。
だけどこっちが無視しきれない痛みに歯ぎしりしてるっていうのに、ヴィオレンツァはというと嬉しそうに笑っていやがる。
とはいえ、そのヴィオレンツァの笑顔の頬には汗が伝っているのも見える。今の僕との衝突では余裕ばかりではないし、そうであるから嬉しくなったってとこだろう。
まあでも結局腹立たしいという感想に落ち着くよね。こっちが殺そうとしているのに楽しそうになんかされると。
一旦、互いに拳を引いて距離をとった。
多少の無理をした甲斐あって、
そう確信して、僕は次の衝突に向けて構えた。
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